第27話 くまああああ(物理)
どうしよっかなあ……。
視界が真っ黒に染まる中、俺はどう動くか思案していた。
時折バチバチと紫電が奔り、猫耳さんの顔が確認できる。
彼女は気絶しているだけで命に別状はなさそうだ。
ただし、今のところはだけど。
ブラックスライムに取り込まれた俺と猫耳さんはずっとHPを奴に吸い取られている。
といっても微々たるもんで、猫耳さんはブラックスライムに取り込まれたショックで気絶しているだけだった。
俺は……驚くことでもなかったんで、冷静に状況を分析しているのだが……。
まず俺と猫耳さんの状況だが、急いで脱出する必要性はないんだ。
というのは、ブラックスライムの中は液体ぽいんだけど、不思議と息ができる。
なので、HPが吸い取られ尽くすまでは差し当たり問題はない。
だけど、脱出する方法が問題なんだよなあ。
ご存知の通り、ブラックスライムはやたらと防御力が高い。内側から俺が「ふがあああ」っと力を込めて脱出することは……できるけど、やると外にいるミーニャ達に見られてしまうんだよな。
俺のレベル設定は六十で、彼女らより若干低い。
そんな俺が苦もせずブラックスライムを内側から粉々にしたらマズイだろうに。
「ごぼごぼ」
声が出せるか試してみたけど、水の中にいるみたいに声が出ない。
スキルは使えるのかな?
いいやもう使えることにしてしまおうじゃねえか。
その時、俺はそもそもなことに気が付く。
猫耳さんがピアシングショットでブラックスライムを攻撃したのは……コアを潰すだめだ。
じゃあ、俺が代わりにコアを握りつぶせばいいんじゃね?
無我夢中で剣を振り回してたら、たまたまコアに当たった。
よし、これで行こう。
猫耳さんを離さないように右腕で彼女を抱きしめ、左右を確認。
……真っ暗で何も見えない。
気を取り直して稲光を待ち、コアを探す。
お、あったあった。
左腕を伸ばし、コアを握る。
な、なにいいいい!
その時突然、コアが光り輝き始めたじゃねえか!
これは何かマズイ予感がする。
慌ててコアから手を離し、見られるのも構わずに顔をブラックスライムから突き出した。
「鈴木!」
叫ぶ。
いるんだろ、たぶん。いや、いてくれよ! いなくてもすぐ来い!
奴が来るのを確認している暇はねえ。
そのまま外へ出て、猫耳さんをそっと床に寝かす。
ちょうどその時、紫色の煙が辺りを包み込む。
「助かった! ありがとう」
「フッ。我にかかれば容易い事」
じわりと床から黒い染みが浮き出し人型を形成した。
鈴木だ。
さっきの紫色の煙は鈴木のスリープの魔法で間違いない。
彼の魔法はスイと比べると天と地ほどの差があるが、トランスしていないハンター達を眠らせるなど造作もないんだ。
「鈴木、彼女らを頼む」
「任せておけ」
鈴木の様子を確認せず、俺は前を向きすうううっと大きく息を吸い込む。
「真の姿を開放せよ『トランス』」
俺の体から白い煙があがり、シロクマへ転じる。
「くまあああ!(なんじゃこらああ)」
ブラックスライムが別のモンスターにチェンジしているじゃねえか。
色こそそのまんまだけど、形が身長三メートルほどの人型になっている。
ま、まさか、こいつは。
「くまああ(スライムノイド・ブラック)?」
戸惑っていたら、人型スライムの口を開き三日月の形になった。
「スパーク・エクスプロージョン」
萌え声で呟かれた魔法が効果を発揮し、天から雷が降り注ぐ。
おいおい、マジでスライムノイドなのか?
