第17話 道が無いならくまああ
「ご神体のことは後から考えるとして、スイの気になっていることって何だろ?」
「説明するには……そうね。ほし。例のアレを」
「任せろ」
スイが鈴木に話を振っただとおお。
碌なことにならなきゃいいんだけど……。虚ろな目をしていたら、鈴木が腰のポーチに手を突っ込んで
続いて彼はスクロールの端を掴んで下に向ける。
スクロールはスルスルと広がっていく。
「地図か」
「そうよ」
ま、まさか。鈴木が役に立つ物を一発で出して来るなんて。
驚きに固まる俺であったが、スイは気にせず地図を指さし始めた。
「ザ・ワンはここね」
地図の中央に描かれた古代遺跡の地下にあるのがザ・ワンだ。古代遺跡自体の規模はとても小さく、モニュメントとちょっとした囲いがある程度。
他はまあ……風化した建物の欠片やら街道の跡地みたいなものがあるくらいかな。モニュメントの傍に地下へ続く階段があり、そこを降りれば俺たちがいる一階層ってわけだ。
外のしょぼさからは想像がつかないほど広大な迷宮が広がっていることはご存知の通り。
ザ・ワンから東に進むと地方都市ザッハがある。ハンター達を呼び込むならここが主戦場になるだろうな。
南に進むと砂漠があって、オアシス都市イスハハンに至る。
「で、ここを見て」
「山だな」
スイはザ・ワンから北に広がる険しい山脈を指さす。
彼女の指はそのまま上へ動いていき……大きな街のところで止まる。
「えっと、確か王都トルテだったよな。この街」
「そうよ! この世界で一番大きな街は王都なのよ」
「うん……だけど山があるから商人もハンターも東側から大きく迂回するだろ?」
「西側から迂回しても大丈夫よ」
「そうだけど……」
どっちから回り込んだところで、特に俺たちへ関わりがあることに思えないけど?
「そこで」
「だああ、近い近い」
このままちゅーしてやろうかと思うほどの距離にまで顔を近づけたスイが、俺の顔を押しのけるように人差し指を伸ばす。
「この山に道を作るのはどうかしら?」
「えっと……」
「あなたと私で、道を拓くのよ」
「やってみるか!」
面白そうだ。スイのザナドゥと俺のパワーが合わされば……もしかしたらいけるかもしれねえな。
もし本当に山をぶち抜いて道が作れたのなら、王都トルテと地方都市ザッハ、そしてイスハハンを繋ぐ要所としてジ・ワンの価値は各段にあがるだろう。
商人や旅人からここが噂になれば、ハンターも多数集まってウハウハだぜ。
「ソウシくんー、何だかえっちーな顔してるー」
ユウはえへへへと笑いながら、両手をペシペシと叩く。
いや、野心に心躍るカッコいい顔だっただろ?
「スイ、すぐに行ってみようぜ」
「分かったわ」
「ユウさんとアヤカさんはご神体をどんな形にするか考えてもらえるかな?」
「おー。まかせとけー」
「分かったわん」
それぞれ役割が決まったところで、俺たちは動き出す。
鈴木? 放置していても何か勝手にやることだろう。彼には彼のやりたいことをさせておくのが一番働くからこれでいいんだ。
◆◆◆
そんなわけでやってきました。ザ・ワンから北にある大山脈へ。
起伏が激しくうっそうとした森林が広がるこの山脈は、様々なモンスターや素材がある場所としてメタモルフォーゼオンラインでは人気の狩場だった。
いざ現実になって来てみたら、足場が悪すぎてとても冒険しようなんて気にはならないなあ。
「駄熊。ここより北へ五十キロ……人影はない」
「ありがとう」
鈴木を放っておいて正解だったぜ。何故か彼は俺とスイについてきて、調査役を買って出てくれた。
いくら険しい山の中とはいえ、人がいるかもしれないってことを見落としていたよ。
彼の気転のおかげで不幸な事故を避けることができたんだ。
「じゃあ、やるか。真の姿を開放せよ『トランス』」
掛け声と共に、白い煙があがり人からシロクマへと変身する。
続いてスイも俺から背を向け小さな声で、
「真の姿を開放せよ『トランス』」
と呟いた。
オートマタに転じた彼女は背中から生えた四本のアームの様子を確かめるように細かく尖端部分を動かす。
「くま(ビキニ)」
「大丈夫よ。トランスしたらこのアームの動かし方を忘れるどころか、まるで産まれた時からあったかのようよ」
「くまあ(谷間がないのが残念だ)」
「心配してくれてありがとうね。問題ないわ」
「くま(脱いでもいいぞ)」
言葉が伝わらないことをいいことに好き勝手に発言していたら、スイが何やら勝手に俺の言葉を補完していた。
真実を知ることはないだろうが、もし知ったとしたらぐーぱんの一発や二発では済まないだろうな……。ははは。
俺は俺で短くなった手足の様子を確かめるため、腕をぐるんぐるんと回す。
「大丈夫だ」と腕を前に突き出すと、スイは静かに頷きを返し目を瞑る。
「形態変更。モードオン」
スイの背から生えた四本のアームが複雑な印を結び始める。
続いて彼女は最後の言葉を告げる。
「全ての魔を払い給え、ザナドゥ」
彼女の体が光り輝き、その姿を変えていく。
一際輝いた後、彼女の姿は黄金の光を放つ一振りの大剣へと転じていた。
大剣の柄を握り、頭上へ掲げる。
後ろへ下がり、前へ駆けながら加速して行き、力一杯踏み込み高く飛び上がった。
振りかぶった大剣を振り下ろすと、大剣から極太の黄金の光が伸びていく。
――ドガアアアアアン。
凄まじい音と共に光に飲み込まれて行く木々と山肌。
光が晴れると、前方に幅四メートルほどの真っ直ぐ伸びた道が出来上がっていた。
「一発でおよそ十五キロってところだな」
影の姿になった鈴木が地面から這い出て来る。
「あと四回ってところね」
そう言いつつもスイは顔を真っ赤にしていた。
「くま(尻)」
「ソウシ、手を動かさないでくれる?」
どうも大剣の柄の部分はスイのお尻に当たるらしい。
彼女が元のオートマタの姿に戻ったら、むにむにとした幸せな感覚が肉球越しに伝わってくるのが素晴らしい。
これを後四回も体験できるとは……ザナドゥとは言葉どおり「桃源郷」だな。うん。
「ちょっと待ってね。MPを回復させるから」
ストンと俺の手の平から地面に降りたスイは、アイテムボックスへ手を伸ばす。
彼女は中から緑色にぼんやりと光る小瓶を取り出し、蓋をきゅぽんと抜く。
「くまあ(満タンドリンクか)」
「うん。調合で制作できるし、大量に持っているから、惜しくはないわ」
スイは小瓶へ口をつけ、一気に中身を飲み干した。
途端に彼女の眉間に皺がより、涙目になってしまう。
「す、すっぱい……レモン果汁をそのまま飲んでいるみたい……」
この後、三回スイのお尻を味わったところで、山を抜ける道が完成したのだった。
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