秘匿、秘密、研究所
ゆっくりと、意識が戻ってくる。なんというか、変わった夢を、見ていた気がする。私が居て、飼育員さんが居て、アムールさんやタカさんと一緒に暮らしてパークの仕事を手伝ったりしていた……なんと言うか、とても幸せな夢。起きて、飼育員さんが居ないって事を思い出して少し寂しくなったけど、アムールさんは一緒に寝てくれていたままだった。それが嬉しくて、少し身を寄せる。あったかいなぁ……。
「ん、ふぁぁ……朝ね……あのまま私、眠っちゃってたのね。情けないわ……アムールトラ達と一緒に居る間に、少し鍛え直さないとね」
あ、タカさん起きたみたい。けど、私が体を起こすとまだ眠ってるアムールさんを起こしちゃいそうで動けない。うーん……。
「ん? あら……イエイヌちゃんとアムールトラは一緒に寝てたのね。……ちょっと羨ましくなっちゃうのは、私もイエイヌちゃんの事を気に入ったからかしらね」
タカさん……良かった、嫌われてたりしてなくて。それに声にも元気がありそうだから、眠って大分元気になってくれたのかな。
「……まだ眠ってるのよね? イエイヌちゃんの後ろ、横になれるかしら」
って、まさかタカさん、添い寝しようとしてる? いやまぁ初日はタカさんも後ろから添い寝してくれてたんだから今更かもだけど、ちょっとベッドでそれは難しいんじゃないかな?
「でも狭いわね……いっそアムールトラを剥がして代わりに……」
「あのねぇタカ……どんだけイエイヌの事気に入ってんのよ?」
あ、アムールさん起きてた……というか起きたんだ。いやまぁ独り言とは言え静かなところで言ってれば結構聞こえるもんね。
「あ、アムールトラ!? 起きてたの!?」
「起こされたの。ったく、今はイエイヌはあたしのです。渡しませーん」
「むぅ……って、そんな抱き締めたら起きちゃうでしょ」
「……すいません、しばらく前から起きてます」
多分アムールさんは私が起きてるの気付いてたね……で、体を起こしたら顔を覆ってしゃがみ込んでるタカさんが居ました。うんまぁ……聞いちゃってたし、恥ずかしいのは分かるから何も言えないや。
「え、えっと……今度、タカさんのお世話になっても……いいですか?」
「……うん」
「あ、それは否定しないのね。まぁいいや。よし! 二匹ともお早う!」
お早うございますって返して、恥ずかしがってるタカさんに声を掛けて励ます。まだちょっと顔が赤いみたいだけど、気は取り直してくれたみたい。
レストハウスから出ると、眩しいくらい明るい太陽が迎えてくれました。この分だと、今日も雨の心配は無いかなぁ。
とりあえず朝ご飯を食べようかって事でカフェに向かいました。入ってみると、ロバさんとインパラさんが横になってたけど、隣で眠ってるくらいだから二匹の仲も良いんだろうなぁ。
「んんー? 誰か来たぁ?」
「ロバさん、インパラさん、お早うございます」
「イエイヌちゃん達かぁ。おはよー」
まだ寝惚けてるロバさん達にも朝ご飯を用意しようと思って、カフェの台所に立つ。そう言えば軽食店もあったんだっけ。あっちの方が料理を作る設備はしっかりしてたから、今度来る時はあっちでもっと手の込んだ料理を作ってみてもいいかも。
まぁ、今はまたサンドイッチと紅茶かな。コーヒーも淹れる設備はあるけど、あっちは苦くて好みが分かれるだろうしね。サンドイッチは昨日と同じ野菜サンドじゃちょっと芸が無いから、チーズと卵も使ってちょっと豪華なサンドイッチにしようか。……この卵って、どうやって? と思ったけど昨日のミルクと同じ嫌な予感がするから考えないでおこう。
「んぁ? イエイヌちゃん、その熱くするのに乗せてるの、何?」
「あ、これはフライパンって言います。水じゃない物を熱くして焼いたりするのに使う物ですよ」
軽く説明しながら作るのは卵焼き。飼育員さんが好きだって言ってたからかなり練習したからなぁ、これはちょっと自信あるよ。
傍まで来て見てるロバさんとタカさんは感心してるし、席で待ってるアムールさんとインパラさんは香りに顔を綻ばせてる。本来草食なインパラさんとロバさんに卵は大丈夫なのかって思わなくもないけど、フレンズの体って食べられる物は人と変わらなくなるらしいから多分大丈夫だと思う。まぁ、なる前の物も普通に食べられるから、草が好きとかの好みで食べないフレンズさんも居るみたいだけど。
使ったのはチーズと卵焼きとトマトとレタス。卵焼きは厚く焼いちゃうと挟む時大変だから薄めに焼いたよ。あ、切るのはアムールさんに頼みました。切った後、爪が美味しいってご満悦だったよ。
同時進行で淹れてたお茶も用意して、朝ご飯完成だね。私の手際にロバさんは唸ってました。まだこんなに同時に色々するのは無理だなーって。私も随分練習して出来るようになったし、これは慣れですねって説明しておいたよ。
「なるほどねー……これも美味しそう! 食べていいんだよね!?」
「もちろん。皆で食べた方が美味しいですもんね」
「って事なら、早速食べよう! いっただきまーす!」
あ、アムールさん早速言ってくれてる。昨日サンドイッチ食べる時に聞かれたんだよね、食べた後に言う挨拶があるなら、食べる前のもあるのかって。その時に教えたのが頂きます。もちろんロバさん達含む皆から意味とか聞かれました。
うん、皆美味しそうに食べてる。私も食べてみたけど、上出来かな。お茶も美味しく淹れられてて一安心だよ。
「いやーでもこうしてジャパリまん以外の物を食べられるようになるとは思わなかったな。ロバが作り方教わったなら、これからも食べられるしね」
「まっかせて! ま、まぁ、しばらく練習しなきゃだけど」
「あ、そうだ。これ食べ終わったらまた歩き出すんだよね? お昼どうしよっか?」
「あーそうですね。それこそジャパリまんか何かあれば持っていきたいですね」
「ジャパリまん? それならラッキービーストが持ってきてるのあるよ」
インパラさんがサンドイッチ咥えたまま台所の隅をごそごそ漁ってる。わ、本当にジャパリまんが出て来た。箱の中に仕舞ってあったんだ……。いや、そこは冷蔵庫に入れておけばいいんじゃ? と思ったけど、そう言えばジャパリまんってサンドスターの力を含んでるから凄く痛み難いんだっけ? 確か、サンドスター自体にそんな力があるとか。どうやって作ってるのか気になるなぁ。今まで特に気にしなかったのがおかしかったのか。
とりあえずジャパリまんは三匹分分けてもらって、二個は私がポーチに入れて一個はアムールさんが自分のポーチに入れた。私のポーチも色々入って嵩張ってきたから、分担して貰えると助かるな。
「そう言えば、イエイヌちゃんのポーチだっけ? それには色々入ってるわね。イエイヌちゃんの事だから、どれも使える物なんだろうとは思うけど」
「あ、はい。基本的には傷の手当に使う物ですね。嵩張るから少し減らそうかと思ってたんですよ」
包帯とか一つでも結構使えるし、傷薬も一個で何回か使えるもんね。補充が先々で出来ないかもと思って多めに持ってきたけど、レストハウス確認したら普通にあったし、この分ならよっぽどの事が無い限り補充出来ないって事は無さそうだから、持ち過ぎるのも荷物の圧迫になっちゃうかなと思ってたんだ。
後入ってるのは、10本しか入ってないマッチの箱。このサービススペースの様子から、火を起こせる物は貴重だって分かったからね、これは大事に使おう。
後はここで貰ったメモ帳とペン、それとあの黒いキューブとメモ。ポーチだと細かな物だけでも中がいっぱいになっちゃうから、なるべく物は選んで持たないとだね。それでもこれにジャパリまん入れても少し余裕があるから、結構容量はあるんだよ。あ、鉄パイプはどうやっても入れられないから、手で持っていくしかないんだけど。
「へぇー……他の物はなんとなく分かったけど、そのマッチって言うのは何が出来る物なの?」
「うーん、本当は使って見せればすぐに分かって貰えると思うんですけど、数が少なくてそれはちょっと難しいんですよね……皆さん、火って分かります?」
「火? インパラ、分かる?」
「あーあれかな? 明るくて熱い奴。近付くの怖いからあまり好きじゃないかな」
やっぱりフレンズさんの認識だとそんな感じか。火に慣れてるフレンズさんなんて滅多に居ないだろうし、緊急時以外は使わない方がいいかもしれないかな。
で、とりあえずマッチは小さいけど火を起こせる物だって説明しておきました。こんなのでねーって皆が関心してるけど、これについては使い方まで教えなくて大丈夫かな。
よし、皆食べ終わったし、後片付けをしたら歩き出そうか。ロバさんとインパラさんが寂しそうだけど、必ずまた遊びに来るって伝えると絶対だよってちょっと涙目で言われたよ。
「その時には、アムールトラに負けないくらい速くなっててみせるから」
「それは楽しみ。けどま、無理はしないようにね?」
「タカもイエイヌちゃんも気を付けてね!? 絶対、絶対また遊びに来てよ!? 私、インパラとか他の皆と一緒に待ってるから! 約束だよ!?」
「わ、分かったから落ち着きなさいロバ。約束してあげるから」
「……約束、か。……はい、私も約束します。必ず、また皆に逢いに来るって」
約束……こんなに気持ちが温かくなる約束なら、もっとしたいな。それだけ仲良くなって、繋がってるって印にもなる。新しい、繋がりの約束。飼育員さんとの約束を破ってなかったら出来なかったって言うのが、少し複雑な気持ちになっちゃうけどね。
手を振って見送ってくれるロバさん達に手を振り返しながら、私達は歩き出す。何事も無ければ、今日中にはラボに着けると思うんだけど……こればっかりは行ってみないと分からないなぁ。
「さてさて、次に目指すのはラボってとこだけど……あたしも長い事旅してて、このチホーにそんなのあるなんて気付かなかったんだよね。本当にあるの? そこ」
「うーん、私も実際に行った事は無いんで、この地図が正しい事を祈るしかないんですよね」
「……私、実は少し気になってるところがあるの。この先に森って程じゃないけど木が集まってるところがあるんだけど、そこの上を通る時、なんと言うか……木が透けて見えるような所があったのよね。目を擦ってもう一度見たら何の変哲も無かったんだけど、降りようとしたら嫌な感じがして止めたの。ひょっとして……」
! タカさんの話……もしかしたら心当たりがあるかも。パークの中にあって、フレンズさんが近付くと不都合があったり、お客さんの目に触れるのを避けたい施設にはカモフラージュでそういう実在しない木の映像で建物を包んでるって。ホロ……なんとかって言うらしいけど、タカさんが見たのってそれなんじゃないかな? だとしたら、そこがラボなのかもしれない。行ってみる目標にはいいね。
当然そんなのがあるって知らないアムールさんやタカさんがラボに気付かないで、低周波パルス発生器で近付く事もしなければ分からなくて当たり前だね。となると、ラボは人が居た時の状態をそのまま残してる可能性が高い……人が居なくなった理由についても、何か分かる期待が高まったかも。
けどそうなると、私がそのラボの設備について分かるかが問題になってくるんだよね……。飼育員さんが使ってたパソコンって言うのは使い方を教わって少しは色々出来るけど、それくらいで済むかなぁ?
