第4話 飲みにケーションは、セクハラとパワハラの温床
夜、私は帰宅後、健の様子について由美と話しあう。
保育園へお迎えに行ってから寝るまで、泣きもせず騒ぎもせず、いい子にしていた。ただ、寝る前に「ママ、あしたは何処にも行かないでね」と言われた。由美は「明日から2日間は、土日で会社は休みで、健とずっと一緒にいるよ」と、答えたら、健は安心して寝たらしい。
由美は、来週の月曜から出勤時間を30分早くして、7時出社にする、という。私がジョギングから帰宅してシャワーを浴び終える6時半すぎに留守番を交代という感じで家を出ることになる。理由は2つある、という。まず、できれば健はまだ寝ている間に家を出たい。そして、会社の仕事を、きちんとこなすには時間が1日あたり、もう1時間ほど必要、という。
2年間近い育児休暇のブランク後、仕事の内容や方法は変わった。これだけでも仕事に慣れるは苦労する。それに加えて、4月は人事異動が多く、2年前と同じ部署に復職しても、同僚や取引先の担当者も変わる。この対応が日本では、男女で差が出てしまう。
同僚や取引先の担当者が変わったとき、男性であれば、お酒を飲みに行きましょう、という「飲みにケーション」で人間関係を一気に構築する。昔の男社会が当然視された時代は「お酒を飲むのも立派な仕事」とか言われて、飲みにケーションが正当化されていた。今でも、組織風土が古い役所や企業では、飲みにケーションが正当化されている。
しかし、女性は多くが、飲みにケーションを嫌う。なぜなら、飲みにケーションという手段と場は、セクハラとパワハラの温床だからである。
組織風土が古い役所や企業で、飲みにケーションが今も正当化されている動向と、セクハラとパワハラが多く発生する事実は、無関係ではない。
セクハラとパワハラを撲滅する解決策は、この因果関係に着眼すると、飲みにケーションを廃止して、勤務時間内のみで人間関係を築くコミュニケーションの確立である。
そうしないと、子育て中のママは、仕事で苦労する。由美のように、子どもを保育園に預けて仕事をする子育てママは、残業はできない。夜の飲みにケーションは、嫌いという感情を超えて、時間の制約から対応できない。
4月は多くの人にとって、環境が激変する。特に、つきあう人は一気に変わる。この4月に特有の環境変化に適応できず、心を病む人は少なくない。これを、5月病というらしい。
このような理由から私は、由美が2年近い育児休暇の後、仕事へ復帰することに以前から不安を感じていた。そして、仕事に復帰して2日を終えた時点で、由美は「会社の仕事を、きちんとこなすには時間が1日あたり、もう1時間ほど必要」という。
私は由美へ「その理由は、業務量や能力に問題があるの? それとも2年前とは違う環境への戸惑いかな?」と聞いてみた。
「うーん、たぶん両方かな」
「一人で抱え込まないで、組織の誰かに相談してみたら? こういう相談って、男の場合、夜の飲みにケーションで対応するけど、由美は女性で残業できない子育てママなんだから、勤務時間中の相談や面談が必要だよ。これが無いと、つぶれるよ。そういう面談みたいなの、あるの?」
「一応あるよ。でも、今は仕事の内容や方法を聞くので精一杯で」
「じゃあ、来週から出社時間は30分早くして、退社時間は変えないで、しばらくやってみて、問題が解決しないなら、すぐ相談しなよ。俺にも話してね」
「うん、わかった」という由美の表情は、朝に見た艶と輝きが失われて、やつれて見えた。
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