強襲、勇気、戦い

 使った食器を片付けて、入ってた棚に戻していく。幾らラッキービーストさんが手入れしてくれてると言っても、使った物くらい自分で片付けないとね。


「タカさん、手伝ってくれてありがとうございます」

「いいのよ。あの紅茶って言うのもサンドイッチって言うのも美味しかったもの、お礼にこれくらいやらないと罰が当たるわ」


 洗った食器はタカさんが拭いて仕舞ってくれてたから片付けは随分楽だった。後、他のフレンズさんがふらっと入ってきたりしなかったのも助かった。もし入ってきてたら、多分お茶とサンドイッチを振る舞うのでまだ休めなかったろうなぁ。


「よし、終わりっと」

「お疲れ様。それにしても、料理って言ったかしら? ジャパリまん以外の食べ物なんて久々に食べたけど、美味しかったわ」

「ありがとうございます。簡単な物でしたけど、久々に作ったから美味しく出来るかちょっと心配だったんですよ」

「久々に作ったって事は、前にも作った事があるって事よね? いや、そうじゃないと作れないわよね」


 ……前に食べたり飲んだりしてもらってたのは、飼育員さんや従業員の皆にだったけどね。私が初めてお茶やサンドイッチを作って持っていった時の皆の顔、今でも覚えてるよ。……くよくよしちゃ駄目だね、皆が何処に行ったのかを探してるんだし、会えた時にまた皆に喜んで貰えるように作り方、思い出しておかなきゃ。それにアムールさんやタカさんが喜んでくれるなら、それはそれで作り甲斐があるし。

 食後にデザート、は流石に作れないけど、甘い物好きな人って結構居たから、私もちょっとだけ分けてもらったりしてデザートの美味しさは知ってたりする。機会があったらクッキーくらいは頑張ってみようか。まぁ、思い出してそれっぽく形にする程度しか出来ないけど……パンとかの応用で行ける、かなぁ?


「嫌ぁぁぁぁぁ!」

「ふぁう!? な、なんなんですか!?」

「外から? あの叫び声はちょっと普通じゃないわね……」


 テーブルで寛いでたアムールさんやロバさん達も気付いて立ち上がってる。アムールさんはタカさんを呼んで、タカさんも頷いて外に向かった。わ、私も一応確認に行こう。危なかったら他のフレンズさんの避難くらいは出来るかもだし。

 外に行ってみると、フレンズさん達が怯えながらスペースの外を見てる。視線をそっちに向けてみると……うわ、セルリアン!? しかも大きい! それがフレンズさんを体の両方から伸びた口で食べようとしてる!?


「だらっ、しゃぁぁぁぁ!」

「あ、アムールさん!?」

「相も変わらず無茶ばかりね! あいつは!」


 フレンズさんが食べられるって瞬間、逸早く駆けて行ったアムールさんが飛び掛かって……セルリアンを蹴り飛ばした。うわ、あれで飛んでいくの。アムールさんのキックって、凄い……。


「しょい、と! 流石に石狙わないと吹き飛ばすのが限界か。そこの子、立てる!? 立てるんならあそこに逃げて!」

「こ、ここ、怖くて動けないよぉ……」

「あっらー、そうかぁ。なら、っと……あたしが連れてくのは無理、かなぁ」

「私達はあいつの相手をした方が良さそうね」

「アムールさーん! その子は私が連れて行きますー!」

「おぉ!? タカにイエイヌちゃんまで来てくれたの!? 助かる助かるー!」


 来ない訳にもいかないでしょって言って、タカさんはアムールさんと並んでセルリアンと対峙する。……私も戦う事が出来れば……でも駄目だ、私じゃ足手纏いになっちゃう。とにかくまずは、震えちゃって動けなくなってるこの子をサービススペースに連れて行こう。ロバさんやインパラさんに任せれば多分大丈夫な筈。

 完全に立てなくなっちゃってるから、負ぶっていくしかないね。頑張れ私、これくらいはやらないと!


