休憩、力量、一息
サービススペース……そこはパークの見学に疲れたお客さんの為の休憩や買い物、食事が出来るようにお店が開かれてるスペース。確か各地方にあって、建物はその地方の景観を損なわないような色や形にしてるんだった筈。なんて言っても、私は温暖地方のに連れられて来た事しか無いんだけど。
でも、そこも私が覚えてるサービススペースとは違った様相になってた。いや、別に詰所みたいにボロボロになってる訳じゃないんだけど……。
「えーっと……」
「あ、サービススペースってここかぁ。あたし何度か来た事あるわ」
「私もあるわね。雨降った時なんか凄く助かるし」
アムールさん達が言う通り、今はフレンズさんが立ち寄る休憩スペースになってるみたい……。寛いだり話をしてるフレンズさんが結構な数居ます。あーでもそうか、ここってフレンズ避けが無いからお客さんが居た時も結構フレンズさんが入り込んでた気がする。
ここならまた使えそうな物探せるかもと思ったけど、これだけフレンズさんが居たら流石に物探しも難しいかなぁ……と言うか、見つけてアムールさん達に使い方とか説明してる間に大変な事になりそうな気しかしない。
「それで、ここに来たのはいいけどどうするの? 休んでいく? それともすぐにラボを目指すの?」
「んー……日はまだ高いですけど、今まで詰所から進んできた距離を考えると、ラボまでまだ同じくらいあるんですよね。向こうに着く頃には真っ暗になってるかもしれませんし、今日はここで休んで行くのはどうかと思うんですけど」
地図を見て、とりあえず直線距離でそれぞれの長さを二匹に見てもらう。確かに同じくらいだって言ってるから、私が言った事は分かってくれたみたい。
そういう事だから、とりあえずここから出ないようにしつつ自由行動にしようって事にした。勿論何かあれば私を呼んで下さいとは言っておく。何か見つけて、それが私が分かる物なら教えてあげられるし。
「さて……どうしようかな?」
とりあえず建物の中を確認しようか。ん、扉が開けっ放しだ。見た目は壊れてないけど、自動ドアなんかは壊れてるのかな? ……いや、見た限り鍵が掛かったのを力任せに開けたっぽいかな? 電源スイッチもオフになってる。スイッチ入れれば動くかな? いやでもあんまり変な事して目立ち過ぎるのも困るかもだし、止めておこう。
「こんにちはー……誰も、居ないかな?」
ここは、雑貨屋さんかな? ちょっと荒らされてるみたいだけど、ペンやメモ帳が商品棚にあるみたい。あ、これ便利だしちょっと貰っていこうかな? 本当はお金って言うのが必要だとは教わってるけど……渡す人が居ないし、申し訳ないけど貰っていこう。
「あと使えそうな物は……薄暗くて探し難いなぁ。点くか分からないけど、先に明かりのスイッチ探そ」
こういう人の建物なら明かりのスイッチを押せばライトで明るく出来るのは教わってるしね。まぁ、電気が来てなかったら意味無いんだけど……一応試すだけ試してみよう。
壁を見ながらお店の中を見て回ったけど、スイッチが無い。となると、ありそうなのはお店の人しか入っちゃいけないって教えてもらったカウンターっていうのの先の部屋かな? 入っていいよね? なんだか、入っちゃいけないって言われてた所に入るのって少しワクワクしちゃうな。
入ってみると、そこには詰所の事務所……よりは格段に狭いけど、似たように机や椅子、それからモニターなんかがある部屋だった。このお店の事務所ってところかな? 色々見てみたい気はするけど、まずは明かりだね。お店の奥だから、入り口からの光も薄くしか届かなくて暗いなぁ……っと、危ない危ない、また暗いのに呑まれるところだった。早くスイッチ探しちゃお。
「え……っと、ん? これかな?」
何個か壁にスイッチが固まってるのを見つけたから、試しに事務所って書かれたスイッチを押してみた。おぉぉ、明るくなった! 凄い、まだ電気が来てるんだ!