「どしたのイエイヌ? 難しい顔して」
「あ、えっと、無事にラボに着いてもそこを私がちゃんと調べられるかなって、ちょっと心配になっちゃって」
「イエイヌちゃんの今までの様子を見る限り、大丈夫なんじゃないかしら?」
「だといいんですけど……」
ラボ、つまりは研究所。そこの設備は専門的な知識が無いと動かせなかったり危なかったりする物だって、よく詰所にコーヒーを飲みに来た研究員さんは言ってた。私が淹れるコーヒーが珍しいついでに美味しいからって、たまに来ては飲んで、ついでに私の事を調べてくれたんだよね。お陰で分かったのが野生開放出来ないとかの事なんだけど。
ま、心配してても仕方ないか。ともかく今はラボに無事に着けるよう足を動かそう。他に何処に行けばいいかとかの目標も無いしね。
で、こうして外を歩いてると時々私の見た事のある小さいセルリアンとばったり出くわしたりする。まぁ、あの赤いのや大きい青くて長口のセルリアンを見た後だからあまり怖くは思わないんだけど。でもセルリアンである事に違いは無いから、慎重に対処しないとね。
「そー、っれ!」
飛び掛かってきたのを避けて、頭の上にある石を割る。軽く振って当てるだけで割れちゃうんだから、やっぱりあの長口セルリアンの石が凄く硬かったんだなぁ。
「うんうん、イエイヌちゃんも大丈夫そうね。ま、あの大物を倒せたんだから当たり前か」
「これくらいならまぁ、なんとか出来そうです。ちょっと怖いのはありますけど」
「そのくらいの方が全然良いよ。セルリアンなんて怖くないって言って挑んでってやられちゃったフレンズも、結構な数居るからねぇ……」
セルリアンをやっつけて空を仰いだアムールさんの目は、何処か悲しそうに見える。タカさんも何かを思い出したのか伏し目がちだ……知り合いのフレンズさんが、そうなっちゃったのかな?
心配そうに見ている私を、アムールさんはふっと笑って撫でてくれた。……きっとアムールさんやタカさんの旅も、楽しい事ばかりじゃなかったんだろうな。2匹を悲しませたりしないように、私もセルリアンの事は気を付けなくちゃ。
「……その分だと、気持ちの面ではイエイヌちゃんは心配無さそうね」
「は、はい! 気を付けて頑張ります!」
「なーに、イエイヌにはあたしもタカもついてるんだからだいじょぶだいじょぶ! それに、小さいの相手に戦えてるんだから、イエイヌの力も十分通用するみたいだしね」
これは鉄パイプ様々だね。これが無かったら、流石に素手では石を割ったり出来る自信無いなぁ……石を投げるだけじゃ割れないの、あの赤いので試した時に分かっちゃったしね。
でも足止めするだけなら、あの赤いのくらいの大きさまでは石を投げ当てるんでも出来るんだよね。いざとなったらそれも利用するのも手かもだね。
それからはせっせと足を動かして、進めるだけ進んでいく。暗くなる前に着ければいいけど、場所が特定出来てない以上なるべく急いで近くまで行って探す時間を稼いでおきたいもんね。
「えっと……多分ここがこの辺だから……そろそろ見えて来てもおかしくない、かな? タカさん、違和感のあった森……じゃなくて林、かな? そこってここから見えますか?」
「ん、ちょっと待ってね。少し上から見てみるわ」
タカさんが飛んでいくのを確認して、少し地図に目を落とす。地形は書かれてるけど、温暖地方は山とかの特色のある地形が少ない。ラボがあるのはその少ない地形を避けて建てられてるみたいだから、地図で辿ってもなかなか難しいのが正直なところかな。この地図、林や森の記載が無いからそれで追う事も出来ないしね。
「んー……おっ! タカ戻ってきたよ!」
「分かったわ! もうしばらく行ったところ、あの時と同じ嫌な感じがしたから間違い無いわね」
良かった、方向は間違ってなかったんだ。とりあえずジャパリまん食べながら一休みして、タカさんにもう一度正確な方向を確認して貰って行ってみよう。タカさんが言うには、もう歩いても明るい内には着ける位置みたいだから。
