第2話 始動 下


剣道はもちろん武道なんてやったことがないリエルだったが、前に見たシオの体捌きを見様見真似でやってみた。

縦に振って、そこから横に薙ぎ払って剣先を突き立てるように前にだす。


普段なら直ぐに息切れするような動きだがずっと続けられそうな感覚がしたリエルは、剣を振るペースを少しずつ早くしていく。



体の能力を理解し始めたのをみると、アクトは少し満足そうに笑みを浮かべる。



「その調子だ。

お前が感じている通り体は身体能力を大きく向上するし…勿論、それを扱う持続力と大きく向上している。」



そんな余裕そうなアクトに対して不満げな表情を浮かべるリエル。

自分はこんなにも負けず嫌いだっただろうか。



リエルはキーウエポンを振り下ろした後に振り下ろした勢いを利用してしゃがみこんで、アクトの足をかけるように回転しながら蹴りをいれる。

思いもよらない攻撃に驚きながらアクトはバランスを崩した。



リエルはそのまま立ち上がる勢いを使いアクトに向かってキーウエポンを突き出す。



「なかなかやるな。」



アクトはそういうと突き出されたリエルの手首をつかんで力任せに投飛ばし、空いている左手を地面につけて体勢を立て直した。


リエルもアクトと同じように空いている左手で地面に手を付けて体勢を直して再び向かおうとしたが後ろから止められる。

リエルが後ろを振り向くと銀髪の男のエグザスが立っていた。



「もういいだろ、アクト。

初めての奴がここまでやれるんだ、偵察くらいつれて行ってやっても。


直ぐにダメになると思って黙っていたが、いきなり15分も肉体強化がもつわけがない。

…試しに、肉体強化を解いてみろ。」




アクトに騙された事にかなりの不満があったが、ひとまずエグザスの言う通り体を解除してみた。


体中に再び雷が走ると、今度は体をかけた時とは逆に体中の体温が低くなる感覚になり一気に力が抜けて膝から思い切り崩れ落ちた。

崩れ落ちた瞬間にエグザスが支えてくれたから怪我はないが…無限に力が入っていた体の強化状態と比べてびっくりするくらい力が入らない。



「強制的に全神経を集中させているんだ、少しずつ慣らしていかないとこうなる。

今は一番低い出力だが、もう少し出力を上げたら命にかかわっていた。


だが、それを最初隠してでもわかってほしかったのが俺達はそんな対価を乗り越える訓練をこなし死と隣り合わせで任務をこなしている…救出作戦でも偵察でもな。

偵察とはいえ戦闘の可能性が無いわけじゃない、敵の前でこうなったら間違いなく死ぬだろうな。」



エグザスが淡々と説明している間にゆっくりとアクトは歩いて近づいてきた。

停止させたキーウエポンを肩にかけて、リエルを見下ろして口を開く。




「危険性を体験したうえで聞く、お前はそれでも未熟なその力でもついて行きたいか?」


「それでも行く。

次はもっとうまくやるよ。」




力が全く入らない状態になってもリエルの意思は変わらない。


…意地っ張りめ。

アクトは短くため息をつく。



「わかった、偵察に行くのを許可する。

ただし…ベルの傍から離れず常にキーウエポンを起動させている状態でいることが条件だ。


前もって言っておくが、キーウエポンの起動しっぱなしはポープを使っている時とは違ってデメリットは無いから安心してくれ。」



「了解だよ、アクト。」



アクトは自分に対してこれ以上ない位の譲歩をした断る理由はない。

2つ返事でそう返事した。



この件が落ち着くと、どさくさにお守りを任されて項垂れるベルの声とアンナに私刑されているアクトの悲鳴が響いた。


あっけなく関節を決められているアクトをみて、無事に任務が行われるか心配になったリエルだった。






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