準備、ポーチ、手掛かり

 詰所裏の池を出て、崩れかけた飼育員詰所の中に戻ってきた。うぅ、中もぼろぼろだけど、何か使える物が残ってるかもしれないし……飼育員の皆さんごめんなさい。使っても返せそうな物だったらなるべく返しにきますから、今だけ使わせて下さい。


「んー、イエイヌが何か使える物があるかもって言うから見に来たけど、なんだか瓦礫ばっかりじゃない?」

「えっと、ここは単なる通路なんで元々使えそうな物は無いかなと思ってるんです。探したいのは二階、飼育員の待機室です」


 待機室、なんだか懐かしいな。お休みじゃない飼育員さんや従業員さんが仕事の合間に休憩する部屋。そのまま事務所も兼ねてる部屋だったから、ひょっとしたらパークに何があったかの手掛かりも残ってるかもしれないし、仕事始めに作業着なんかに着替える部屋も併設されてたから、そっちのロッカーには色々道具が残ってるかもしれない。荒らされてなければ、だけど。

 二階への階段も少し崩れてるけど、上に行くのは大丈夫そう。……ここも、飼育員さんと一緒によく上がったんだよね。

 少し耳を澄ますけど……何かが動くような音は無いかな? 二階にあるのは待機室と仮眠室、それと荷物倉庫。これはどれも確認したいな。一階にも倉庫があったんだけど……それは入り口が崩れちゃって扉がひしゃげちゃってて入れそうになかった。アムールさんが頑張ってくれたけど開かなかった物を、私の力でどうにかするのは無茶だろうし。


「で、イエイヌが見たいのって何処? あ、そこの扉の先?」

「はい。そこが待機室、使えそうな物が一番残ってるかもしれないです」


 オッケーって言って、アムールさんがかなり強めに扉を開けた。さっきの倉庫の扉が開けられなかったの、気にしちゃってるのかな?


「でい! っと……なーんだ、ここはあっさり開いちゃうんじゃん」

「あ、あはは……ありがとうございます。で、中は……」


 乱れた椅子、倒れた机、散乱した書類……なんだか、随分慌てた様子が見て取れる。どうも荒らされたんじゃなくて、荒れた状態で放置されてた感じだ。どの物も埃を被った後に動かされたような跡は無いみたい。


「うわー……これ、セルリアンかフレンズがやったのかな?」

「誰がやったかまで分からないですけど、荒らされ方から見てここで誰かが暴れたって感じじゃない、と思います」

「うぇ? 分かるの?」

「えっと、物が倒れたり散らばってはいますけど、壊れたり破れたりはしてないですよね? もし何かがここで暴れたんなら、まず物は壊されてるんじゃないかって思うんです」

「あ、なるほどなるほど。確かに壊れてる物は無いみたいだね」

「これなら何か残ってそう……アムールさん、物探しを手伝ってくれますか?」

「それはいいけど、あたしイエイヌがどんな物探してるかは分かんないよ?」


 それは確かに。だから、とりあえずアムールさんから見て変だったり珍しいって物を探してみてもらう事にした。そういう物が残ってたら、その近くにまだ使えそうな物があるかもしれないし。

 とりあえずアムールさんにはロッカーの方を、私は事務所の方を調べる事にした。機械は電気が来てないから動かないのは分かってる。けど、事務所ならあれは残ってる筈。確か、この棚の中に……。


「あ、あった! 良かった、地図……残ってた」


 このエリアの全部の地方と、主要な建物が載ってる地図。お客さん用のパンフレットじゃなくて従業員用の詳しい地図だから、これがあれば従業員用の施設の場所も分かる。仕舞ってある場所、変わってなくてよかった。

 けど、これが最後の一枚みたい……失くさないように気を付けなきゃ。後事務所の方で探したいのは……そうだ、あれがあれば助かるかも。


「あ、懐中電灯。は、点かないや……ん、あった!」


 この小さな箱、中身は……うぅ、十本くらいしか無い。けど、無いよりはずっといいからこれも持って行こう。この部屋の中は、ひび割れた壁の隙間からちょっと光が入ってきてるから点けなくていいかな。けど、手でずっと持って行くのも大変……うーん、何か入れ物が欲しいよぅ。