「イエイヌはそのままあそこで待ってて! こんな奴、あたしとタカで倒してやるから!」

「とはいえ、あの体の横から出てる口、厄介よ」

「アムールさん、タカさん……気を付けて」


 自分が出来る事を今はやるしかない。分かってはいる。けど、何も出来ない自分が……悔しい。いや、まずは背中で震えてるフレンズさんを助けなきゃ。考えるのは、その後だ。

 いつもよりは重くて足も遅いけど、なんとかスペースの中まで来れた。あ、ロバさんとインパラさんが待っててくれたみたい。


「イエイヌちゃん、大丈夫!?」

「止める前に飛び出して行っちゃうからどうしようかと思ったよ……その子、無事?」

「はい、なんとか。けど、まだセルリアンは……」

「アムールトラとタカが頑張ってくれてるんだね……その間に、なんとか皆を逃がさなきゃ」

「それはお願いします。私は……」

「イエイヌちゃん、今は逃げよう。大丈夫、あのアムールトラが居るんだし、タカも一緒なんでしょ? 逃げて待ってれば、きっと戻ってくるよ」


 逃げて、待つ……また、私は待つの? ……そうだよね、私はセルリアンをやっつけるような力も無い。出来る事なんて、待つ事くらいしか……。

 ……でも、アムールさんもタカさんも、戻って来なかったら? 私はまた、ずっと待つの? あの部屋で、戻って来ない飼育員さんをずっと待っていた時みたいに?

 それは……そんなのは、もう嫌だ! 折角アムールさんが連れ出してくれて、ようやくあの部屋から出られたんだ! なのに、また待つだけなんて! 考えるんだ、私には力は無い、けど考える事は出来る! 飼育員さんや従業員の皆が教えてくれた事、やっていた事を思い出せば、何か、何か出来る筈! そうだ、飼育員さんだって、アムールさんやタカさんみたいな力は無かったけど、フレンズさんを守る為に戦ってた! きっと私にも何……か……。

 そうだ、人はどうやって、飼育員さんはどうやってセルリアンを追い払ってたっけ? ……そうだ、あそこなら、きっと!

 急いでレストハウスに向かって、調べてなかった中を大急ぎで調べる。見つけたい物は一つ。シャワーがあったここなら、整備する為に……あった!


「……飼育員さん、私……頑張りたい。頑張って、きます!」


 見つけた物は、パイプ。木や壊れ易い素材じゃない、金属の鉄パイプ。これならすぐに折れちゃう事は無いだろうし、硬くて鋭い爪やセルリアンを吹き飛ばせるような力の無い私でも、少しくらい出来る事がある!

 レストハウスを飛び出して、アムールさん達の所へ向かう。探すのに少し時間が掛かっちゃった、急がないと!

 最後にセルリアンとアムールさん達を見たところに行くと、まだアムールさん達が頑張ってるのが見えた。二匹とも、セルリアンの長い口に手古摺ってるみたい。……私が真正面から向かっていってもあの長い口を避けられないかもしれない。気付いてない今なら回り込めるだろうし、行くならセルリアンの後ろからだ。

 戦況を見ながら、走ってセルリアンの後ろに……着いた! あ、セルリアンが振り回した口にタカさんが当たった!?


「うあぁぁぁ!?」

「タカ!? んな、ろ!」


 弾かれたタカさんはアムールさんが受け止めてくれた。けど、そこをセルリアンが狙ってる。体勢を崩してるタカさんもアムールさんもあれは、避けられない。


「やっば!?」

「しま……」

「させる……もんかぁぁぁ!」


 一気にセルリアンに駆け寄って、背中の大きな石に向かって手のパイプを振り被って……飛び上がるようにしてそこに目掛けて振り下ろした。くっ、硬い! 叩いた手の方が痺れちゃうよ! でも、それはセルリアンの方もみたい。詰所で赤いセルリアンをやっつけた時の事を思い出す。私の力で投げた石がセルリアンの石に少し当たっただけでも、セルリアンは痺れたようになって動けなくなってた。思い切り叩けば、割れなくてもその時より痺れさせられる筈!