嬉しくなってスイッチを全部押す。やった、お店の中も明るくなった。ここには電気が普通に来てるって事だよね。詰所がダメになってたから他の場所もそうかと思ったけど、どうやらそうでもないみたいだね。
「ひょわぁぁぁぁ!?」
「え、何、何!?」
……明かりを点けた途端、奥から悲鳴が聞こえて来て、何か物が崩れたような音がした。まさか、誰か居た!? しかもひょっとして、私が明かりを点けたのに驚いて物崩したとか!? こういうお店は品物の替えをお店の奥の倉庫に入れてるって聞いた事あるし、それを崩してたとしたら大変だ。急いで見に行かなきゃ。
どうやら倉庫の入り口は奥だけど、部屋としては事務所の横だったみたい。まぁ、サービススペースにある小さなお店だしね、奥だってそんなに広くなくて当たり前か。
「あ、あのー……誰か居ますかー……?」
「……けて……」
「ん?」
「助けてー……動けない……」
うわ、段ボール箱で見えないけど、声はしたから多分下敷きになった誰かが居る。とにかく箱をどけて助けなきゃ。んと、うん、持って運べる重さだから私でもなんとか出来そう。
せっせと箱をどけて、下敷きになってる人……じゃないね、フレンズさんを発見。上の箱を動かせば大丈夫そうかな。
「はぁ、助かった……」
「良かった、大丈夫ですか?」
「なんとか……ん? あら? あなた、見た事の無いフレンズね? てっきりインパラ辺りが来てくれたのかと思ったんだけど」
インパラ? あ、そう言えば表の離れたところにフレンズさんが居たような……いやでも中で何かあっても表じゃ気付かないんじゃ? 耳が良いフレンズさんなら気付くかもだけど。
とにかくまずはこのフレンズさんに手を貸して立たせてあげる。うん、フレンズさんも何処かが痛いとか言わないし、外傷も無さそうだね。一安心……したらちょっと申し訳ないけど、よかったよ。
「にしても驚いたわー、どうして急に明るくなったんだろ?」
「あーその、すいません。私が明るくなるか試してたら明るく出来ちゃって」
「へ? あなたが明るくしたって……あなた光れるの!?」
いや何故そんな結論に? どう考えても、しかも今目の前に居るんだから光ってないのは見れば分かると思うんだけど……変わったフレンズさん、なのかな?
けどちょっと待とうイエイヌ、この目の前の子は暗いにも関わらず倉庫に居た。そして特に怯えていた様子は無い。つまりこの子は、暗い部屋を探検するくらい好奇心が強い可能性が高い! 変な事を言えばあっという間に目を輝かせると思う。……明るくなるか試したは余計な事を言ったかもしれない。言葉を考えて言わないと、多分質問の嵐が始まる。ちょっと今は他の所の物も調べたいからそれは避けたい。考えて、考えるんだイエイヌ。
「いや、光れたりはしないです。ただ、外の明かりを入れられるところが無いかって壁を調べてたら突然明るくなって……」
「あーなるほど。確かに明るい方が色々見易いもんね」
よ、よし、切り抜けられた……かな?
「で、何をしたら明るくなったの!? 教えて!」
あ、まだピンチは続いてるよこれ。ま、まぁ、これは偶然触った事にすればいいだけだから大丈夫、大丈夫……だよね?
隣の事務所の明かりのスイッチの所に行って、これを触ったら明るくなったって事を説明。あくまで偶然触った事にしてだけど。
「へー、こんなのあるの全然気付かなかった」
「私も壁を触ってたら手に何か当たって、気が付いたら明るくなってたんですよ」
私がスイッチを押してるところを見られてたら絶対に嘘だって分かるけどね……あぁ、嘘吐いてごめんなさい、見知らぬフレンズさん。
とにかく明かりを点けたり消したり出来る事に目を輝かせ始めたフレンズさんの様子を気にしつつ、なんとか倉庫を見てみたいんだけど……流石に難しいかな? 多分お店の方に並んでた物より新品の物があると思うんだけどな。
「よし! そうと分かったら他の所も見に行かなきゃ! ありがとー!」
「えぁ、どういたしましてー……行っちゃった」
……結局何がしたくてここに居たのかは分からないけど、まぁよし。倉庫の中を確認しよう。雑貨屋さんだから、道具なら色々あるかもだし。
「……で、探してみたけどめぼしい物は無し、か。はぁ……」
思い出すと、確か各地方のお店には火事の元になりそうな物は売ってないって教えられた気がする……そもそもフレンズさんが基本火を怖がるからそういう物は置けないんだっけ? 多分私がそういうのに慣れ過ぎちゃってるんだろうなぁ。
電池って言う電気を貯めておける物を入れると動くって教えられた物も全部駄目。電池を入れ替えてみてもうんともすんとも動いてくれない。結局、ここで見つけた便利な物はメモ帳とペンくらいか……しょうがない、他の所を見に行こう。……ん? 誰かの足音がする。また誰かフレンズさんが入ってきたのかな?
