第9話 社内副業を義務化、というフェイクニュース
新聞の1面に「大手商社の角紅、社内副業を義務化」というフェイクニュースが大きく掲載された日、角紅の社内は朝からフェイクニュースの話で、もちきりだった。
角紅の公式発表は「20%ルールの実践を義務化」である。角紅の社内ペーパーを日本経営新聞は「社内副業を義務化」と言葉を、すりかえて誤報している。我が社が言う「20%ルールの実践」と「社内副業」では、意味が全く違う。
20%ルールとは「会社の新しい事業を開発と社員の人材育成の2つを目的に、勤務時間の20%を現在の業務から離れて、企画を思考・試行しろ」という制度。グーグルやアップル等アメリカのIT企業では、かなり前から導入されている。グーグルやアップルの時価総額が世界でベスト5に入る急成長をとげた成功要因の1つに、20%ルール制度がある。我が角紅も実は2年半前から、20%ルール制度を試験的に導入した。しかし、試験的という言葉の通り、勇気をもって実践する社員は少なかった。
このように、よそで成功する制度を真似して、そっくり同じ制度を導入したけど、利用されない、というケースが日本には多すぎる。例えば、育児休暇を男性も取得するから、女性の出生率が上がるという海外の制度を日本は、真似して形式的に導入した。形式的とは「できるだけ休暇を取得しましょう」という、かけ声や奨励、のことだ。かけ声だけにすぎないから、日本で男性が育児休暇を取得する者は現在も、10%強にすぎない。しかも、取得した休暇の日数は3日以内という形式的に取得させられたケースが圧倒的に多い。このような「かけ声だおれ」の解決策として、真っ先に安直に「義務化」が導入される。
角紅が、20%ルールを実践する者が少なすぎる解決策として「試験的な導入」から「実践を義務化」へ移行したのも同じである。
一方、社内副業という言葉は、まだ日本に定着していない。幾つかの会社が、社内副業の制度を導入した、という報道はあるが、その意味は会社によって、バラバラである。
ある会社は、今の仕事を改善する生産性向上の方法を提案して、生産性向上やコストカットを達成できた一定の割合を、提案者へ報奨金を払う制度を、社内副業と呼ぶ。これは意味的に、副業というよりは、業務改善活動とか生産性向上活動といった方が良い。事実、そう呼ぶ会社の方が多い。しかし、報奨金は「給料とは別に、追加で」支払われて収入合計がアップする、という側面に注目すると、副業と同じ結果に見える。
また、別の会社では、社内で今の部門の仕事と、別の部門の別な仕事を一時的に併行する制度を、社内副業と呼ぶ。これは意味的に、副業というよりは、複業といった方が良い。事実、社内複業制度と呼ぶ会社の方が圧倒的に多い。なぜなら、社内複業制度は報奨金が出ない、収入は上がらないから、副業と報道するには大きな違和感があるからだ。
いずれにしても、社内副業という言葉の意味は日本で、まだバラバラで正しい定義はない。だから、日本経営新聞は「新しい意味で使っても良い、その新しい意味を日本に普及したい」等と策略して、フェイクニュースを流したのかもしれない。
フェイクニュースという「うそ」は、このようにマスコミなど情報発信者側に、策略がある。
策略は、相手を貶めて、その相手と対立する別な人物が相対的にトクをする「陰謀」という形が最も多い。陰謀は選挙でよく見られる。
次に多い形は、悪事を犯した当事者を庇う目的で、悪事に関する情報を隠す「隠蔽」である。これを「忖度」という。忖度による隠蔽は政治家や官僚などの当事者が不祥事を犯したときに多く見られる。
フェイクニュースは、陰謀という形にしても、隠蔽という形にしても、ダーティで卑怯な方法で、国民の知る権利を損ねていることにかわりはない。そして、フェイクニュースを垂れ流すマスコミなど情報発信者は、トクをする当事者に、恩を売る、ことができる。恩を売りたいから、忖度する、という側面もある。
一方、フェイクニュースの策略には、陰謀や隠蔽とは違う「新しい世論・意味をつくり、その新しい世論を普及」する目的のものもある。もし、今回のフェイクニュースが、世論づくりという目的である場合、角紅という会社は、利用された、といえる。
いずれの策略であるにしても、フェイクニュースを流された当事者は周囲からの「真実は如何に?」という探索や推測など騒動の渦中に置かれる。角紅社内は今、まさに騒動の渦中に置かれた状況にある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます