第6話

 仕事に出ようとドアを開けると、レイとレーベルが既にそこに立っていた。

 思わず昨日のことがあってドアを閉めてしまう。

「なんで閉めるんですか!おはようございます!!食堂に行きましょう!!」

「断る!」

「朝食を食いに来い!」

「仕事に行かせてくれ!」

 ドアを開けようとする二人に抵抗してドアを抑える。

 来なかったら迎えに行く、といっておいて来る来ないの前に迎えのきやがった。

「このままじゃ仕事も出来ませんよ!?」

「それはレイとレーベルのせいだろう!?」

「頭撫でてあげますから!」

「俺様はペットではない!」

 このままでは埒が明かない。

 レーベルとレイは一旦やめて静かに、再びドアが開くのを待った。

 ヴォガルドは当然、二人がまだそこで構えているのに気付いている。

 待ち伏せしようとしていることくらい、わかる。

「い、いつまでこうしているつもりなんだ?」

「ヴォガルドさんが諦めるまでです。」

 溜め息をついてドアを開けた。

 そう言われると諦めたくなる。

 レイは笑顔になってヴォガルドの片手を両手で引っ張った。

「さぁ!さぁさぁさぁ!行きましょう!!」

「待ってくれ。食器を返す…。」

 結局食堂に連れて行かれた。

 片手を引っ張られ、背中を押されればもう仕方が無い。

 食堂に着けば、ガヤガヤとしていたのが突然シーンとなる。

「食器を返すだけだぞ…。」

「駄目です!食べて行きましょう!」

 嫌悪の視線が突き刺さる。

 冷たい空気を吸う。

「なんで、アイツが来てんだ。」

 そんな声が聞こえて、ヴォガルドははたと足を止めた。

 手を引っ張っていたレイは、驚いて遅れて止まった。

 それでも、引っ張った。

 ビクともしない。

 レーベルも背中を押すも動かなかった。

「ヴォガルド…。」

「申し訳ない。仕事に行かせてもらう。」

 そう早口で言い残し、食器をレーベルに押し付けると走り去った。

 レイはヴォガルドを迷うことなく追いかけて食堂から姿を消す。

 レーベルはただ溜め息をついて、近くの机に食器を置くと、椅子に座り顔を伏せた。

 ヴォガルドが悪いのではない。

 獣人は人間を受け入れないように、人間も獣人を受け入れない。

 その溝を埋めることは容易くない。

 でも、ヴォガルドは他の獣人とは違った。

 それでも…。

「レーベル……?」

「今日はもう料理は作らんからな!」

 苛立ちを込めてそう強く宣言した。

 食堂に居た者は、それに動揺し再び騒がしくなった。

 料理を作らないということは、今日の食事は皆抜きということになる。


「ヴォガルドさん!」

 レイが着いた時には、ヴォガルドは既に仕事を開始していた。

「どうかしたか?」

「どうして……どうして、食べてくれないんですか!」

「レイ…一つ言わせてもらおう。俺様は仕事さえ出来ればそれでいい。気にすることではない。」

 人間が自分を受け入れないのならそれでもいい。

 仕事が出来て、給料が出ればそれで満足だ。

「失礼するよ、ヴォガルド君。君に仕事を与えよう。」

 レイの後ろから上司が現れて、レイはビクリと肩を跳ねさせた。

 ヴォガルドは仕事と聞いて尻尾を振る。

「食堂で食事をしたまえ。」

「そ、れは…仕事ですか?」

「一人で、とは言わない。是非、君と食事をしたいという人がいるんだ。給料も出す。これは仕事だ。」

 上司の笑顔に押されて、ヴォガルドは押し黙る。

 しかし、それを仕事と言うのであれば、そして給料も出るというのであれば……。

「了解した…。」

「うん、ヴォガルド君は仕事熱心だからなぁ。この人たちだ。よろしくな。」

 顔をひょこっと覗かせたのは女性だった。

 その目は嬉しそうに輝いている。

「ヴォガルドさん、行ってらっしゃい!」

 レイも嬉しそうに笑った。

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