「あ、居た!」
「へ? あ、さっきの」
「あなたを探してたのよ! まだここに居たね!」
探してた? 私を? なんで? って考える間もなく詰め寄られた。え、本当に何事ですか?
「……あなた」
「ひゃい!? じゃなくて、は、はい? なんでしょう?」
「さっきの明るくするのの事……知ってたでしょ」
ふぁ!? な、なんで!? さっきは何も疑問に思ってる様子無かったのに!
「インパラ! この子で間違い無い!?」
「あー……うん、この子だね。君、ここに入る前にさ、入る所で下とか上とか見てたでしょ。それに、上にある何かに触れようとしてたし。なんだろうと思って見てみたら変なのがあるのは見えたけど、ロバが戻ってきてそれ教えたら、その変なの押してみてって言われてさ。押したら横の壁が動いてロバ挟まれたんだ。いやー、ふぎゃっ! なんてロバの声初めて聞いたよ」
あ、あの時かー! 誰も気にしないだろうと思って軽く調べたのが仇になるなんて……。ま、不味いかな?
「わ、私の事はいいのよ。それよりあなたよ。あの明かるくするのに似たの、普通なら全然気付かないところにあったわ。あんなのに気付くのは、そこにあれがあるのを知ってたから。違う?」
うぅ、言い訳出来ない。自動ドアのスイッチなんて、知ってて気にしないと気付く筈無いもんなぁ。うーん、無理に隠すのは無理だよね……。
「あぅ、その……ごめんなさい、知ってました」
あ、やっぱりって言って……ロバさんだっけ? ロバさんの目が俄然輝き始めた。これ絶対巻き込まれる奴だ……。
「そっかー知ってたのねー、んふふー」
「わぅぅ……」
「あー、そんなに怯えなくていいよ? 私はインパラ。よろしくね」
「あ、はい。私、イエイヌって言います。よろしくお願いします」
……インパラさんの手に持ってるあれは、角? あ、そう言えばフレンズさんって、時々動物からフレンズ化した時に自分の強い部位が道具みたいな形になるフレンズさんも居るって聞いたっけ。インパラさんそれかな?
「あ、私はロバね。で、で! イエイヌだったよね! あなた、ひょっとして明かるくする以外の事も知ってるんじゃない!?」
「え、えーっと、その……」
「んまぁ、この勢いで言われたら戸惑うよね。私達、ここにある物を他のフレンズが触って時々動いてるの知ってて、危なくないかとか見て回ってるんだ。ま、やってるの殆どロバなんだけど」
へぇ、そういう事だったんだ……ロバさんが最初ここに居たのもその関係なのかと思って聞いたら、それは何があるか気になったから! って元気に返事されたけどね。
けどそういう事なら逆に何が動くのかを調べるのは楽になるかな? っと言うかもうロバさんが私を逃がさない状態だから教えるしかないんだけど。
「分かりました……私が分かる範囲でにはなりますけど、一緒に確認しましょうか」
「やった、ありがとう! これで見てるだけしか出来なかったよく分からない物の事も分かる!」
「あー……分からない物については分からないって言っていいからね? ロバが期待し過ぎなだけだから」
ふむ、インパラさんはロバさんと違ってあまり興味が無さそうかな? まぁ落ち着いてくれてるのは助かるけど。
で、カフェやお土産物屋さん、軽食店を次々と連れられて見て回る事に……驚いたのは、何処も使用可能な状態を維持されてる事だった。インパラさん曰く、どうやら時々ラッキービーストさんが来て色々やってるみたいだとの事。でもまさか冷蔵庫の中の食材までしっかり用意されてるのには驚かされたよ……多分パークの管理の仕事の内の一つなんだろうなぁ。
