4-3 遅々たる帰路
「……くそっ、出ない」
幾度目かのコールの後、半ば予想通り応答の無い携帯端末を放る。
「ニグルの奴、これだけ連絡しておきながら、肝心な時に何を」
端末に残るニグルからの履歴は、実に八つ。四日前から一日に二度ずつの着信は、間の悪い事にその全てがティアが戦場で剣を振るっている最中に掛けられたものだった。
あるいは、その四日間のほとんどを戦場で過ごしていた以上、それは必然に近かったのかもしれない。普段は定期的に確認していた携帯端末に目を通す事も忘れるほど、ここ数日間のティアは目の前の戦場だけに没頭していた。
「道路も、なぜこれほど混んでいる? こんな時に限って、なぜ!」
更にティアの苛立ちを加速させているのは、市街地に入ってから一向に進まない移動用車の群れ。それらが自分と同じようにアルバトロスとヨーラッドの決闘の行われる闘技場へと向かっている事にすら思い至らないくらい、ティアは判断力を失っていた。
「予定通りなら、あと三時間弱か。間に合わない事はないだろうが……」
戦地の中でも、特に僻地にあるE-4戦線にいた自分の間の悪さを恨む。
ただ観戦をしに行くつもりではない以上、ロシから聞かされた決闘の開始時刻までに間に合えばいいというものでもない。そもそも、アルバトロスとヨーラッドの決闘が始まってしまうという事自体に、ティアは危機感を覚えていた。
一度は受けたにしても、所詮は口約束。前言を撤回するとは言わないまでも、いくらでも理由を付けて引き伸ばす事くらいはできたはずだ。あれだけの手間を経て転生したアルバトロスを、たとえ木偶だとしてもこんなに早く失う事などあってはならない。
「アンナも駄目か……ああっ」
これも何度目かの連絡は、ニグルの時と同じように繋がらずに切れる。
騎士団副団長であるロシですら、決闘については一般に出回っている程度の事しか知らなかった。となれば、それ以上に決闘について詳しいであろう人物は、護衛長であり騎士団長の仕事も部分的に肩代わりしているニグルか、アルバトロス専任の護衛であるアンナくらいしかティアには思いつかない。
「駄目だ、このままでは……っ」
先程からほとんど動いていないように見える風景に痺れを切らし、ちょうど手近にあった飲食店の駐車場に入り込み、車から降りる。店の店主とは顔見知りでもあり、少し気後れもしたが、すぐに焦りが追い越していく。
「早く、何がどうなっているのか、確かめなくては」
肉体強化術式を展開しながら全力で駆ける女騎士の姿は、それまでが何だったのかと思うほど、瞬間でその場から消えていった。
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