「おーいイエイヌー。ちょっとこっち来てー」

「あ、はーい。今行きますー」


 ともかく目ぼしい物はこんな所かな……パークで起こった緊急事態についての書類とか無いかと思ったけど、それは無いみたい。残念……。

 アムールさんを待たせちゃ悪いから、声のする方に向かう。あ、居た居た。


「アムールさん、何か見つかりました?」

「うん! なんか見た事無い物色々あったから集めといた!」


 えっと……ネジにナットに鉄パイプ……あ、これは多分パーク内の施設の修理用の備品だね。あったら便利かもしれないけど、これを使う為の道具が確か必要なんだよね。工具、だったっけ? 私、それの使い方は教わってないからこれはちょっとどうにも出来そうにないかな。


「うーん……ごめんなさいアムールさん、これはちょっと私じゃどうにも出来そうにないです」

「ありゃそっかー。あ、じゃあこれは!? なんかあっちの変なのの前に落ちてたの」


 ん? アムールさんの持ってるのって……ウエストポーチだ。腰に巻いて身に付ける、物を入れておける物、だったっけ。ここで働く飼育員用のと同じかな? 同じ大きさのポーチが二つベルトに付いてて、くっ付けても離しても使えるんだった筈。


「これは良いです! 今丁度あったらいいなって思ってたんですよ」

「本当! へへっ、やったね。でもこれ、どうやって使う物なの?」

「えっと、ちょっとジッとしてて下さいね」


 折角アムールさんが見つけてくれたんだし、どうせならこれはアムールさんに使ってもらおう。きっと旅をしてるアムールさんなら、これの大事さを分かってくれると思うし。

 アムールさんが興味津々って感じで私を見てる。ち、ちょっとあまり見られてるのにするのは気が引けるけど、ベルトをアムールさんの腰に巻いて、バックルを閉じる。カチンと押し込むタイプだから、アムールさんもすぐに付け外し方は分かってくれると思う。そしてベルトの長さを調節して……。


「んん、ちょっと苦しいかな」

「あ、ごめんなさい。えっと……これくらいでどうですか?」

「ん、お! なんか良い感じ良い感じ! で、付けてくれたのはいいけど、これは?」

「ポーチって言って、物をこの中に入れて持ち運べる物なんです。後ろで纏めてもいいですし、こんな感じで左右に分けてもいいですね」

「へー、でも入れるって、ただの四角いのじゃない?」

「あ、これ蓋が閉まってるんです。こうやって……ここのこれ、金具を押しながら上に滑らせれば開きますよ」

「おぉー本当だ! 今のどうやったの!? もう一回見せて見せて!」


 いいですよって言って、ポーチの開け閉めの仕方とベルトの外し方、ついでに長さの調節の仕方を教えました。何度かやってみて、ちゃんと分かってくれたから大丈夫かな。


「うわー、こんな便利な物だったんだ。これに入れとけばジャパリまんとかも持ち歩けるって事だよね」

「はい。それ以外にも、何か持っておきたい物は入れておけますよ」

「おー! そういうの今まで結構あったんだよー。手で持ってるだけだとついどっかに置いて失くしたりしちゃってたんだよね」


 それは……長く持ってるのには限界があるだろうし、そうだろうね。これからは失くさなくて済むって喜んでくれて良かった。


「でも、付けてくれてから言うのもあれだけど、あたしが貰っちゃっていいの? あったらいいなって思ってた物なんだよね?」

「そうですけど、まだあるかもしれませんし。これからお世話になるんですし、これくらいはしたいなと思って」

「もぉ、そんなの気にしなくていいのに。でも、ありがと!」


 ふふっ、アムールさんの笑顔見てると、なんだか私も嬉しくなっちゃうな。そう言えば、アムールさんのポーチは落ちてたって言ってたよね? ロッカーの中は見てないのかな?


「ところでアムールさん、そのポーチってロッカーの中にあった訳じゃないんですか?」

「ロッカー? 何それ?」


 あ、そもそもロッカーを知らなかったんだ。いけないいけない、私は知ってるから普通に言ったけど、思えばフレンズさんが人の使う道具の名前とか利用方法とか知る方法が無いんだから知らなくて当然か。知ってて当然みたいに言わないように気を付けなきゃ。

 とにかくアムールさんはロッカーを調べてないんだから、私が確かめさせてもらおう。う、うん、凄く興味津々でやっぱりアムールさんも一緒に見るよね。


「これはロッカーって言って、これも中に物を仕舞っておく物なんです。大きい分、当然ポーチよりも色々な物が入れられますよ」

「そっか、つまり使える物が残ってるかもが多いって事ね。なるほどー」

「開けるのにはここを引っ張ります。けど……開かないようになってるのも多分あると思います」


 そもそもロッカーには貴重品を入れておく事もあるから鍵を掛けてる可能性が高いしね。まぁ、このまま一気に鍵の事まで説明したらアムールさん疲れちゃうだろうから、開かないのは無理に開けないでって伝えるだけにした。