「えっとこれは……うん、動く。少し時間が掛かるけど、ここを押せばここの丸いところが熱くなってきて、物を温めたり出来る物ですね。けど、ちょっと危ないかもしれないんであまり触らないようにしておくのが良いと思います」
「へぇー、これが熱くなるの? あ、本当だじんわり熱く……アチチ!?」
「いやだからイエイヌちゃんが熱くなるし危ないって言ってるんだから話聞こうねロバ……」
ロバさんは私が説明するとなんでも自分でも触って確認してみて、インパラさんはしっかり話を聞いてくれてる感じかな。二匹でそれぞれ理解してくれてれば結構安心かな。
にしても……疲れた。結局施設は殆ど問題無く動くって事は分かったけど、それはつまりで全部説明しなきゃならないって事だから余計大変だった……お陰でここなら色々出来そうって事は分かったんだけど。
「それにしても、ここってあんなに出来る事があるところだったんだ……日陰があって涼しいとか、雨が降ったら隠れられるとかしか使ってなかったの勿体なかったね」
「本当だねー。それにしてもイエイヌちゃん、凄く物知りで助かっちゃった!」
「いえいえ、お役に立てたなら良かったです。ただ、さっき言った通り分からずに使うと危ない物もあるんで気を付けて下さいね」
ふぅ、カフェの椅子で一休みだよ。本当なら飲み物も用意すればいいのかもしれないけど……やったら多分、ロバさん達以外のフレンズさんも集まってきて大変な事になりそうだから止めておこう。激務の予感しかしない。
「やっほーイエイヌー」
「その子達に連れられて色々頑張ってたみたいね」
「あ、アムールさんにタカさん」
「ん? イエイヌちゃんの知り合い?」
「知り合いと言うか、一緒に旅をしてるんです。始めたのは昨日からなんですけど」
どうやらタカさんは上から私がロバさんに連れ回されてるのを見て知ってたみたいです。危なそうだったら助けてたけど、その心配は無さそうだったから見てるだけだったそうな……いやまぁ凄く楽しそうなロバさんを止めるのが可哀そうだったって言うのが本音みたいだけど。
ん? アムールさんを見るインパラさんの目がキラキラしてる? どうしたんだろ?
「……ねぇ、そっちのフレンズさん。あなた、なんて動物?」
「ん、あたし? あたしはアムールトラ。よっろしくー」
「アムールトラ……へぇ……」
「あ、インパラのやる気スイッチが入った」
「ん? どういう事ですか?」
「ねぇ、アムールトラ……私と、力比べしない?」
力比べ? って私が疑問を抱いてるのにタカさんが気付いたのか、力比べについて教えてくれた。ようは足の速さとか力の強さとかを競い合って、お互いの実力を披露しあおうって事みたい。
「知恵比べとかやったら、イエイヌちゃんに勝てるフレンズは居無さそうね」
「いやー、どうでしょう?」
「インパラは運動とか体を動かすのが大好きで、それで力比べするのが大好きなんだ。負けず嫌いなのに強そうなフレンズが居るとワクワクしちゃって、力比べを挑まないと気が済まないんだよね。目指せ、パーク最強のフレンズ! ってね」
「あ、イエイヌちゃんと知恵比べするのは無理だって思ったから安心してね」
いやインパラさんの一言に皆で納得しなくても……。知ってると知恵比べじゃ大分勝手が違うだろうからどうなるか私にも分からないかな? いや、そもそもあまりやりたいと思わないけど。
「にしても、アムールトラに挑んじゃうか……インパラだっけ? あの子の得意な事って何かしら?」
「足が速い事ね。この辺りじゃ一番速いんじゃなかったかな?」
「うーん……それって、チーターに勝てる?」
え、チーターって……それ走るのなら誰にも負けないって言うくらい足の速い動物だった筈。この流れでなんでチーターさんが出て来るんだろ? ……ま、まさか、アムールさん?