ブラックスライムだったなら、魔法を使わない。
「くまああ!」
右腕を振り上げ、落ちてきた雷をペシンと振り払う。
雷に触れた肉球の辺りが爆発し、爆風が俺の白い毛を撫でる。
さすがにノーダメージとはいかなかったが、シロクマの俺にとっては蚊に刺された程度だ。問題ない。
スライムノイドとはいえ、こいつはブラックだ。ブラックスライムと同じように防御力特化タイプなのは変わらない。
くまーパンチは叩き攻撃だから、スライムとの相性は最悪。
だが――。
右脚で踏み込み、勢いよく左腕を振り上げスライムノイド・ブラックの胴体へ向け勢いよく振り下ろす。
ドガアアン。
真っ二つにスライムノイドを切り裂き、返す右のくまーパンチで奴の頭を砕く。
「くまあああああ!」
勝利の雄たけびをあげ、両手を天へと振り上げる。
俺にかかれば防御特化など意味はねえ。はははははは。
黒い染みを見下ろしていたら、後ろから鈴木の声が響く。
「相変わらずの馬鹿力だな」
「くま!」
「安心しろ。迷える子羊達は既にこの場にいない」
「くまああ(トランス解除)」
ついつい解除をすることを忘れていたぜ。
シロクマだと会話できないからな……。
「あ、どうしよう。二十五階の扉が使えないよな、彼女達」
「いや、そうでもないようだぞ。ブラックスライムが変化しただろう? あの時にフラグが立ったみたいだな」
「そっか。そら良かった!」
彼女達は次回二十五階から挑戦できる。彼女達の目的である素材集めと二十五階のフラグの両方を達成できたってわけだ。
「お前……この現象を検証しないのか?」
鈴木が呆れたように苦言を呈す。
話はこれで終わりだとばかりの態度を取ったから勘違いさせたかな?
俺はスライムが変化したことを調査しないとは言っていない。
「まずはみんなに報告する。その後、検証ができるならやろうぜ」
「うむ」
◆◆◆
ミーニャ達をエレベーターで教会に運び込み、意識が覚醒するのを待つ。
彼女らは幸い怪我をしていなかったから、治療せずともよかったんだ。
「ん、んんん」
最初に目を覚ましたのはミーニャだった。
彼女は目をぱちくりさせ、自分がどこにいるのか確かめている様子だ。
彼女はすぐにここが先ほどの小部屋ではないことに気が付いたようで、目を見開き体を起こした。
「案内人さん、ここは?」
「ここは教会です。ブラックスライムを倒した時にみなさんが気絶したので連れて来ました」
「え、えっと……」
「連れて帰ってくるのも俺の仕事のうちですんで」
「アイテムボックスとか、帰還とか凄く変わったスキルを持っているのね」
「え、ええ。まあ……」
はははと頭の後ろをかく。
一応、依頼を受ける時に一通り俺の能力を説明している。
能力とはアイテムボックス、気絶した時には教会へ帰還する能力、道先案内の三点セットだな。うん。
曖昧な笑顔をミーニャに向けていたら、後ろに体重がかかる。
「うおっと……」
「案内人さん、ありがとうにゃー!」
背中に幸せな感触が。
後ろから猫耳さんが俺を抱きしめているようだ。首元にかかった腕が締まって来ていて少し息が……でも、それがまた良い!
「無事でよかったです」
「案内人さんが助けてくれなかったら……みゃーは死んでいたかもにゃ」
ちゅっと後ろから頬っぺたに。
うおお、うおおおおお。
やっててよかった案内人。
「ルッカ。嬉しいのは分かるけど、それくらいに、ね」
「えー。案内人さん、嫌そうにしてないにゃー」
肩に体重がかかったかと思いきや、猫耳さんの頬っぺたが俺の頬にいい。
「案内人さんには可愛い彼女さんがいるんだから」
「そうなのかにゃー。残念……」
「は、ははは……」
そういや、ミーニャはスイと一緒に飲んでいる時に依頼をしてきたんだっけ……。
ま、まさか、ここで足かせになるとは。
ギリギリと悔しさから歯ぎしりする俺であった。
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