第29話 救いの手
東星山から東に二百Km森林地帯に下降。木立の間をすり抜けるのは小さい俺の特権で後ろの大樹を全て薙倒し光線を吐きながら追って来るのは丈夫に出来たメカの粗雑さ。視界を開け!
邪魔な木立が無くなったらもう一度上昇し追って来る翼竜の背中に乗り気香を這わせ機械をフリーズさせいい位置に落とす。
機能停止の翼竜三体で北に向かう進路を塞ぎ地面に降りて基地の入り口に近づく。
巨大な塚の入り口で銃を持ち警備する四人の兵士に倒れた木の陰から軽く気香を放つ。良かったぁ。
人じゃないから遠慮は無用!
人差し指と中指を伸ばしピストル型の手で威力一万倍の香弾を打つ。
倒れた! 服は吹き飛びボロボロなのに起上ったぁぁぁ。不死身か!
弓は下手くそだから防御して正面突破。ちょっと練習した短剣を四本連投する。光線銃の応戦なんか俺には効かない。ふっふっふ。
短剣は兵士の身体で一瞬止まりすっと皮膚を突き破り中から爆発させた。
〝一人で進んではいけません!〟
頭の中で日登の声が響く。進むよ、人が居たら邪魔。
気香を這わせて監視カメラと銃の位置を確認して壊す。機械の香りばかりで人の気配がしないのは何でなの? へっ? 頭の中に映像が流れる。
だだっ広い空間は工場? 大型コンピューターと人型の兵士が百人くらいに動かないメカ恐竜が十体。あー動き出した。
昴かぁ。向日葵家ってあったか? 幻影見せて揺さ振るとかもっと知的な戦闘をしたら昴も強いかも?
チマチマ壊すのを止めて壁に手を付けて光線銃を一気にフリーズさせる。
プシッタコサウルス一体、コエロフィシス二体、アマルガサウルス一体、何だか知らない毛の生えたの一体。縦横無尽に飛びながらタッチしてフリーズさせる。
あと五体。続々と出てくるメカ兵士が光線銃を発射!
フリーズしたアマルガサウルの後ろに隠れて地面に気香を這わせる。
通路が八十体の蝋人形に塞がれた。不気味。
工場に着くと同じ顔の兵士二十体に銃を向けられ大型コンピューターが喋る。
〝翼の生えた人間。香国国王・二連香子二世〟
「古い。三世だからはずれ」
〝領土と国民を我らに渡せ〟
「我らって誰? 人はいないの?」
〝我らはフォレストの叡智。人は残虐で醜悪、自然を破壊し贅を極め非道を尽くし挙句脆く絶える。我らは永久の命。科学の力は太古の生物をも復元する〟
まぁ、一里ある。人は脆く復元できない。でも弱いから助け合う。絆を残し子孫を残すのは永遠に繋がる命なんじゃないの?
「濡れたら壊れるくせに永久の命だってぇ。ふふ。神の心算なの?」
〝進国と香国を我が手に自然を破壊する人間の粛清を!〟
あらら、無視されたぁ。勝手に喋って一斉に攻撃してくるな!
アップデートされないコンピューターは滅茶苦茶だな。泣き出したシオンと同じだ。ふふ。 AI自動学習機能とか付いてないのか? 新しいデータがないから学習できないのか?
部品の劣化や材料の調達、この丈夫なだけのメカ達は出来ないでしょ。
なにより東の地には日登がいた。幻聴だけじゃない日登は聞く事もできる。
あー嫌だ。言えなかったオメガが可哀想だ。ぶっ壊す!
特大剣を振り抜く。メカ恐竜五体を貫き人間擬きも爆発して巨大コンピューターが火を噴く。地響きだ……塚が崩れる。
降ってくる煉瓦と土石を香砲弾で吹っ飛ばし道を拓く。
塚を出れば秋空は高く、青く澄んでいるのに。
「日登! 憎しみを捨てろ!」
俺の声が聞こえるでしょ。ポイズを睨む憎悪に溢れた眼。
憎しみが力になるのは否定しないけど間違った方向に国を導いて貰っては困る。
〝香子様。儂は人の声を聞き過ぎたのです。陰謀、悪態、狂喜、嗚咽さまざまな声に苦しみ倦んだのです。もう何も聞きたくありません人の世は征野ですよ〟
東の地で昴を拾い慈愛邸に向かう。
「俺には聞こえないし日登の葛藤を真に理解する事は出来ない。でも人の世は金襴の契りも比翼連理もある。日登には家族も沢山いる」
〝苦況の中家族が儂の支えでした。愛おしい者と引裂かれた悲しみが君にも分かるでしょう。全ての人は業に沈むのです〟
何事も無く過ごす慈愛邸の映像が頭に流れ下から昴の声がした。
「コウ君、フェアリーは無事だから宮廷に行け」
片手で肩に剣を担ぎもう一方の手でぶら下がっている昴が眩しげに俺を見上げる。
「昴はなんで黙ってたの?」
「悪かった。でも俺はホントに国防軍がどうにかすると思ってたんだよ。言い訳がましいけどホントなんだ!」
返す言葉も無い。
慈愛邸を超え宮廷の庭園に下り立つと三百人程の香蜜人を守る勇者の立ち姿があった。プロキオンの後ろにサラセニア、あきらの後ろには修一、リゲルの後ろにはスピカ。それぞれが大切なものを守ろうとしてる。
先頭で仙香が日登と対峙する。
日登がチラリと昴に視線を投げ仙香を凝視し悲しげに眼を潤ませた。
「昴君、余計な事をしましたねぇ。香子様、我らだけで充分ではありませんか。増えすぎた悪しき心の人間は必要ありません。半分、いいえ三分の一で充分でしょう。儂が王となり新しい国を創造する事としましょう。この宮廷は貰いますよ」
「悲しみで創造する国などない」
「儂は王の器ではありませんか? ならば全てを葬りましょう」
「日登は捨てる事を選ぶの? 大昔にレグルス家の百香が言った『人の言葉に倦んだ時は森羅万象の声を聞く。草木の芽吹き、小川のせせらぎ、渡る風の音。そうすると不思議と人の笑い声が耳に響き心が軽くなる』日登なら木葉の囀りも聞こえるでしょ。今後は俺と共に、家族と共に」
日登の眼から涙が溢れた。
「なぜそれを……曽祖父から聞く耳を持ったお前は忘れるなと繰り返し言われた家訓……儂は、儂は……」
日登の手が短刀に!
