イヌ、トラ、タカ

 改めて歩く温暖地方はやっぱり暖かくてお散歩してると気持ち良い。いや、今は別にお散歩してる訳じゃないんだけど、静かだし危ない事も無いからついお散歩気分になっちゃう。こんなに落ち着いていられるのは、隣にアムールさんが居るのもあるかな。


「いやーあったかくて昼寝したくなっちゃうねー」

「そうですねー。……やっぱり、誰も居ないんだなぁ」

「ん? 何か気になる事でもあった?」

「あぁいえ、私が覚えてる温暖地方とはやっぱりちょっと様子が違うなと思っちゃって」


 感覚にはなっちゃうけど、多分もう普通のお客さんが居てもおかしくない開放展示スペースの範囲内には入ってると思うんだけど、人の姿は無い。これはアムールさんが人を見た事無いって言ったのも少し納得出来ちゃうかな。世界でフレンズが見れるのはこのジャパリパークだけって事もあって、パークのお客さんが途切れた事なんて無かったもん。まぁ、私が覚えてる限りではって事になるけど。なのに今は従業員も居ないしお客さんも居ない……まさかパークが閉鎖されてる? いやでもそれならフレンズさんも一緒に避難されてそうなものだよなぁ。あ、でも確かフレンズさんってパークから一定距離以上離れるとサンドスターの力を取り込めなくなって元の動物に戻っちゃうんだっけ……パーク内には確か、凄く細かくなったサンドスターが空中に漂ってるから居るだけでサンドスターが補給出来るんだったかな? まぁ、塊のサンドスターに触れるのが一番補給出来るらしいけど。私はした事無いなぁ。

 それにしても……人だけじゃなくフレンズさんとも会わない。居る、んだよね? なんだかちょっと不安になってきちゃったよ。


「アムールさん。私達以外のフレンズさんって、やっぱり居るんですよね?」

「んー? それはもちろん。とは言え、あたしみたいに旅してる連中とか戦えるフレンズ以外はセルリアンを怖がって隠れたり、縄張りから出たりしないから居るところに行かないと会えないかもかな」

「へぇー。……セルリアン、か」


 私が知る限り、セルリアンは何故かフレンズさんを襲う何処から現れたかも分からない謎の怪物って事だった筈。ただ、放置は出来ないって事は周知だった。セルリアンに襲われて体当たりされたり、噛みつかれたフレンズさんが体調を崩すって事は起きてたから。一度だけ見た事あるけど……あの小さい青いのの目の下がガパッて開いてフレンズさんを襲おうとしてるの、怖かったなぁ。あれ、あの時はどうやってセルリアンを追い払ったんだったっけ? あぁそうだ、飼育員さんが棒持って思い切り叩いて何処かに飛ばしたんだった。「ホームランだオラァ!」って言ってたの思い出したよ。……ホームランってなんだったんだろ?


「あれ、やっぱり心配? 大丈夫大丈夫! よっぽど大きいとか数が多いーとかじゃなかったらあたしがやっつけれるからさ!」

「頼もしいですー。でも、アムールさんは怖くないんですか? 私と会った時も確か、セルリアンに追われてましたよね?」

「あーあれね。追われてたって言うより、ばったり出くわしちゃって面倒だなーと思って逃げようとしてる間にイエイヌが居た……ツメショだっけ? あそこを見つけてラッキーと思って入ったんだよね。まさかあそこまで追ってくるしつこい奴だと思ってなくて、分かってたらさっさとやっつけちゃってたんだけどね」

