第7話

 食堂に再び連れてこられたヴォガルドを見て、皆が驚いた。

 今度は数人の女性に囲まれている。

「わぁ、尻尾がふわふわね!」

「あなた名前は?」

「ヴォガルド…。」

「ヴォー君ね!」

 居心地が悪いことこの上ないが、仕事だ。

 これはあくまでも仕事なのだ。

 レーベルも驚いたが、嬉しさが勝った。

 ヴォガルドは知らないが、実はこの女性たちは上司だ。

 上司で取り囲めば、誰も出ていけとは言えない。

 ヴォガルドを囲んで座り、食事を口に運ぶ。

 ヴォガルドが口を開ければ、並んだ鋭い牙に目を見開いた。

「そんなに見つめられると、食べづらいのだが…。」

「あら、ごめんなさい。カッコイイからついつい。」

 ヴォガルドにとっては自分が獣人であることを恨むしかない。

 食事を終えて解放されたヴォガルドが戻ると、上司とレイが笑顔で待っていた。

「次から、食堂でちゃんと食べなければ、こんな仕事が毎日きますからね!」

「………了解した……。」

 料理の味もわからないくらいに居心地の悪い仕事だ。

「で、ヴォガルド君には今日から本命の仕事をしてもらいたい。」

 その言葉に垂れていた耳がピンッと立った。

「そもそも我々の仕事はなんなのか、を知って欲しい。さぁ、来たまえ。」

 その後を追ってレイと並んで歩く。

 廊下を暫く歩き、エレベーターを使って上に、それからまた廊下を少々、突き当たりのドアを開ければ。

 風がビュゥッと吹き込んできて、その気持ち良さに尻尾もなびく。

「この街の魔物を排除することと、魔王を倒すことだ。レイとも慣れて来ただろう?そろそろこっちの仕事に移ろう。」

 ヴォガルドは歩いていき、下を見下ろす。

 その目に捉えたのは魔物だった。

 あれを、潰していく仕事か。

「新入り、落っこちるぞ。」

 後ろから笑われたが、そんなことはどうでもよかった。

 振り向く。

「何か、狙撃出来る物はあるか?弓でも銃でもいい。」

「狙撃?」

「アレは魔物だろう?ここからでも狙撃出来そうだ。」

 再びそちらに視線を戻せば、急いだようにそいつらは駆け寄ってきた。

 そして同じように下を見下ろす。

「見えるのか?」

「見えないのか?」

 首を傾げるヴォガルドに、上司はクスクスと笑った。

 当然だ。

 ヴォガルドは獣人である。

 人間より目も鼻も耳も利く。

「弓で射抜けると、思うのかい?」

「魔物が硬くなければな。当たりはするだろう。」

 ヴォガルドの金色の目が揺れる。

 何を言っているんだ、と言うように。

 上司は弓と矢を手に取り、ヴォガルドに手渡す。

 無言で、射抜いてみろ、と。

 ヴォガルドはそれを受け取ると、強く引き絞って狙いを定めると、矢を放った。

 その矢を飛ばした方向は、魔物とはまったく違う方向で、周囲が笑い始めた。

「おいおい、新入りぃ。そりゃないって!そもそも風で矢が飛ぶわけ…。」

「風で矢が流されるのを知っていながら、真っ直ぐ飛ばす馬鹿がいるのか?」

 ヴォガルドにそう言い返されると、顔をしかめた。

 上司は拍手をしながら、ヴォガルドに近付いた。

「魔物に当たったかね?」

「目に。で、彼らは魔物を処理する者ですか?」

「残念ながら人間には見えない。しかし、きっと当たりだ。」

 一緒に下を見下ろすが、やはりヴォガルド以外は、地上の細かな物は見えないのだった。

「ジャガランディは獣人の中でも一等能力が高いからなぁ。いやぁ、頼もしい!」

 上司に肩を叩かれ、首を傾げるヴォガルドを、レイは満面の笑みで見ていた。

「さて、お試しと行こうか?」

「なッ!?」

 ヴォガルドの背中を強く押して、突き落とした。

 レイや周囲の者たちから、悲鳴などの動揺が上がった。

 上司はただ見下ろして笑んでいる。

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