 思った通り、セルリアンは悶絶するように動かなくなった。その隙にアムールさんとタカさんは体勢を整えてくれたみたい。って、私もボーっとしてないで一度離れなきゃ!


「タカさん、アムールさん! 大丈夫ですか!?」

「うぇぇ、イエイヌ!? なんでここに!?」

「いつつつ……イエイヌちゃんがここに居て、セルリアンの動きが止まったんだから答えは一つでしょ。どうやら、助けてもらっちゃったみたいね」


 良かった、セルリアンに弾かれたタカさんも、どうやら大事は無いみたい。っと、セルリアンも動けるようになったみたい。うぅ、大きな黒い目が私の事も見てる。だ、ダメダメ、弱気になって怯えたら、動きが鈍っちゃう。これは私が決めて頑張ろうと思ったんだ。怖くなんか、ない!


「助かったけど、危ないから逃げてイエイヌ。どうやらやられてあのセルリアン、イエイヌの事も敵って見たみたいだから」

「……アムールさん、お願いします。私にも、戦わせて下さい。もう、待ってるだけしか出来ない私に、戻らない為に!」


 私を見るアムールさんの横目はまだ心配そう。でも、タカさんは頷いてくれた。


「イエイヌちゃん、無理だけはしないって約束して。セルリアンの動きをしっかり見て、攻めるより避ける事を意識するの。出来る?」

「は、はい!」

「……はぁ、もーイエイヌはそんな覚悟した目してるし、タカも認めちゃったらあたしが折れるしか無いじゃん」

「アムールさん……!」

「タカが言った通り、無理しちゃ駄目だよ? ま、無理してもあたしが守ってあげるけどさ」


 アムールさんとタカさんがセルリアンに対して構えるのを見て、まだイマイチどう構えたらいいか分からないけど、私も持ってるパイプを構える。どうやらセルリアンは私の当てた振り下ろしに警戒したのか、こっちは見てるけど手は出して来ない。こっちが動いたら、仕掛けてきそうだね。


「二羽じゃあの口を振り切れなくてどうにも出来なかったけど、三羽なら二羽で口を引き付けて、一羽が石を狙えるわ。無理じゃない程度にお願い出来る? イエイヌちゃん」

「が、頑張ります!」

「あたし等は鳥じゃないぞぅタカぁ? ……へへっ、良い返事じゃんイエイヌ。そんじゃ……やらかしますか!」


 タカさんが上、アムールさんが左に動いたから私は右に回り込む。最初に狙われたのは私とタカさんか……石はアムールさんに任せて、捕まらないように動かなきゃ。

 セルリアンがアムールさんから意識を逸らすように、アムールさんとは逆方向に動く。タカさんが上空で素早く撹乱してくれてるから、私も動き易くて助かる。でも、さっきセルリアンに思い切り叩かれてたんだからあまり無理はしないで欲しいな。


「隙有りどっせい!」


 アムールさんが仕掛けて、またセルリアンが悶絶してる。石は割れないけど、痛み……って言うのか分からないけど、とにかく弱らせる事は出来てるって思いたいな。


「くぅー、かったい! こんな石が硬いセルリアンひっさびさだわ!」

「相手した事あるあんたが異常なの、よ!」


 タカさんが追撃で……踵落としだっけ? あれをしてる。なるほど、タカさんは飛んでるから相手の上に居る事が多いし、足で相手を打つ方がやり易いんだ。


「イエイヌちゃんのも含めて三発。それだけ入れても割れないとは、ね!」

「石の硬さは強さの証、って奴よ! こんなのがあそこに行ったら大惨事よ!」

「そんな事……させるもんかぁ!」


 タカさんとアムールさんに気を取られたセルリアンに近付いて、またパイプを振り下ろす。あ……ヒビが、入った!


