第19話 いろんなパーティがおりまして
案内人をしているといろんなパーティに出会う。
慎重なパーティ、この前みたいな罠を外すことさえしない無警戒なパーティ、自分のレベルも省みずガンガン突き進む無謀なパーティ……。
まあ、いろいろいるもんだ。
今回依頼を受けたパーティは……俺がこれまで出会った中でも一番特殊かもしれない。
男四人に女の子四人の計八人を引率することになったのだが……彼らは元々一つのパーティではないんだ。
八人となると大所帯過ぎて小回りが利かなくなり、持っていく物資やらパーティ内での役割が被ったりと……効率が悪くなってしまう。
なので俺がこれまで見たハンターのパーティは多くても六人までだった。
彼らも御多分に漏れず四人と四人のパーティだと言う。
じゃあ、なんで八人なのかってっとだな……。
「どうも、俺、ヨシタツって言います」
「あたしはミーニャよろしくね」
なあんて、お互いに自己紹介をしていやがるじゃねえか。
これはだな。
彼らは神聖なるザ・ワンで、合コンをしようとしているってわけなのだああああ。
な、なんという羨ま……けしからん。
女の子たちは、みんな獣耳さんたちで……ちくしょううめええ。
おっといかんいかん。
仕事、仕事をせねば。
「それでは、案内します」
彼らから見えないように後ろを向いてギリギリと歯ぎし、振り向き笑顔を見せる俺であった。
なんというプロ根性。我ながら惚れ惚れするぜ。惚れてもいいぜ?
◆◆◆
そんなこんなで、やきもきしながら二階層にやってまいりました。
あああ。もうこいつら全員、俺自ら気絶させて……ダメだ。それだとカルマが入手できねえ。
「モンスターが来ますよ?」
俺の言葉が虚しくこだまする。
男どもは女の子の興味を引くのに必死だし、女の子はなんかこうきゃぴきゃぴしているだけで「こわーい」とか言ってるし……。
「よおし、俺がヤルぜ?」
長髪の若い男がさっそうと前に出る。気障ったらしく格好をつけているつもりだろうけど……濃すぎる顔とずんぐりした体躯には似合っていないな……。
この男の名前は……忘れた。
「きゃー」
にもかかわらず、黄色い声が一斉に。
肩をいからせ、腰の剣を抜き放つ長髪の男。
対する相手は二階層でも最弱……つまり、大迷宮でも最弱のモンスターであるグリーンスライムさんだ。
グリーンスライムはぽよぽよんとしたエメラルドグリーンのグミみたいなモンスターで、楕円形の体をしている。
大きさは高さが五十センチ、横幅が長いところで八十センチってところ。
人間形態の俺であっても、足で踏みつけるだけで仕留めることができるモンスターだな。
「おっと」
長髪の男はぽよーんと飛び跳ねたグリーンスライムの一撃をまともに腹へ喰らう。
しかし、「効いてないぜ」てな感じで後ろを振り向きキラーンと歯を輝かせた。
早く倒せよ……。
俺の願いが通じたのか、彼はもう一発膝にグリーンスライムの攻撃を受けた後ようやく剣を振るう。
――バシュ。
止まって見えるほどの鈍い攻撃だったが、グリーンスライムへヒットする。
一発では倒せず、結局三回で彼はグリーンスライムを倒したのだった。
「きゃあああ!」
黄色い声援がまたしても。
く、ぐうう。
堪えろ、俺!
スライムを倒した長髪の男がこちらに戻ってくると、ワザとらしく腹を抑えながらもう一方の手で髪をかきあげた。
「大丈夫? 怪我してるんじゃない?」
狸耳の女の子が上目遣いで彼を見上げる。
「フッ。これくらいなんともないさ」
……。
俺の拳がプルプルと震えた。
「いやーん。つよーい。トンヌラさーん」
といいつつ狸耳の女の子は彼のお腹をさすり、呪文を唱える。
彼女の手のひらから緑色の光が放たれ、彼の傷を癒す。
「ありがとう。レディ。助かるよ」
ウィンクをするな!