「へぇー……」

「ま、そのお陰でイエイヌに遇えたんだし、良かった良かった! このポーチまで貰えたしね」


 そう思ってくれるんならまぁ良かった、のかな? 私としてもアムールさんが連れ出してくれたからこうして旅に出れたんだし、良かった事にしておこうか。

 そうだ、セルリアンについても聞いておこうか。何か分かれば対処もし易くなりそうだし。


「アムールさん、セルリアンについて聞いてもいいですか? 私、あんまり知らなくて」

「あーそだね、あたしもよく分かんないんだけど、とりあえず話せそうな事だけ話とこっか」

「はい、お願いします」


 アムールさん曰く、セルリアンはどうやって感じてるか分からないけど自分の感じられる範囲にフレンズが入ると襲いに来る。セルリアンにぶつかられたり噛みつかれたりしたら体からサンドスターの力が抜ける。そして……。


「あの赤いのくらい大きいと、食べられる。ようは飲み込まれちゃうのね? で、飲み込まれてサンドスターをぜーんぶ食べられちゃうと、フレンズは元の動物に戻っちゃうの」

「元の動物に戻る……そっか、元々フレンズはサンドスターの力で変化してますもんね」

「そっ。で、そうやってセルリアンに食べられちゃった動物は、もう一度サンドスターを当てたらフレンズに戻れる。んだけど……」

「何かあるんですか?」

「……思い出がね、無くなっちゃうの。フレンズだった時のもそうだし、なる前の動物だった時のも、ね」


 思い出……つまり記憶が、無くなる? そんな……。体調不良の原因はサンドスターが減ったからだったんだって納得出来たけど、どうして記憶が? サンドスターと記憶って、何か関係あるのかな? そんな話聞いた事無いけど、うーん?


「あたしも何度か見掛けた事あるんだけど……辛かった、かな。セルリアンから逃げてる間は励まし合って頑張ってた子達が食べられちゃって、なんとか助けてサンドスターをあげてみても、隣の仲の良かった子を見て、あなたは誰? って始めるの。それがまだ両方が忘れちゃうんなら良い……とは言えないけど、片方だけが助かっちゃった時なんかは、ね……」


 想像して、胸がチクッとした。仲が良くて、多分食べられちゃったのも必死に助けようとした子が元に戻ったら自分を忘れちゃってた……それって、凄く悲しいよね……。


「キョトンとしてる思い出が無くなっちゃった子の前でさ、私達は仲良かったんだよ、一緒に遊んだりしてたんだよって泣きながら言ってる子を見てられなくってさ……強くなってこういうの減らしたいなーって思ったんだよね。今はこれでも結構強いつもり」

「それは……見てるのも辛いですよね……」

「うん……ま、旅をするならついでにそういう悲しいのを減らす手伝いをしても誰にも怒られないでしょ」

「凄く良い事だと思います! はぁ……私もアムールさんに迷惑掛けないように気を付けないとですね」

「真面目だねーイエイヌは。あんまり無理しなくていいよ? あたしに付き合うのは大変だーってよく言われるし、危ないと思ったら逃げちゃっていいからね?」

「わぅ……そ、それでも、お世話になった分はお返し出来るように頑張ります!」

「……んもー、本当に真面目で可愛いなぁ、もう!」


 あわわ、抱き寄せられて頭撫でられちゃった。ち、ちょっと嬉しいけど恥ずかしい。いや、誰にも見られてないんだからいいんだけど。


「……上から見てたけど、何してんのアムールトラ?」

「……おわー!? って、タカ!? あんたどっから出て来たのよ!?」

「え? わぁぁぁ!?」

「いやそんなに驚かなくても……どっからって、だから上からって言ったでしょ。あんたが知らないフレンズ連れて呑気に歩いてるの偶然見つけただけよ」


 喜んでたら見知らぬフレンズさんが目の前に! しかも見てたって事は、今のも完全に見られてた! そ、そう思うと凄く恥ずかしくなってきた。あ、あぁぁ……。


「あ、あら、顔真っ赤にして蹲っちゃったけど、大丈夫?」

「ち、ちょっと、そっとしておいて下さい」

「いやー、あたしも誰も居ないと思ってやり過ぎちゃったわ。ごめんねイエイヌ?」

「だ、大丈夫です。お騒がせしました」


 ふぅ、深呼吸深呼吸……。よし、もう大丈夫。


「へぇ、落ち着くのも早い。あなた、落ち着いたフレンズなのね」

「いえ、落ち着いてると言うか、大人しい方だとは自分でも思います」

「ふふっ、真面目さんね。あ、私はタカ。アムールトラとは……旅仲間ってところかしら。よろしくね」

「あっ、よろしくお願いします。私はイエイヌって言います。さっきアムールさんと一緒になったばかりで、旅とかには慣れてないんですけど……」

「いやいや、イエイヌはもんの凄く頭良いからね、これから頼りにさせてもらう気満々だからあたし!」


 いやそんな事自慢気に言われてもってタカさんは呆れてるけど、私は頼りにしてるって言われて嬉しかったりする。その後すぐにタカさんに、ついでに素直な子ねって言いながら尻尾を指差されてまた恥ずかしくなっちゃったけど。

 それにしてもタカさんか……あの鳥の鷹がフレンズになった姿って事だよね。いや、そもそも飛んでたんだから当たり前か。アムールさんがここに居る時点でゲートは働いてないみたいだから、飛べるフレンズさんなら何処にでも行き放題だよね。

 どうやらタカさん、アムールさんとしばらく一緒に旅してた事があるみたいで、ちょっと理由があって別れて以来の再開なんだそうな。あ、別に仲が悪くなって別れたとかそういう事じゃなくて、二匹が知り合ったフレンズさんが怪我しちゃって、それの手当てとかをタカさんが手伝う為に別れたって言うのが理由だそうです。


「そう言えばあの子は? 確か、オオフラミンゴだっけ? 一緒に居たんじゃないの?」

「とっくに元気になって、しばらくは一緒に居てあげたけど、鳥のフレンズの群れ見つけてね。フラミンゴもそこを気に入ったみたいだから預けて別れたのよ。今はまた一羽であちこち巡ってるわね」

「え、タカさんはそこに残らなかったんですか?」

「あー残らないかって誘われはしたんだけど、この通り目付きが鋭いでしょ? 他の子を怖がらせちゃうから別れたの。残ってたら、オオフラミンゴも居心地悪くなりかねなかったし」

「勿体ないねー? タカって自分が落ち着いて暮らせる場所を探してたんでしょ? その群れ良さそうじゃん? 群れだってタカが居ればセルリアン避けにいいだろうし」

「セルリアン避けって……あんた私をなんだと思ってんのよ」

「直下突撃セルリアン撃破鳥!」


 あ、アムールさんがチョップされた。いやまぁ正直その評価はどうなんだろうとは思ったけど。でも、アムールさんが戦力として信頼してるって事はタカさん、きっと強いんだろうね。


「おぉぉぉ……」

「全く……ま、なんだかんだ言って、こうやって馬鹿話が出来るあんたと蔓んでるのが一番気が楽なんだけどね」

「あ、あはは……と、ところでタカさんはどうしてここに?」

「あぁ、ここの隣のこうざんチホーの方へ行ってみようかと思って通り掛かったの。そこで、なんだか見知った顔が見知らぬ顔と一緒に居るのを見つけて、面白そうだから見ていたのよ」


 高山地方……うん、確かに隣の地方だ。崖なんかを登るのが得意なフレンズさんや、タカさんみたいな鳥のフレンズさんが主に生息してる地方だった筈。って事は、タカさんはその逆の草原地方から来たのかな? あっちは木が少ないずっと草原が広がる地方で、身を隠す必要が無い体が丈夫だったり強かったりするフレンズさんが多く生息する地方、で合ってた筈かな。飼育員さんがサバンナか! って言ってたっけ。サバンナってなんだろ? とは思ったけど聞かなかったな。聞いとけば良かった。


「まぁ私の事はいいとして、アムールトラとイエイヌちゃんはどうしてここに? まぁ、アムールトラに旅の目的聞いてもなんとなくとか言われそうだけど」

「失礼な! 私達は今このチホーにあるラボってとこを目指してんのよ」

「ラボ? 聞いた事無いところね? このチホーにそんな名前の所あったかしら?」

「あ、えっと、多分基本的にはフレンズさんは知らないと思います。フレンズ避けの……えーっと、なんとなくフレンズさんが近付くの嫌だなーと思うような感じを出すところなんで」


 フレンズ避けの低周波パルス発生器があるとか言われても分かる訳無いよね……私だって説明されてようやくさっき言った通りの感じを出す物って風にしか分かってないし。逆に言えば、そういう感じを感じたらラボが近いって事でもあるんだけどね。今も気付かれてないって事は、設備生きてるのかな?


「へぇー……って、あなたは何でそんな事知ってるの?」

「それを作った人達と一緒に居た事があって、その人達に色々教えてもらったんです」

「確か、ヒトってフレンズなんだって。そうだ、タカ。あんたヒトってフレンズに会った事無い? イエイヌが探してるんだよね」


 だからフレンズさんじゃないんだけど……と言っても、見た目はほぼ同じだから訂正するのも大変そうだし、そういう事にしておこうか。で、聞かれたタカさんはしばらく考えてたけど、唸ってから記憶に無いって返事が返ってきた。うーん、こんなに記憶に残らない事なんてあるのかな? それとも見た目が同じだから見た事の無いフレンズとして処理されてる所為で連想されないとか? それは……ありそうな気もする。


「タカでも分かんないか。やっぱり、まずはラボってとこに行くしかないね」

「でも大丈夫なの? 近付くと嫌な感じがするんでしょ?」

「あぁ、嫌な感じがするだけで、通り抜ける事は出来ますよ。多分……ですけど」


 私、実は飼育員さんに連れられて同じ設備がある所には行った事があったりする。確か……ハンターベースとか言ったかな? パークのフレンズさんが万が一にもお客さんの人に危害を与える事があったら、それを鎮圧する役目の人が集まってた所、だったっけ。そこに麻酔薬を取りに行く時に車に乗って一緒に行ったんだった。低周波パルス発生器の事もその時に説明されたんだよね。

 あの時は飼育員さんの運転する車に乗って通り過ぎたけど、嫌な感じはしたけど通り過ぎちゃえばなんともなかった。だから、多分ラボの周囲にあるのも同じな筈。


「ふーん……面白そうね」

「ほほぅ、流石タカ。あたしと一緒に居た事あるだけに面白そうに反応するじゃん」

「あんたに似たみたいでなんか嫌なんだけどそれ……まぁいいわ。イエイヌちゃん、私もそこに行くの、ついて行っていいかしら。邪魔はしないから」

「私はいいですよ。ただ、そこが面白いかはちょっと保障出来ないですけど……」

「それは私が勝手に興味を持っただけだから気にしないで。って事で、しばらくはよろしくね」


 そんなこんなでタカさんが同行する事に。で、話は私やアムールさんが付けてるポーチの事に移って、私があれこれ説明したりしてます。タカさんも旅するフレンズなだけあって、やっぱり物を手で持たずに携帯出来る事に関心があるみたい。