恐る恐るタカさんに聞いてみたら、私の予想が的中でした。ロバさんはまっさかーって笑ってるけど……タカさんの苦笑いが全てを語ってるよ。
「で? 力比べで何するの? そっちの好きな事でいいよー」
「じゃあ、速さ比べ! へへっ、私の足は速いよ?」
「ほほぅ、それは楽しみ。何処走る?」
「ここの周り。中は通らないで外側をぐるっと」
様子を見てる内にサクサクと力比べの内容が決まっていく。どうやら私やロバさんが立ち会いで審判、タカさんが不正が無いか上から見てる事になるみたい。スタートは、サービススペースの入り口の門からだね。
「はーい、それじゃあどっちも用意はいいー?」
「あたしはいつでもー」
「私も、いいよ」
「えっと、タカさーん! 始めていいですかー!」
「いいわよー!」
インパラさん凄いワクワクした顔してる。アムールさんは、いつも通りかな? 足とかプラプラさせてるけど、特に構えたりはしないみたい。大丈夫なのかな?
ロバさんが手を上げて……始め! って言いながら下ろした。それと同時にインパラさんは走り出す。うわ、速い。どんどん背中が小さくなっていくよ。
対するアムールさんはその様子に二ッと笑った後、ぐっと足に力を溜めるような構えをしたかと思ったら……凄い勢いで走っていっちゃった。う、嘘ぉ……。
二匹の姿が見えなくなってからはタカさんが二匹の居る辺りを向きながら実況してくれるのを聞く。な、なんかもう先に行ったインパラさんにアムールさんが追い付いたみたい。
「相変わらず冗談みたいな速さね……アムールトラ、インパラを追い抜いたわよー!」
「うぇぇぇ!? こんなに速く!?」
「残り半分、これは……アムールトラ、逃げ切るつもりね」
そのままタカさんの向き変えを追ってたら、誰かの姿が見えて来た。あれは……アムールさんだ。
そのまま走ってきて……門から少し前くらいで両足を揃えて前に突き出すようにしてブレーキ。ただ走ってただけな筈なのにずざざざーなんて音させながら止まるの、私初めて見たよ……。
「んんー、しょっ、と! いやー走った走った! 力比べなんて久々だからちょーっと張り切り過ぎたかなー」
「ど、どれだけ足速いんですかアムールさん……」
「ふっふっふー、旅から旅でめっちゃ鍛えられてるからね! 鍛えたら鍛えるだけ速くなるんだから、フレンズの体って不思議がいっぱい!」
「それ、あんただけだから……」
呆れながらタカさんが降りて来た。そうか、タカさんは力比べじゃないけど、飛んで移動してるのにアムールさんに先回りされたって経験があるって言ってたっけ。こうなるのも大体予想出来てたんだね。
で、タカさんが降りて来たんならそろそろかなと思って見たら、息も絶え絶えでこっちに向かってるインパラさんが見えました。あたしに追い付こうと凄い必死に走ってたのは知ってるけど、無理させちゃったかな? とはアムールさんからの一言です。あ、ロバさんはアムールさんがゴールしてからずっと口開けて固まってます。
よろよろっとしながらなんとかインパラさんも……ゴール。と同時に倒れちゃいそうだから支えてあげました。うわ、汗だくだし体が凄く熱い! きっと凄く頑張り過ぎたんだろうなぁ。
「い、インパラさん? 大丈夫ですか?」
「……く」
「く?」
「悔しーよぉー! あっという間に抜かれて全然追い付けないなんてー! チーターでももっと善戦出来たのにー!」
「チーターかー。懐かしいなー、あの子もインパラみたいに悔しがってたわー」
さらっとチーターさんに勝った事がある事を公表……アムールトラってそんなに速く走れる動物だったっけ……いや、アムールさんの旅の賜物って事なのかな。一体アムールさん旅しながら何してたんだろ? 聞くのちょっと怖いなぁ……。
とりあえず私に抱きつきながら悔しくて泣いちゃってるインパラさんの頭を撫でてあげる。うん、インパラさんも私がどう頑張っても追い付けないだろうってくらい速かったんだよ。それは本当。ただ……相手が悪過ぎたんだよ……。
「うぇーん、イエイヌちゃーん! 私頑張ったんだよー!」
「だ、大丈夫大丈夫。インパラさんも凄かったの、私見てましたから」
「ふっ、またあたしの溢れんばかりのパワーが可愛い子を泣かせてしまった……あだぁ!?」
「加減をしなさい、あんたは」
