4-17 顛末

 ヨーラッド・ヌークス。

 その名前は、かつてのアーチライト・コルア・ウィットランドを知る者にとっては憎悪の対象であり、だがアーチライトの親友であったニグル・フーリア・ケッペルがその名に感じるのは哀切以外の何物でもなかった。

 曰く、大陸最悪の魔術師。

 なるほど、彼の為した悪行を数えれば、その名に偽りはないだろう。ただ、ニグルと彼の暮らすマレストリ王国に対して直接ヨーラッドの手が及んだ事はない。その点においてニグルがヨーラッドを憎む理由はない。

 曰く、アーチライト・コルア・ウィットランドを殺した魔術師。

 アーチライトの周囲の人間にとっては、むしろこちらが主たる憎悪の理由だ。

 だが、それは嘘。

『ニグル自身が』進んで流布した虚偽を理由に、ニグルがヨーラッドを憎むなんて事はあまりに馬鹿げている。

 ヨーラッド、そしてアーチライトの真実を知るのは、ニグルただ一人。

 時のマレストリ王国騎士団長アーチライト・コルア・ウィットランドは、大陸最悪の魔術師ヨーラッド・ヌークスの蛮行を止めるため、各地から精鋭を集めた討伐隊の一人としてヨーラッドの塒へと攻め入った。

 ここまでは真実、公然の真実だ。

 そして、ヨーラッドに破れた。

 これが嘘。

 公に知られている、ニグルが公に知らせた嘘。

 真実では、アーチライトはヨーラッドに勝利した。

 勝利と呼べるかすら危うい、紙一重のものではあったが、それでも長い戦闘が終わった後、最後に立っていたのはアーチライトだった。

 だから、それ以降のヨーラッド・ヌークスの存在は、ニグルが自らの宝石人形にそう騙らせただけのものでしかない。

 ただ、それでも、ヨーラッドが死んだとしても、アーチライト・コルア・ウィットランドの死だけは覆しようのない真実だった。

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