「アムールさん!」

「聞こえちゃったよん! タカ! 一気に仕留めるよ!」

「了解! 全力で、行かせてもらうわ!」


 アムールさんの目と爪、タカさんの目と翼が光ってる。あれが、フレンズの本気の力……野生開放!


「イエイヌ、バーック!」

「お願い、します!」


 私が飛び退いたところに、アムールさんとタカさんが飛び込む。凄い、タカさんの翼が切り裂いて、アムールさんの爪が石を……打ち砕いた!

 セルリアンは一瞬空を仰ぐようにして……あのキューブみたいな石に砕けちゃった。やった……んだよね?


「……いよっしゃー! 大、勝利―!」

「はぁ……一羽では絶対に遭いたくない奴だったわね」

「お、終わった……はぁぁぁ……」


 安心したら、体から力が抜けちゃった。へたり込む前にアムールさんが支えてくれたから倒れ込む事は無かったけど。


「お疲れ様。へへっ、まーたイエイヌに助けられちゃったね」

「あ、あはは……ちょっとは、力になれましたか?」

「イエイヌちゃんがあの時来てくれてなかったら、最悪どっちか……私だっただろうけど、あのセルリアンに食べられてたわね」

「んーな事あたしがさせる訳無いじゃん? いやまぁ、ヤバかったけどさ」


 タカさんもアムールさんも終わったからか、安心して笑ってる。頑張った甲斐、あったかな。

 もう足にも力が入るようになったから、アムールさんに大丈夫って言ってしっかり立った。アムールさんはなんだか、もっと頼ってくれていいのにーって不満そうだったけどね。


「それにしても、イエイヌちゃんの持ってるそれは?」

「あ、鉄パイプって言います。私はその、残念ですけど、タカさんやアムールさんみたいな戦う力は無いんで、せめてこういうのを使えば出来る事もあるかなって」

「いや普通に凄かったけど!? けど思えば、イエイヌ別に野生開放はしてなかったよね? よくあのセルリアンの石にヒビ入れられたね」

「あ、そのー……実は私……出来ないんです、野生開放」


 サービススペースに戻ろうとしてたアムールさんとタカさんの足が止まった。うん、そうなんです。私、どれだけ頑張ってもフレンズさんが使える野生開放が出来ないんです。調べてくれた研究員さんに寄れば、生まれてからずっと人と一緒に暮らしていた私みたいな動物は、動物が本来持ってる野生らしさが欠如していて、開放すべき野生って言うのが少ない、もしくは無いのかもしれないって言われました……。


「え、えぇぇ!? って事はイエイヌちゃん、野生開放無しであれだけ動けたの!?」

「あぅ、その……はい」

「それ先に聞いてたら絶対に戦わせなかったよ……とは言え、あれだけ出来ちゃうのを見たら、次からは絶対戦わないで逃げてとは言えないけど」

「じゃ、じゃあ!」

「約束は忘れないでよ? 絶対無理はしない事。それが守れるんなら……これからも、力を貸してくれる?」

「は、はい! 頑張ります!」

「ふふっ、全く……イエイヌちゃんは真面目が過ぎるわね。ともかく今は一休みしましょ。流石に疲れたわ」


 そうだった、タカさんはセルリアンに叩かれてるし、それで野生開放まで使ってたんだった。多分かなりサンドスターの力は使ってるよね? 大丈夫なのかな?