――――コード:イレギュラーヨリプロフェッサーへ。久シブリダネ。
――――珍シイオ客ダネ。イレギュラー、君ガ守ッテイル子ヲ置イテクルナンテ。
――――置イテ来タンジャナイヨ。……時間ガ動キ始メタンダ。オ迎エヲオ願イスルヨ。
――――ソウイウ事カ。分カッタヨ、アリガトウ。
「さーて、元気の補充もしたし、残りの距離を歩いちゃおうか?」
「そうですね。タカさん、正確な方向を教えて貰えますか?」
「ちょっと待ってね。……うん、あっちよ!」
上空でタカさんが指差す方を向いて、誤差の修正。ここまで3日……まぁ、大分のんびりした行程だったけど、ようやく着くんだね。飼育員さんが残したこのキューブ、飼育員さんの行方、人が居なくなった理由……少しでも分かってくれるといいんだけど、そんなに都合良く行くかはまだ分からないか。
セルリアンには警戒しつつ、出くわしたら撃破しながら進んでいく。詰所からサービススペースまではそんなに出会わなかったけど、本来はこんな物なんだって。……私のやっつける用意が出来るまでにあまり出会わなかったのは運が良かったんだろうなぁ。それとも、別の要因があったとか? いや、その線は薄いか。
「……! 何、この感じ……」
「アムールさん? どうし……! この感じは」
「これだわ。近付くのが嫌なような、毛皮がざわつくような嫌な感じ。怖いのとは違う、嫌な気配」
低周波パルスの影響で間違い無いよ、私もこれを突っ切った事があるから。車の時はあっという間だったけど、歩いてとなると少し頑張って我慢しないとならないかな。
意を決して、一歩前に踏み出す。うぅー、この毛皮に纏わりつくようなぞわぞわが気持ち悪い! けど我慢、我慢!
「い、イエイヌ凄い……」
「これに怯まず行けるなんて……」
「な、なんとか……アムールさんとタカさんは、無理せずに近くで待っててくれても大丈夫ですよ?」
私がそう言うと、アムールさん達はお互いの顔を見合って、一つ頷いた後覚悟を決めた顔をして踏み出した。
「否! イエイヌが頑張ってるのに、あたし達が頑張らないとは言えない!」
「格好悪いところ、あまり見せられないものね!」
「……言ってる事は格好良いんですけど、2匹とも私の腕にしがみつくんですね」
が、頑張ってるからこれくらい許して、なんて同時に懇願されたら何も言えないよね。多分本能的な物を刺激されるから、無条件に嫌だったり怖かったりって感じちゃうのかな。ある意味、これは私の野生って言うのが少ないから、アムールさん達より平気なのかも?
プルプル震えてるのが少し可愛いなと思いつつ、頑張って進んでる2匹に合わせてゆっくり目に進む。とはいえ、私も嫌なのは変わらないから、なるべく早く進みたいんだけどね。
暫く進んだら……あ、抜けたかな? ぞわぞわが後ろに抜けて行った感覚があって、気分が楽になってきた。
「お、おぉ? 大丈夫になったっぽい!」
「本当ね。はぁ、生きた心地がしなかったわ……イエイヌちゃんが堂々としてくれてなかったら抜けられた気がしないわ」
「あ、あはは……私も結構きつかったですけど、なんとか抜けれて良かったです」
さて、障害を抜けられたんだからもう近くに居る筈だけど……と思ったら、目の前の木が消えていく!? そうか、これがホロ……なんとかか! でもなんで消えたんだろ? あ、でも上の方には幹の無い木が残ってる。な、なんだか変な風景だね。
「こ、これって……」
「うぇ、壁!? なんかしかも広くない!?」
「多分、この林と同じくらいの大きさはありそうですね」
寧ろこの林はカモフラージュの為に生やされた、って考えるのが妥当かな。とにかくこの外壁に沿って歩けば……あった、入り口だ。けど、入り口の前に居るあれって、ラッキービーストさん?