「ジャパリまんとか持っておけるのは確かに便利ね。あ、それ水なんかも持っておけるのかしら?」

「水はそのままだと滲みて零れちゃうから、そのままじゃ無理ですね。何か入れ物があれば別ですけど」

「水を入れておく入れ物って事? うーん、それもあったら良かったね」

「探してはいたんですけど、都合良くあってはくれなかったです……もし見つけたら教えますね」

「うん。あたしもなんか見つけたらイエイヌに聞くよ」

「イエイヌちゃん、本当に賢いのね。あの子達以上かも」

「ん? タカも頭良い子知ってるの?」

「自称だったけどね。自分達でハカセ? とかジョシュ? って名乗ってたけど、その辺りは私にもよく分からなかったわ」

「ハカセ……? まさか、博士に助手!? タカさん、そのフレンズさんの話、もっと聞かせてくれませんか!」


 博士も助手も、研究者って人達の呼び方の一つだ。そんな名乗り方をする……もしかしたら人か、そうじゃなくても人の事を知ってないとしない筈だ。


「うーん、私もそんなに話せた訳じゃないんだけど、その子達もなんだか色々な物に詳しいみたいだったのよね。何か説明する度に我々は賢いーみたいな事を言ってたから」

「賢い? そういうのって自分で言うもんなの?」

「い、いやぁ私に聞かれても困りますけど、そういうフレンドさんが居る事もあるかなーとは思います」

「その後は、何処かに戻らないといけないって言って飛んで行ったわよ。なんて言うフレンズかは知らないけど、飛んでたから鳥のフレンズなのは間違いないと思うわ」


 賢い鳥のフレンズさんか……自分で見た訳じゃないから何とも言えないけど、出来るなら話をしてみたいかな。人の事が何か分かるかもしれない。けど、行先がタカさんにも分からないなら探しようも無いか……残念。


「あら、なんだかしょんぼりさせちゃった?」

「あー、多分イエイヌ、そのフレンズ達ならヒトの事聞けると思ったんじゃない?」

「はい……でも何処に行ったか分からないなら諦めるしかないですね」

「んー、でもなんだかパーク内を飛び回ってるみたいだから、その内ばったり出くわすかもしれないわね。変に目立つ子達だったから、多分見掛ければ分かる筈よ」


 そうなんだ。なら、偶然会えたら話を聞こう程度に覚えておいて損は無いかな。まぁ、飼育員さん探しも焦ってやっても仕方ないし、出来る事からやっていこう。

 なんて話してる間に、空が夕日に染まり始めた。そっか、詰所を出た時点で日は真上を通り過ぎてたから暗くなっていっても当たり前か。


「暗くなってきたわね……そろそろ今日の休む所、探した方がいいんじゃない?」

「そうねー。イエイヌも今日は疲れたろうし、適当なとこで休もっか」

「はい。でも、何処で休むんですか?」

「んー……おっ、あの木の下とかいいんじゃない? 雨とか降ってもあれなら大丈夫そうでしょ」

「そうね。イエイヌちゃんもそれで大丈夫?」

「大丈夫です。……野宿って言うのになるんだよね」


 思えば私、建物の外で寝た事無いかも。飼育員さんに飼われる前は私みたいな犬とか猫を売ってるお店に居たし、飼育員さんに飼われてからも家の中で飼われてたし。うぅん、生まれて初めてだ。