 なんて私が心配してるのが顔に出てたのか、タカさんは微笑みながら私の頭を撫でて、これくらいでへこたれたりはしないって言ってくれました。そうだよね、タカさんも旅してるフレンズさんなんだもん、私が心配しないでも平気か。


「とかなんとか言って、結構今無理してんでしょ? あたしの背中、空いてますよん?」


 アムールさんの一言にタカさんはドキッとしたような顔をした。そして、私が目を見ようとしたら目を逸らした。流石アムールさん、だね。


「もー! 変に意地張らないで下さい!」

「い、いや、イエイヌちゃんもアムールトラも平気そうなのに私だけ弱ってるのも格好悪いかなと思って……」

「やっぱり弱ってるんじゃないですか! アムールさん!」

「イエッサー。ほらほらタカ、観念してあたしにおぶさりなさいな」

「恥ずかしいって言っても駄目ですよ!」


 観念して、タカさんはアムールさんの背中に乗った。サービススペースならゆっくり休めるだろうし、私もお茶とかまた淹れてあげられるね。

 で、スペースに戻った私達は……フレンズさんに囲まれました。声としては、大丈夫か尋ねてるのが半分に、凄ーいって声が半分くらいかな? あ、私は飛び出していったのを凄く心配してたロバさんやインパラさんに体中痛い所は無いかって聞かれました。

 とりあえずタカさんが疲れてるって事を説明して、まずはレストハウスで休んでもらう事にした。ベッドがあるの見つけてたからね。こんなフカフカの寝床初めてって言って、大分気に入ってくれたみたい。教えてもらってて良かったベッドメイキング。

 眠ったタカさんを起こしても悪いからって事で、一旦カフェに行って休もうかって事になって移動してきました。日は傾いてきてるけど、寝るのには少し早いかなと思って。


「全く、寝床に入ってすぐ眠っちゃうくらい疲れてるならもっと素直に頼りなさいってね?」

「本当ですね。あ、アムールさん。良かったらこれどうぞ」

「おっ? 何これ何これ? あの紅茶って言うのと違うね。お、冷たい」


 冷蔵庫に入ってたミルクだからね。……これも多分ラッキービーストさんが用意した物なんだよね? どうやって搾乳とかしたんだろ? まさか、フレンズさんから……?

 い、いや、あんまり考えないでおこう。なんと言うか、考えたら危険な気がする。なんでか分からないけど。

 私もコップで一杯飲んだけど、久々で美味しかった。飲んだアムールさんの笑顔も眩しいくらい輝いてるから、気に入ってくれたみたいだね。


「アムールトラー、イエイヌちゃーん」

「様子を見に来たけど、二匹とも大丈夫そうだね」

「あ、ロバさんにインパラさん。私達が疲れてるだろうからって皆に話してくれてたんですよね? ありがとうございます」

「いやー、あのまま囲まれ続けたらセルリアンと戦うより疲れるとこだったわ。ありがとね」

「あんなセルリアンの相手なんかよりずっと楽な事だよ。二匹とタカのお陰で、逃げて怯えなくても済んだっていうのもあるしね」


 そう言えば私がここに連れて来たフレンズさんは大丈夫かって聞いたら、ロバさんがお茶を出したりして落ち着いてくれたらしいです。ロバさん、早速お茶を淹れてフレンズの皆に飲んでもらってるみたい。試したくてうずうずしてたもんね。

 インパラさんから、あのフレンズさんはシロウサギさんって言うそうだって教えてもらった。なんでも、近くの森でのんびりしてたらあのセルリアンと出くわしちゃって、必死で逃げてる間に私達が見た状態になっちゃったそうな。泣きながらありがとうって言ってたって教えてもらいました。