 それで最初の一つを開けようとしてみたんだけど……案の定、鍵が掛かってた。幸先悪いなぁ……。

次、その次もダメ……あ、このロッカーは……。


「ん? どうかしたイエイヌ?」

「あ、えっと……ここ、飼育員さんが使ってたロッカーなんです。ちょっと、懐かしくなっちゃって」

「そうだったんだ……どう? 開きそう?」

「えっと……あ、開いた」


 ……正直驚いちゃった。飼育員さん、こういう鍵を掛けたかを凄く気にする人だったから、絶対に閉まってるだろうなと思ってたから。中には……あ、これって!


「飼育員さんが使ってた、ウエストポーチ!」

「へっ!? 本当!?」

「私の毛の色と一緒だって、見つけてすぐ貰ってたの覚えてるんで、間違いないです」


 お仕事が無い時、私服で私とお散歩とかに行く時は必ず付けてたっけ……ちゃんと、残ってたんだ。

 でもこれが残ってるって事は、飼育員さんは作業着に作業用のポーチで出掛けていったって事。やっぱりあの時、何か仕事をする為に出掛けたって事だ。


「飼育員さん……」

「イエイヌ……ほ、ほら、元気出そうよ! それだって、シイクインさんの手掛かりって事でしょ? 早速一つ見つかったね!」

「……はい、そうですね。ありがとうございます、アムールさん」


 それは絶対イエイヌが使った方がいいよ! ってアムールさんが言ってくれたから、お言葉に甘えて使わせてもらう事にした。確か飼育員さんは腰に巻かないで、こんな感じに袈裟懸けに巻いてたっけ。……えへへ、同じように使わせてもらおうかな。


「よっ、と」

「ありゃ、腰に巻かないんだ。へぇー、でも似合ってるよイエイヌ」

「あはは、ありがとうございます。……ん? あれ?」


 なんだろう、何か……入ってる? おかしいな、飼育員さんは使わない時はこのポーチには何も入れてない筈なんだけど。

 開けて取り出してみると、これは……メモ? それに、この黒いキューブはなんだろう?

 メモは……文字が多い。それにそんなに大きな字じゃないからこの薄暗さの中で読むのはちょっと難しそう。外に出て明るいところで読むしかないかな。


「イエイヌが持ってる石、なんかセルリアンやっつけた時のあれに似てない?」

「え? そう言えば、確かに……でも、黒かったでしたっけ?」

「あぁあの石ね、セルリアンの色がそのまま石の色になるみたい。それがもしそうだとしたら、黒いセルリアンの石って事になるのかな? そんなの居たっけな?」


 うーん、そもそも私は青いのとさっきの赤いのしか知らないしなぁ。とにかく、わざわざポーチに入れられてたくらいなんだし、大事な物そうだからまたポーチに入れておこう。あ、さっき見つけた地図と箱も入れておこう。

 ロッカーの中にはもう何も無いや……。他のロッカーも開かないし、ここだけ開いてたって言うのがなんだか不自然……ひょっとして、飼育員さんがわざわざ開けていった? けど、どうしてだろ?


「確かに気になるけど、他に何も無いんじゃ調べようも無いしねー……どうする? 他の所も探してみる?」

「そうですね。飼育員さんの手掛かりは分かりませんけど、他に使えそうな物はあるかもしれませんし」


 って事で、残った仮眠室と倉庫の探索を手分けしてやるように決めて別れる。アムールさんに倉庫の探索はちょっと大変かなと思ったから、仮眠室の方を見てもらう事にした。仮眠室に何かあるとすれば、非常時用の防災バッグかな? あれは確か仮眠室にあったと思ったけど、残ってるかは……詰所のこの様子からして難しいかもしれない。どう見ても非常事態が起こってるし。

 倉庫にあるのは、飼育員の皆や従業員の皆が仕事で使う物。そっちには傷薬や手当に使える物があったと思ったから探してみる。他の物は携帯するのには大き過ぎたり、使い方が分からなかったり教えてもらえてない物しか無かった筈だから。

 うん、包帯に消毒液、傷薬に絆創膏。流石倉庫だけあって、箱で残っててくれた。全部持って行くのは無理だから、それぞれ嵩張らない程度に貰って行こう。ここにあるのは分かってるから、最悪また取りに来れるしね。


