第一章⑦

「それにしても意外と冷静じゃないか。全ての責任を精霊の力に擦り付けてしまうかと思ったよ」


 純は自慢のストレートヘアをトリートメントしながら言った。


「風呂のおかげ、かな。……俺はチャベスの体を洗っているときが、一番心が洗われるんだ。恥ずかしい話だがな。言葉が通じるうちにいっておくよ」


「……少年」


「……チャベス」


 純は太ましい、いや凛々しい眉毛の下に爛々と光る貴公子の瞳でチャベスをじっと見つめた。


 チャベスもくりっとしたかわいいらしい蒸気で潤んだ瞳で純を見つめる。


 カポン……カポン……カポン……。


 なんだかぬるま湯に浸かりながら、両者ともにツーンと恥ずかしくなってしまった。


「よせやい、よせやい。……そういう恥ずかしい話は胸のうちにしまっておくもんだぜ」


 チャベスは純に尻尾を向けた。


「わりっ。てへぺろ。こういうことは面と向っていうもんじゃねえな」


 純は後ろ手で頭を掻きながら、てへっと舌を出した。


「……そろそろ上がろうか。ぬるま湯で上せちまうところだ」


「そうだな」


 純はチャベスを抱いて浴槽から片足を出した。


 その時。


「いつまでぬるま湯に浸かってんだよッ! このこんぶ野郎ッ!」


 浴室の扉一枚隔てた脱衣所から弥恵の怒鳴り声が聞こえた。


 どうも純の着替えを持ってきてくれたらしい。万人に周知のことだが、心のとても優しい妹であることは疑いようが無いようだ。


 純は片足をまた浴槽に突っ込んで一瞬で冷えた心をぬるま湯で温めた。


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