あ、泣いてるインパラさんに気付いてロバさんも正気に戻って慰めてあげてる。アムールさんは、気付いたら観客になってたフレンズさん達に凄ーい! って言われながら囲まれてちょっと照れちゃってるみたい。タカさんはやれやれって感じだね。
インパラさんも落ち着いて来て、ようやく私も腕の中から解放されました……で、汗を掻いたり疲れてる時に休むのに丁度良いところがあったのを思い出して案内中です。向かうのはこのサービススペースのレストハウスってところ。お金は少し掛かるけど、中で寛いだりシャワーを使ったり出来る場所だって覚えてる。他の所がそうだったからここも……うん、整備されてる。
「ちょっと待って下さいね。ここを捻れば……っと、出た! 大丈夫そうで良かった」
「おぉ!? イエイヌ何それ! 水!?」
「はい。シャワーって言って、簡単に言えばこうやって水を流して水浴びが出来る物ですね。インパラさんは汗も大分掻いてるみたいですし、流せるとさっぱりしていいかなと思いまして」
「わー! これそういうのだったんだ! この並んでるの全部使えるの!?」
あ、それはどうだろ? と思って五つ並んでるシャワーを確かめていったら、どれも動いたから大丈夫みたい。それを説明すると、折角だから皆も水浴びするって事で一休み。アムールさんには忘れないようにポーチを外すのだけは伝えておかないとね。中の四角いの、濡らしたら不味いかもだし。
本当は毛皮、というか毛皮が変化した服も脱げるって教えようかと思ったけど……皆気にしないだろうからそのままでいいかと思って止めた。私もそのまま浴びちゃおうか。
昨日もアムールさんと詰所の池で水浴びしたけど、こうやってシャワーに当たるのもまた気持ち良い。そう言えば犬の姿だった時は水が降ってくるのが怖かったけど、このフレンズの姿になってきちんと使い方とか教えてもらってからは怖くなくなったっけ。今じゃ寧ろさっぱりして好きなくらいだもんね。
よし、さっぱりすっきり。体の水気切って、外で乾かせばばっちりだね。皆も終わったみたいだよ。
「はぁー、こういう水浴びの方法もあるのね。イエイヌちゃんと居ると色々知れるわ」
「池で泳ぎながら水浴びするのもいいけどこれもいいねー」
「これは良い事教えてもらっちゃった。後で他のフレンズにも教えてあげよっと」
「……体はさっぱりしたけど悔しいのは抜けないよ。足でなら負けない自信あったのになぁ」
それぞれに思う事はあるみたいだけど、まずは体を乾かしちゃおうって事で外に出てカフェ入り口前のテーブルへ。これだけ天気が良ければ、ここの椅子で休んでたらすぐ乾いちゃうね。
「いやーそれにしても、今日だけで殆どここの物が調べられちゃうとは思わなかったよ。手伝ってくれてありがと、イエイヌちゃん」
「手伝ってくれたって言うか、イエイヌちゃんに頼りっ放しだったけどね」
「うっ!? インパラ、痛い、その一言が痛いよ」
「あはは……でも私も助かりました。ロバさん達が先に変わった物があるのを見つけてくれていたから探す手間が省けましたし」
「ん? 探す……あ、そうだタカ! あれあれ!」
「あ、そうだった。ちょっとイエイヌちゃんに見てもらいたい物を見つけたんだけど、見て貰えるかしら?」
ん? なんだろ。タカさんから手渡されたのは……これって、双眼鏡だ! 飼育員さんが使ってたのを見た事ある! 確かこうやって覗けば、遠くの物をはっきり見る事が出来るんだよね。
「タカさん、アムールさん! これ良い物ですよ!」
「おっ、本当!?」
「その分だと、どういう物かも分かってるみたいね。教えてくれる?」
勿論。と言ってもタカさんにはあんまり必要無い物かもだけど……使い方、覗くだけだって言うのを教えると早速って感じでまずはアムールさんが試す事に。うわ、ジャンプしてカフェに登っちゃった。いやもう足の力が凄いのはあの走りで分かったからあまり驚かないけど。
「えっとこうやって? ……おぉー! あんな所の木まではっきり見える! 目の前にある訳じゃないよね? あ、全然触れない!」
「えーどんな感じなのアムールトラ! 私も見てみたいー!」
スタッと戻ってきたアムールさんが大はしゃぎでロバさんにあっち見てみ! って言ってる。で、覗いたロバさんも凄い凄いって言いながら喜んでる。けどこれ、何処にあったんだろ?