 内心ちょっと不安に思いつつ、アムールさんとタカさんに続いて木の下に入る。本当だ、下から見ても隙間が少ない。これなら雨の心配は無いかな。


「それにしても……まさかアムールトラと再会出来るとはね」

「こっちだって思ってなかったって。基本、一度別れたフレンズと再会した事なんて無いし」

「そうなんですか? いやまぁ、パークって広いですしね」

「そうそう。そういやあたし、タカ以外の飛べるフレンズと一緒に旅した事無いわ」

「私もあんた以外の陸を歩くフレンズと一緒に居るの、イエイヌちゃんが初めてだわ。思えば私達、よく一緒に旅してたわね?」

「だねぇ。基本的に移動方法が違う相手と一緒に旅すると足並み揃わなくて別れちゃうし」


 そうなんだ。と思ったけど、結構当たり前かも。片方は飛んでるのに片方は歩いてるんじゃ、進める距離が違うもんね。


「前はどうしてたっけ? タカがあたしの歩くのについて来てたんだっけ?」

「違うでしょ? あんたが私が飛んだら走って追い付いて来てたんでしょ。こっちは飛んでるのに降りたら普通に居るから、何度なんで居るの!? って言った事か」

「……ふふっ、仲が良いんですね二匹とも」

「んー、そうかもね」

「なんだかんだ、付き合いは一番長かったかしらね」


 アムールさんとタカさんの旅の話、もっと聞いてみたいな。聞かせてくれますかって言ったら、どっちもいいよって言ってくれた。それからは、どんな所に行ったとか、どんなフレンズさんにあったとかの話をずっと聞いてたよ。私の知らない場所、フレンズさん、出来事。そもそも、こうしてフレンズさんと一緒に居るのも初めてだ。私がフレンズさんと会う時は、いつも飼育員さんの隣でだったから。


「……なんだか、不思議です。凄い旅をしてきたアムールさんとタカさんと、こうして一緒に居るなんて。今日の朝まで私、あの真っ暗な部屋から出る気も無かったのに」

「真っ暗な部屋? イエイヌちゃん、何処かに閉じ込められてたの?」

「そうじゃないんだけど……んまぁ、タカになら話してもいっか。どう、イエイヌ」

「はい。私ばっかり聞いてるのも不公平ですもんね。ただ、あんまり楽しい話じゃないですけど」


 暗くなってきたからか、なんだか感覚があの部屋に居た時に近くなっていくような感じがする。……どうしてだろう、少し……怖い。

 タカさんの聞かせてくれる? って言う静かな声に促されて、思い出って言っていいか分からない、約束を守り続ける毎日を思い出しながら言葉を紡ぐ。でもおかしいな、だんだん上手く言葉になってくれなくなってく。頭の中で言葉がちぐはぐになっていく。私、どうしたんだろう?


「寂しくて……でも約束は守らなきゃで、どれだけ待ってるか分からなくなって、怖くって……」

「イエイヌ……?」

「あれ、おかしいな。暗いのなんて怖くない筈なのに、なんで、なんで……」


 涙が、溢れてくるんだろう。嫌だ、怖い。暗い。行ってほしくない。寂しい。迎えに来て。待ってるよ。約束、守ってるよ。……会いたいよ。

 胸の中が言葉でいっぱいになっていく。その言葉がどんどん一つになっていく。会いたい、会いたい、会いたい! もう独りは、嫌だよぉ……。


「……ヌ、イエイヌ! イエイヌ、聞こえる!?」

「……あ、私……?」

「こんなに震えて……アムールトラ、背中擦ってあげながら声掛けてあげて! まずは正気に戻すわよ!」

「任せろぃ! イエイヌ、返事しなくていいから、聞こえてたらゆっくり息を吸って! 大丈夫だよ、タカもあたしも傍に居るから!」


 背中に、温かい物が触れてる。大丈夫っていう優しい声が聞こえる。傍に居るって励ましてくれてる声が聞こえる。……あれ? どう、して? だって、私以外に誰も……。

 誰かが、そっと抱き締めてくれた。あったかい……飼育員さん、迎えに来て……うぅん、違う。飼育員さんの匂いじゃない。このあったかくて優しい匂いは……。


「アムール、さん?」

「……良かった。声、届いたかな?」

「震え、治まってきたみたいね」

「タカさんも……」


 段々、周りの様子が変わってきた。夜風に揺られて木の葉が立てるサワサワッて音。ふわっと香る草の匂い。ゆっくり、だけどしっかりして聞いてると落ち着くアムールさんの音……。

 そうだ私、あの部屋で約束を守る為に待ってる訳じゃない。飼育員さんに会う為に、あの部屋から出たんだ……。


「アムールさん私、今……」

「……今は、何も考えずに眠っちゃおう。このまま、抱いててあげるから」

「んまぁ背中からになりそうだけど、私もね」

「タカさん……ありが、とう……」


 二匹の温かさに安心して、凄く……眠く……。う、ん……。

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