「あれに出くわすなんて運が無かったねー……ま、あたし達がここに居たのはツイてたのかもだけど」

「にしても、イエイヌちゃんがいきなり飛び出してったのには驚かされたよ。しかもその後、アムールトラ達と一緒にセルリアンと戦ってるし」

「ご、ごめんなさい、心配させちゃいましたよね」

「それはもうすんごく! でも無事に戻ってきてくれたから、帳消しだね」


 何かを思い出したようにして、ロバさんは待っててって言ってカフェの台所に向かった。どうやら紅茶淹れてくれるつもりみたいだね。折角だし、楽しみに待たせてもらおうか。


「それにしても……どうしてセルリアンって、私達を狙ってくるんだろ?」

「それね。聞いた事あるのは、あたし達の中のサンドスターを食べる為だって事だけど……」

「それだと、セルリアンに食べられたフレンズさんが思い出まで食べられちゃうって言うのが、何と言うか……変ですよね?」


 確かにってアムールさんとインパラさんは唸ってる。セルリアン、か……私の知ってたセルリアンより遥かに大きくて、あんな伸びる口まで生やしたのも居る。まるで、成長してるみたいだよね……。旅を続けるなら、少しセルリアンについても調べてみた方がいいのかも。自分達の身を守る為にも、必要な事かもしれない。

 とは言え、それもすぐには答えが出ない事だし、今は休まなきゃだね。もう夕方だし、元々ここに一泊するつもりだったからそのまま何処か……まぁ、レストハウスが妥当かな? そこでしっかり休んで、明日はラボに向かってまた頑張ろう。

 っと、頭の中で今後の計画を考えてたら、ロバさんが紅茶を持ってきてくれた。わぁ、私が淹れたのと遜色無い。ロバさんあの一回見せたので覚えちゃったんだ。凄いなぁ。


「ふふん、どーよ! これでも物覚えの良さには自信あるんだ!」

「とかなんとか言って、シロウサギに紅茶を出した時は大分手古摺ってたみたいだけど?」

「そ、そういうのは言わなくていいんだってインパラ!」


 少し冷ましながら口に含むと、紅茶の良い香りが口いっぱいに広がる。うん、美味しい!


「美味しいですロバさん!」

「本当!? 良かったー!」

「ぐぬぬ、まだあたしは熱くて飲めない……」

「アムールトラは冷たい飲み物の方が嬉しそうだねー」


 インパラさんの一言で思い出して、ロバさんに冷蔵庫に入ってる飲み物の事も教えてあげた。ロバさん、ここに来るフレンズさんに休んでもらう時に出すんだーって張り切ってたから、教えておいて損は無いよね? まぁ、補充はラッキービーストさんが来ないと出来ないから、限界はあるだろうけど。

 とにかく飲み物も貰って元気も出たし、後は眠って明日に備えようって事になったよ。ロバさんとインパラさんはそのままカフェで休むみたいだから、私とアムールさんはレストハウスに戻ったよ。

 ベッドは用意してからカフェの方に行ってたから、後は横になるだけだし電気は点けないでおこう。タカさんはまだ眠ったままみたいだしね。


「いやー疲れた疲れた。っと、あまり煩くするとタカ起きちゃうか」

「ですね。今日はもう休んじゃいましょうか」


 薄明かりの中で自分のベッドに横になろうとしてたら、トントンとアムールさんに肩を叩かれた。振り返ってみると、ベッドに横になったアムールさんが両手を広げて私が来るのを待ってました。いや、何故。


「あの、アムールさん?」

「あたしのここ、空いてますよ?」


 あぁそっか、昨日みたいにならないようにって気遣ってくれてるんだね。いやでも、正気な状態だとかなり恥ずかしいんじゃないかなぁ? というか私は大分恥ずかしいです。

 なんて迷ってる間に、体を起こしたアムールさんに捕まって、そのまま横にされました。もちろん腕の中で。


「わ、わぅ……」

「……夜中に目が覚めて、寂しくなっちゃったら辛いでしょ?」

「……そうですね」


 うん……アムールさんの腕の中、なんだか凄く安心する。もう少しだけ身を寄せて、眠っちゃおうかな。


「今日はお疲れ様。お休み、イエイヌ」

「はい……お休みなさい、アムールさん」


 アムールさんの温かさに包まれながら目を閉じると、またアムールさんの音が聞こえて来る。優しい、落ち着く音。傍に居てくれるって分かる、安心出来る音。

 今日は、怖さも寂しさも感じずに眠れそう……こんなに安心して眠れるの、何時以来かなぁ……。

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