「タカさん、あれって何処にあったんですか?」
「水浴びしたところの上の方に引っ掛かってたの。なんだか変だから取ってみたらあれだったのよ」
レストハウスの屋根の上? んー誰かが登って使ってたのを落として、それが引っ掛かって残ってたって事かな? でもなんでそんな事を? フレンズさんの観察用に使ったんだとしても、屋根に登るなんて危ないし……うーん?
首を傾げてる間にタカさんも双眼鏡を持ってた。ん? でもタカさんって普通に凄く目が良い筈じゃ?
「あら凄い。野生開放しないでもあそこまで見えるの便利ね」
「うぇ、ならタカって野生開放したら目だけであそこまで見えてるって事? すごっ」
「鷹の目を舐めないでよね。けど野生開放は疲れるから、これあると助かるわね」
「あの、タカさんって普段から遠くまで見えてる訳じゃないんですか?」
「えぇ。フレンズになる前なら見えてたけど、フレンズになってからは野生開放しないと見えないわね。それでもかなり目は良い方だとは思ってるけど」
野生開放……確か、フレンズさんが出来る自分の動物としての能力を最大限開放する力、だったかな? ただし発動すると体のサンドスターの力も開放されて一気に消耗しちゃうリスクもあるらしいんだっけ。タカさんは野生開放すれば双眼鏡で見るよりはっきり綺麗に遠くまで見れるって断言してる。けど普段は他のフレンズさんよりちょっと目が良い程度って事みたい。
「ねぇアムールトラ、これ私に頂戴。野生開放無しでこれだけ見れるようになるのは助かるし」
「えー? んーまぁ飛べるタカが遠くまで見れる方がいいかー。分かった、いいよ。イエイヌもそれでいい?」
「あ、はい。それならタカさん、それの紐の所を首に掛けておくといいと思います。持ってさっと見れますし」
「なるほど。ん、羽が引っ掛かる……よい、しょっと。あぁなるほど、これなら確かにすぐに覗けるわね。ありがとう」
元々こういう道具は人が自分の足りない力を補う為に作られた物だから、フレンズの状態の私達にも相性は良い筈。これからもこういう便利な道具は分かる範囲で上手く使いたいね。
「えーいいなータカ。私もそういうの欲しいなー」
「それに、アムールトラやイエイヌちゃんも何か付けてるよね? 旅をしてるフレンズって皆そういうの付けてるの?」
「これはイエイヌに使い方を聞いて付けるようになった物だしねー。他の旅してるフレンズは付けてないと思うよ?」
仮に何かを身に付けて使いこなしてるフレンズさんが居れば、そのフレンズさんは私と同じく人に色々教えてもらった事があるフレンズさんかもしれないし、是非お話してみたいな。
さて、羨ましがってるロバさんに流石に私達の身に付けてる物をあげる訳にはいかないから、せめて一つ出来そうな事を教えてあげるんで許してもらおうか。……ちょっと、飲み物欲しくなっちゃったしね。
ロバさんを誘ってカフェの中へ。と思ったら皆ついて来る。いやまぁ気になるよね、分かってたけど。
「さっきは危ないって言いましたけど、これはきちんと使えば良い物が色々作れるんです」
居るのはクッキングヒーターの前、というか台所だね。そろそろお昼だし、軽く軽食も用意しようかと思って。料理なんて本当に久しぶりだなぁ……。刃物の使い方を教えるのは流石に危ないから、色々切ったり出来るフレンズさんは居ないか聞いたら真っ先にアムールさんが手を挙げてくれました。それならお手伝いをお願いしよう。
まずは水を沸かしてお湯を作る。うんうん、カフェだったのもあって紅茶の茶葉とかシロップなんかも全部揃ってる。確かパークには自給自足が出来るように、食材やこういうお茶の葉なんかを作ってる大農園が何処かにあるんだっけ……そういうの無いとジャパリまんとかの供給も出来なくなっちゃうもんね。