「イエイヌー。何か良い物あった?」

「はい。ちょっと怪我した時に使える物がありました。使う機会は無い方がもちろん良いですけど、擦りむいたりくらいなら手当出来ますよ」

「へぇー、そんな物あるんだ。傷って舐めておくくらい無いと思ってたけど」

「ま、まぁ、それでもいいにはいいんですけどね」


 というか、フレンズになる前の姿ならそれくらいしか出来ないしね。けど、それよりも良い方法が使えるんだから使わなきゃ損だよね。

 アムールさんの方では何か見つけたか尋ねると、よく分からない物ならいっぱいあったって言われた。全部持ってくるのは難しいから、やっぱり私が見てどういう物か確認する事に。見て分かる物ならいいんだけど。けど、仮眠室に物がいっぱい? どういう事だろ? 眠るだけの部屋だって聞いてるから、そんなに物は無いって言われたし、入れてもらった事も無いんだよね。

 行ってみてどういう事か分かった……これ、飼育員さんも持ってたゲーム機って言うのだ。それもいっぱい……多分、皆でここで遊んでたんだろうなぁ……。


「十個くらいあるけど何に使うか分かんないし、イエイヌに見てもらった方がいいかなと思ったんだよね」

「えーっと、簡単に言えば多分遊ぶ物なんですけど、電気って言う動かす為の物が無いと動かないんですよ。だから、これは持って行っても使えないですね」

「そうなんだ。うーん、残念」


 そう言えば、倉庫にその電気を作れる発電機って言うのはあったなぁ……使い方教わってなくてどうにも出来ないから諦めたんだけど。

 あれ、ゲーム機に混じってるこれ……あ、これなら電気が無くても遊べるかな? 私もそんなに遊び方知らないけど。


「アムールさん、これなら電気が無くても遊べますよ」

「これ? なんか他のより小さいのあるなーとは思ってたけど」

「はい、トランプって言います。んしょっと……」

「うわ! 壊しちゃうの!?」

「あぁ、これはこういう入れ物なんです。そして、中のこの薄いのがトランプです。って、ここは薄暗くて見え難いですね……外に持って行って改めて見てみましょうか」

「賛成。あ、そうだった。これもここにあったんだけど、イエイヌ分かる?」


 ん? アムールさんが持ってる物を見せてくれたけど……なんだろうこれ? 手の平くらいの大きさの四角い箱? うーん、私も見た事無いなぁ。


「ごめんなさい、ちょっと私も分からないです」

「そっかー。何と言うか、ここにこれは他のより大事な物って感じで置かれてたからきになったんだよね。……持って行ってもいいかな」

「う、うーん? 壊したりしなければ、多分大丈夫だと思いますよ」

「やたっ! 折角だから、ポーチだっけ? これに入れとこっと」


 うんうん、喜んでくれてるみたいで私も嬉しい。けど、アムールさんが持ってる物、見た事はある気がするんだよなぁ。忘れてるだけ? うぅん、なんだか引っ掛かる感じはあるんだけど出て来ないなぁ。

 流石にもう見つけた物は無いみたいだから、外に出る事にしたよ。傷薬とかも見つかったから、旅の準備としてはなかなかなんじゃないかな。後は、食べ物が欲しいところだけど……。


「うーん! やっぱり太陽の下って落ち着くなぁ。……ん? あれこれ、ジャパリまん?」

「え、こんなところにですか?」

「ほら、ここ。置いてあるよ」


 本当だ……詰所の入り口に置いてある。おかしいな、入る時にこんなの無かったと思ったけど、何時の間に? しかも丁度二個って、どういう事?


「でも丁度良いや、お腹空いてきてたし。はい、イエイヌも」

「あ、ありがとうございます」


 明るいところでジャパリまんを見るのも久々かも……ずっと、真っ暗な中で音だけ頼りに取りに行って食べてたもんな……暗いのに慣れ過ぎて、本当に薄らだけど見えてただけだしね、思い出してみると。

 美味しそうにジャパリまんを口に運ぶアムールさんを横目に、私は少し躊躇っていた。なんと言うか、私の中でジャパリまんはあまり美味しいと感じない物になっちゃってて。でも、お腹は空いてるし……意を決して口に運んだ。