「あれ、ラッキーが居る。なんでこんな所に?」
「わ、分からないです。ここを……守ってる?」
「半分正解、カナ。ヨウコソラボへ、歓迎スルヨ、イエイヌ」
……一瞬、時間が止まったように周りが静かになった。ら、ラッキービーストさんが。
「し、喋ったぁ!?」
「嘘、突っついても抱き上げても何しても喋らないラッキーが!?」
「アマリ僕ノ同胞ヲ虐メナイデ欲シイナァ……ケド、君達ノ疑問ハ尤モダヨ」
「ラッキービーストはパークの緊急時以外、フレンズとの会話、過度の接触は禁止されている……」
ぽつりと私が言った事に、目の前のラッキービーストさんは反応した。ん、目が、笑ってる?
「立チ話モナンダカラ、ラボノ案内ツイデニ色々説明シテアゲルヨ。ツイテ来テ」
そう言ってラッキービーストさんが振り返ると、前にあったラボの入り口らしき扉が開いた。なんだか不安そうにアムールさんとタカさんはしてるけど、ここまで来て引き返す訳にもいかないもんね。覚悟を決めて、中へ進む事にして歩き出すよ。
うわぁ……中の壁は白くて綺麗。あ、私達の前を歩くラッキービーストさん以外が中のお掃除してる。人は……やっぱり居なさそうかな?
「……パークガ閉園状態ニナッテ、僕等以外ノ誰カガココニ入ッタノハ、君達ガ初メテダヨ」
「パークが……ここが、閉園? 一体どうして?」
「残念ダケド、僕モ事情マデハ分カラナインダ。僕ハ、パークノ閉園ノ直前二創ラレタカラネ」
う、うん、アムールさんもタカさんも全力で分からないって顔してるけど、今はちょっと待ってもらおう。これはちゃんと聞いて纏めて教えてあげないといけないと思う。
ふと壁のガラスの向こうに目をやると、見た事のあるキューブ状の石が機械に乗って光……みたいのを当てられてた。あれって、セルリアンをやっつけた時に出るキューブ、だよね?
「ココデ研究、調ベラレテイルノハ主ニセルリアンニツイテトサンドスターニツイテダヨ。後ハ、フレンズノデータト生体サンプルモ保存サレテルネ」
「……分かんな過ぎて話が頭に残らないぜ!」
「ち、ちょっと私も理解出来る所が少ないかも」
「えーっと、後で頑張って纏めて教えますね」
「僕ノ言ッテル事ガ理解出来テルイエイヌガ凄インダヨ。フレンズノ皆ハ分カラナイノガ普通ダヨ」
それってつまりは、人の言葉が理解出来ないのが普通って事だもんね。パークのルールから考えても正しい事、だよね。私は人と一緒に生活してた例外って事なんだろうな。
ふと思ったけど、なんでこのラッキービーストさん私の事知ってるんだろ? 目の所の……モノクルって言ったかな? あんな片眼鏡を付けたラッキービーストさんに私、会った事無い筈なんだけどな? あ、モノクルについては好きで付けてるって言ってた研究員さんから詳しく教えてもらいました。
疑問に思いながらも歩いてきて、大きな机がある部屋まで来た。あ、ラッキービーストさんが止まって大きな机に飛び乗った。専用の段差があるけど、自分で用意したのかな?
「改メテ、ヨウコソラボへ。僕ハラッキービースト、コード:プロフェッサー。ココノ管理運用権限ヲ与エラレタ、コードホルダーッテ呼バレルラッキービーストノ一機ダヨ」
「コード……」
「ホルダー?」
「プロフェッサー……さん?」
「ウン、呼ビ易イナラソウ呼ンデクレテモイイヨ」
ぜ、全然知らない言葉がいっぱい出て来てちょっと混乱してる。コードホルダーって何だろ? それにラッキービーストさん……ううん、プロフェッサーさんって、一体何者? 私達の事をラボに入れてくれたから、悪いラッキービーストさんではないと思うけど……いや、そもそも悪いラッキービーストさんなんて居るか分からないか。
とにかく今はプロフェッサーさんに色々聞いてみた方が良さそうだね……頭から湯気が出そうなアムールさんやタカさんに説明する為にも。
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