とはいえ、私も行った事無いし少なくとも温暖地方には無いから旅を続けてる間に行けたらいいな程度に覚えておこう。
「へぇー、その変なのに水を入れて、さっきの熱くなるのの上に置けば水を熱く出来るんだ」
「そうですそうです。その時はこの入れ物、薬缶も熱くなるんでくれぐれも……」
「ぅアッツ!?」
「……触らないで下さいね?」
「ロバ……とりあえずイエイヌちゃんの話聞いてから動こうね?」
「……ごめんなさい」
ヒーターに掛けてる薬缶に触っちゃったロバさんにはとりあえずシンクの水道から出る水で指を冷やしててもらって、お湯は準備出来たから次の工程に進む。ティーポットを用意して、次はティーバッグをそれに入れる。本当に美味しい紅茶を淹れるならお茶の葉で色々して作るのが良いらしいんだけど……私もそっちは覚えきれませんでした。ルールが複雑過ぎてもう、ね。
だからとりあえず略式って事で教えてもらった方法で淹れます。ティーバッグを入れたポットにお湯を注いで、しばらく待つ。大体お湯に茶葉の色と香りが移って馴染むまでだね。
「あ、なんだろう……凄く良い匂いがする」
「多分この紅茶の香りですね。休憩とかで飲むと気分が落ち着いたりスッキリしますよ」
「なるほど、イエイヌちゃんはこの紅茶の作り方を教えてくれようとしてたんだ!」
「はい。さっき見て回った時に使えそうな物は残念だけど無かったんで、せめてと思って」
「私達と見て回ってた時にそんなのも見てたんだ……凄いねイエイヌちゃん」
あんまり凄いって言われるとちょっと照れちゃうな。っと、そろそろ紅茶はいいかな? ならこれに何かシロップを落とす。うーん……今回はメイプルシロップを少し落とそうか。本当はお茶全体の温度が下がるから、先にシロップをポットに入れておくのが良かったんだっけ……久々だから少しその辺りが曖昧かも。
ま、まぁ、ロバさんやインパラさんに教えるのが主体だから簡単な方がいいよね。シロップを落とした紅茶を少しスプーンで混ぜれば……よし、完成! 後はカップに注げば、私が知ってる簡単な紅茶の作り方は完了かな。
「おぉぉー!」
「とりあえず二杯出来ましたから、ロバさんとインパラさんでどうぞ。タカさんとアムールさんの分はまた淹れますね」
「わぁ、今までこんな良い匂い嗅いだ事無いかも……」
熱いから気を付けて飲んで下さいって言うと、流石にロバさんも気を付けてくれたのかゆっくり飲むようにしてくれてる。立って飲むのも疲れるだろうし、カフェの中の席で座って飲むよう促したよ。
「ところでイエイヌ、あたしは何を手伝えばいいの?」
「あ、そうだった。アムールさんには……これらを食べ易い大きさに切って欲しいんです」
冷蔵庫の中に野菜と食パンが入ってるのは確認してたからね、作るのは野菜サンドイッチです。調味料も揃ってるみたいだから、十分作れる筈。よーし、頑張ろう!
――――ラッキービースト温暖地方サービススペース整備班ヨリ緊急連絡。スペース内施設ノ利用者ヲ確認。パーク見学者、及ビ従業員ノ帰還ノ可能性アリ。情報確認ヲオ願イスルヨ。
――――ラッキービースト、コード:イレギュラーヨリ整備班へ。サービススペース利用者ハ特殊ナフレンズダヨ。フレンズノ名称ハ、イエイヌ。及ビイエイヌト行動ヲ共二シテルフレンズダヨ。
――――ソウダッタンダネ。情報提供ニ感謝スルヨ、コードホルダー。……整備シテイタ所ヲ使ッテ貰エルノ、嬉シイヨ。
――――ウン、ソウダネ。良カッタラコレカラモ使ワセテアゲテネ。
――――ウン、分カッタヨ。
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