「あれ……美味しい」

「ん? 美味しくないジャパリまんなんてあるの?」

「あ、いえ、私が今まで食べてたのって、なんだか味がしなくって……」

「味がしないジャパリまんって……私は今イエイヌと一緒に食べてていつもより美味しいくらいだけどな」


 私の方を向いてニッと笑うアムールさんの顔を見て思い出した。飼育員さんも、従業員の皆もよく一緒にご飯を食べてたな。どうしてか聞いたら、皆笑ってこう言うの。


「ご飯は、誰かと……皆と一緒に食べた方が美味しい……」


 ……思い出して少し滲んできた涙を拭って、私もアムールさんと一緒で美味しいですって答えた。そっか……ずっと独りぼっちで、寂しいと思いながら食べてるんだもん。美味しくない訳だよね。ずっと私にジャパリまんを届けてくれたラッキービーストさんに、ごめんなさいって伝えたいな……。

 あっと、食べながらついでにトランプの説明しちゃおうか。と言っても、描かれてる数字とか絵を使ってやる絵合わせみたいな物だって風にしか説明し難いんだけど、後は実際やればいいんだけど……二人でやるのも少し寂しいかな? 確か、四人くらいでやるのが一番良いって聞いたし。


「四匹かぁ。あと二匹……うーん」

「あ、でも二匹で遊ぶ方法もあるんですよ。後でやってみましょうか」

「おーいいね! よっし、食べ終わりっと」

「私も、ごちそうさまでした」

「ん? 何それ?」

「あ、これご飯を食べ終わった後に言う挨拶なんです。ご飯になってくれた物、作ってくれた誰かに言うお礼、らしいです」

「へー、なんか良いねそれ。あたしも、ごちそうさま!」


 ふと思ったけど、これってアムールさんに人の言葉を教えてる事になるのかな? 禁止事項なんだけど……私もフレンズだし、フレンズがフレンズに良い事を教えてるんだ。って事で……不味かったら許してもらえる、かなぁ?


「さて、遊ぶのもいいんだけど……これからどうしよっか?」

「そうですねぇ……あ、そうだ忘れてた。さっきのメモ読んでみなきゃ」


 ポーチを背中からお腹の方に持ってきて、メモを取り出す。何々? もしこれを……え?


「もしこれを見つけたのがイエイヌなら、頼む、一緒に入っていた石をラボに持って行ってくれ。そこならこれを調べられる、絶対に必要になる筈だ……これって、飼育員さんの字!?」

「え、どうしたのイエイヌ? その小さいのの変な模様見てなんかぶつぶつ言ってるけど、字って何?」


 アムールさんには字も変な模様って認識なんだね。いや、言われれば平たく言えば意味を与えられた模様とも言えるのかも。う、うーん、字については教えても一日とかそこらじゃ覚えられないと思うから、なんとなくの概要とどういう事が書かれてるかだけ伝えようか。


「んーと、とにかくその……ラボ? ってとこにさっきの石を持って行けばいいの?」

「はい、手掛かりもこれしかないですし……いいですか?」

「遠慮なんてしないでよ。あたしもそのラボってとこがどんな所か気になるし!」


 アムールさん優しいなぁ。よし、地図で場所を確認しよう。と思ったらまた目を輝かせたアムールさんに地図の事を尋ねられた。そうだった、私が見つけてからアムールさんに見せてなかった。


「これにはこのパークの色々な場所が描かれてるんです。今居る飼育員詰所は……ここですね」

「へー。周りにはあまり何も描かれてないね」

「元々ここはフレンズさんの目にもお客さんの目にも触れない場所って事で作られたんで、フレンズさんが寄り付きそうに無いところを選んで作られたらしいです」

「そうなんだ。そんなところを見つけちゃうとは、流石あたし」


 なるべく地方の景観を壊さないようにって事で、ここにはフレンズ避けの設備は無いから来ようと思えば来れちゃうのが困りどころなんだよねーなんて従業員さんが言ってたっけ。アムールさんがここに来れたのもそのお陰だろうね。

 で、肝心のラボは……あった、ここだ。


「えーっと、結構遠い感じ?」

「そうですね……同じ温暖地方の中ではありますけど、結構歩く事になるかもです」

「歩くのは平気平気へっちゃら! うーん、どんなとこなのかな? フレンズは居るのかな!」


 う、うーん……多分ラボ、ようはフレンズさんの事調べたりしてた研究所だろうし、フレンズさん避けの設備はあると思うから居ないんじゃないかな? 設備が生きてれば、だけど。

 とにかく歩き出そうって言うアムールさんに引かれて、ついに詰所を離れる。……今は離れるけど、またきっと……絶対に、戻ってくる、帰ってくる。だって、思い出も約束も、ここに詰まってるんだから。

 だから、だから……さようならじゃなくて、こう言うよ。いつか、ただいまって言えるように。


「……行ってきます!」

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