第3話
人手不足のせいで上司に、この森に向かわされた。
というのも、この森に住んでいるという獣人を勧誘したいと仰せで、その獣人に会うために。
よっぽど暇なのか、森の道は大概荒れているものなのにこの森は道が綺麗に整えられていた。
人ひとり通れるくらいの細い道ではあるけれど、それは単に必要最低限にしたという風に見える。
歩きやすくて助かる。
やがて、巣に辿り着いた。
気配は無いし、今は留守か?
「待ってみましょうか?」
「えぇ、早く済ませて帰りてぇ。」
そう零した瞬間だった。
「何を、済ませるって?」
首に当たる感触。
僅かに痛みを感じる。
気配が無かったのに、背後に立っているそいつは、まさに今回の目的。
「待った待った!!お前に用があって来たんだ!」
両手を上げて敵意は無いことを慌てて言う。
殺気が肌に刺さるところからして、下手すれば容赦なく殺されそうだ。
「なるほど、客人か。」
スっと首に当たっていたモノが引っ込んだ。
振り返ると大きな獣の顔が見えた。
真っ黒で目元に灰色の模様、目の色は金色に輝いていた。
尖った耳に、ふさふさの尻尾。
そして二足歩行、話で聞いた獣人で間違いなさそうだ。
腕を組んで、見下ろされる。
首に何かで締め付けられたような跡があり、そこだけ毛が薄くなっていた。
「首……何かあったのですか?」
「いいや、これは生まれつきでね。さて、何の用件か知らないが長居はしないでくれよ。」
フッと僅かに笑みつつも、歓迎しているという様子ではない。
まだ警戒心が残っているのかもしれない。
「あー、お前に頼みがあるんだ。」
「何だ?金の出ない仕事はしないと決めているんだが。」
金?
この獣人は見たところ、自給自足の生活をしているようだ。
金なんて何処に使う?
「金に困ってるのか?」
「いや、そうではない。が、タダ働きは御免だ。」
生まれつきのその跡……首を吊ったか、首を締められ死んだか。
それが強い後悔のせいで前世の跡として残されたものではないだろうか。
そういう話は滅多に聞かないし、実際に生まれつきでそんな跡を持つ者も滅多にいない。
必要でもない金を報酬として払わないのなら仕事はしない、というのは前世の跡と関連があっても可笑しくない。
当然、前世の記憶は無いだろうし、わからない。
「俺の上司が、お前を欲しがってる。」
「獣人だからとて、ペットにするには悪趣味な気もするが?」
「いやいや、そうじゃないって!」
首を傾げる獣人に、俺の半歩後ろにいた同僚が口を開いた。
「あなたを我々の仲間にしたい、ということ。勿論、報酬として金は与えられるわ。」
耳をピクリと動かして尻尾を一振りする。
「勧誘、か。悪くない。」
うんうん、と頷きながらそう言い巣へ歩き出した。
その後を追う。
「それは今すぐの方が良いのか?」
顔だけ振り向いてそう問い掛けてくる。
歩幅が大きい分、俺達は駆け足だ。
「出来れば今すぐ来て欲しいな。」
「ならば直ぐに支度を済ませよう。」
ニィ、と歯を見せて笑う。
尻尾を振りながら、嬉しそうだ。
もしかして、前世…給料貰えず死んだのが首に残ってるわけじゃないよな?
仕事好きだとか言わないよな?
「ここで待ってもらえるか?」
そう言い残し、巣の中へ消えた。
数分後、支度を終えたらしい獣人が戻ってきた。
荷物が少ない。
「此処へはもう、戻って来られないかもしれないけれど、構わない?」
「問題無い。思い残すような場所でもないからな。」
案外さらっとしている。
ということは、家族もいないってことか…。
「じゃ、行こうぜ。」
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