4-2 妖精と魔術師
「kизил,кyк,сариk」
小さく唄を口ずさみながら、湖の端に腰掛けた妖精族の少女が足を揺らす。冷たい水が時折服の裾を濡らす事も気にならない様子で、妖精族の少女、メサは人形のように空を眺めながら唄い続けていた。
「сапсар,яшил……」
規則的に紡がれていく声は、だがその途中で緩やかに萎み、薄れて消えていく。
「……あの、どなたでしょうか?」
零になった声が、唄っていた時の半分ほどの声量でようやく搾り出された。
「ひさしぶりだな。いや、会うのが二度目ではそう言うのもおかしな話か」
「アルバトロス卿? どうしてここに……」
純白の髪に、同色の豪奢な装束、更に同色の杖を携えてそこにいた白の魔術師の姿を視界に捉え、メサは口を抑えて驚く。
「アルバでいいと言っただろう。間が空きすぎて、忘れてしまっていても無理はないが」
「すいません、アルバ様。そ、その、お久しぶりです」
驚きが収まったか、ゆっくりと頭を下げるメサに、アルバトロスは手を掲げてみせる。
「畏まらなくてもいい。ここには、俺と君以外には誰もいない」
「誰も、ですか?」
「ああ。護衛役も、この森にすら入って来ていない」
「そうだったんですか……」
幾分か柔らかく微笑むアルバトロスに警戒を解いたように、メサが軽く息を吐く。
「でも、どうしてここに?」
「わかっているだろう、君に会いに来た」
「わ、私に、ですか?」
「いずれまた会おう、と言っただろう。それを果たしに来ただけだ」
またも驚きながらも、メサはなんとか会話を続ける。
「それは、私がアルバ様の転生術において第一の術者だったから、ですか?」
「そうだな……大きく括ればそうなるが、話はもう少し複雑だ」
穏やかな笑みのまま、アルバトロスの右手が自らの胸、そこから頭に向かう。
「この体、あるいは頭と言うべきか、その元の所有者の記憶のほとんどが、今の俺にも継承されている。だが、その死後については当然だが何の知識も残されていない」
「記憶の継承術に関しては、死者の生前の記憶を利用しましたので、そこはご容赦を。本来、記憶継承の目的はその時代の一般常識や言語を引き継いでもらう事で、個人の記憶はあくまでその副産物ですので……」
「君を責めているわけではない。ただの前置き、前提条件について伝えたかっただけだ」
「つまり、転生術について知りたいと?」
「たしかに、それも一つの用件ではあるか」
「では……他に本題が?」
「ああ、そういう事になる」
明らかに緊張を抑えられていないメサの様子に、アルバトロスの口からは自然体の笑みが零れた。
「間違っていなければ、だが。俺は、君に礼を言いに来たんだ」
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