はあはあ……。もう俺はダメかもしれん。
「お兄さんたちだったら、ボスも倒せちゃうかもにゃ」
両手を胸の前で組みぱああっと笑顔を見せる猫耳の女の子。
「ボスに挑みますか? 案内できます」
投げやりに長髪の男へ言い放つと、彼は「ふむ」とか顎に手を当てて考え込む仕草をする。
大迷宮「ザ・ワン」には各階層にミニボスがいるんだ。こいつらは同じ階層のモンスターより若干強いが単独で出現する。
「どうせやるなら『階層ボス』まで案内してくれるかな」
「あ、はい……距離もありますので一直線に進むことができる道を案内しますね」
「そうしてくれたまえ」
階層ボスかあ。階層ボスはミニボスと違って五階層ごとに出現する。最初の階層ボスだけ例外で五階層で出て来るんだ。
以後は十階、十五階……と続く。
階層ボスを倒さないと次の階層へ続く階段が出現しない仕組みになっている。
これとは別の話だが、ボスにはもう一種類いて五十一階、百一階……と五十階層ごとに出現するラダーボスってのがいたりして……。
ラダーボスは倒すと一階層まで戻ることができる扉が開く。一度この扉を開いておくと二ヶ月間、二階層のとある地点から扉を開いた階層までワープすることができるんだ。
真面目に攻略するにはラダーボスを倒して行くのは必須と言えよう。
だって、大迷宮は広いからさ……。俺たちみたいにアイテムボックスがあるなら別だけど、ハンター達だと荷物の関係上、中に籠ったとしてもせいぜい一週間だ。
途中昼休憩を挟み、俺の案内でなるべくモンスターを避けながらやってまいりました五階層まで。
このころになると、最後尾を歩く二人がいい雰囲気になっていて……残った六人は相変わらずきゃいきゃいしていた……。
後ろ、後ろがとても気になる。
手を繋いでたまに見つめ合ったりしちゃってさあああ。
あれは最初に自己紹介していた二人だな。えっと確か……ヨシタツってイケメンとウサギ耳のおっぱいが大きい女の子だ。
美男美女かよ。ますますイライラする。
「この扉の奥に階層ボス『ゲイザー』がいます」
もうどうにでもしてくれという気持ちで彼らに告げる。
「案内ありがとう。荷物持ちの青年」
ふっと鼻を鳴らし長髪の男は扉に手をかけた。
後ろに続く二人の男達。
犬、猫、狸耳の女の子三人は男の後ろに控える。
「ミーニャちゃん、俺達の愛の魔法陣を見せてやろうぜ」
「うんー。ヨシタツくんー」
後ろのカップルが砂糖をはいていた。
あいつら魔法使いだったのね。
ちなみに、俺はまだ彼らの職業を把握していない。把握するつもりもないがな!
あの二人、一本の杖を二人で持っているけどあれで魔法が発動するのかな?
どっちでもいいか……。
彼ら全員が扉の中に入るのを待ってから、俺も中へと入る。
扉の中は小部屋になっていて、広さは三十メートル四方といったところ。
中央には巨大な目玉が宙に浮いている。瞳の色は黒色で目玉を黒いモサモサした毛が覆い、下側に尻尾のように毛が伸びていた。
あれがゲイザー。最弱とはいえ階層ボスなので人間形態かつ初級者なら注意が必要なモンスターだ。
「ゲイザーは特殊能力があるので注意してくださいね」
一応、言わなきゃなんないことを言ったけど、誰も聞いちゃいねえ。
「行くぜ。俺たちのラブラブファイアー」
「うん」
「燃やし尽くせ! 愛の炎で。出でよ。ラブラブファイアー」
「ファイアー」
……。
ヨシタツとやらとウサギ耳のミーニャが愛の炎を発動させたけど、あれは普通のファイアだよな。
しかし、二人の愛はゲイザーに届く前にかききえてしまった。
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