「仙香!」
速い! 投げ飛ばさなくていいでしょ、日登は高齢なんだから……ねぇ。
頭を撫でたから目出度し目出度し。仙香の手……寒気がする。
オッドアイとオメガが現れた。来ちゃったのかぁ。ふふ。
「キチャッタノカァー」
可愛いオメガを抱えて昼寝だ。
******************************
天井高い。横を向いたらシオンの後頭部があった。
指で髪を梳かす、アシダンテラ、オミナエシ、ホトトギス、ミセバヤ、ダイモンジソウ、フジバカマ……いい香り。また眠れる。
「お帰り。髪を引っ張るなよ。ドームを消さないと国民が円滑に生活出来ないぞ」
「ただ今。眠い」
シオンがミラーを呼ぶとグラス片手に人が集まって来た。
皆様お元気そうでなにより。
「コウ君、お疲れ様でした沢山食べて下さい」
ミラーにフォークと皿を渡され、てんこ盛りにされたパスタと肉を食べる。
「すっかり夜になりましたからパーティーが始まりました。もう二十一時ですよ。三日後には香子三世国王の就任式がありますから忙しいですね。ふふ」
いつもワックスを付けてキリット髪をアップにしているミラーが洗い晒しのぼさぼさヘアーをして笑う。上機嫌の仙香も笑う。
「ほほほ。コウ君の活躍は昴君の映像で皆が観ていますよ。宮廷に囚われていた三百人もの香蜜人も救う事が出来ました。万事が上手くいきましたから正に天の配剤ですね。ほーほっほほほ」
そうかな? あんな古いメカ……大事変とは言い難いけど? 仙香が続ける。
「逃亡したポイズの部下はフォレスト国王の末裔で同志数名とずっと国の再建を夢見ていたそうです。二連家不在で力不足の今を狙い王の座を奪おうと企てそれを日登様が放置し利用したようですねぇ」
「塚に人は居なかったよ。その部下はどうなったの?」
「言葉が足りませんでしたねぇ。ほほほ。私達が宮廷に着いた時に捕らえ事情を把握しましたから日登様の異変にも気付くことが出来ました」
異変じゃない。以前から苦しみ、悲しみ、憎しみが日登を支配していた。
「慈愛邸にいた皆は無事だったから日登が本気で国王を夢見たとは思えない」
「もし私と戦っていたらと推量すると、止めましょう。ほほ。今はご家族と楽しそうですよ」
ホントだ。鼻の頭を赤くして家族と一緒に酒を飲んでる。
「仙香、神殿に酒と供物をお願い。皆の膳と更に四つ膳を用意して。風呂に入ってくる」
「ワクワクしますねぇ。ほーほほほほほ」
飲酒中の仙香は赤い顔をして高らかに笑う。
広間を出ると風呂係だという人が飛んで来た。
「ご案内します。そちらの犬と坊ちゃまもご一緒ですか?」
「うん」
風呂場に着いて風呂係がオメガの服を脱がせようとすると気香が揺れて風呂係がさっと五m程走って逃げた。あららぁ。
オメガを抱き上げ溢れた気香を吸収する。
「オメガ、気香を胸の奥に沈めて」
「ハイ」
下ろすと自分でシャツを脱ごうとするがボタンが外れる気配は無い……不器用仲間。ボタンを外して服を脱がせるとオッドアイが頭を銜えてポイと背中に投げた。 そんな雑に扱ってたんですね。
やたらと広い風呂場で風呂係に頭と体を洗われ普段は入らない湯船に浸かる。
龍の口からお湯が出る必要性は? 風呂に円盤投げの彫刻も要らない。誰が作ったんだ? 眺望がいいから夜でも監視対象のデカい慈愛邸ドームが見える。
発展を遂げた国は全く昔の面影が無い。
オッドアイとオメガが浴槽で遊ぶ姿だけが香子一世を想わせる。ふふ。
「ヒトウタマ、カナチイクルチイナオッタ。ツバルハコウクンダイチュキ」
やっと昴も百香らしくなった。ふふふ。
風呂から出たら風呂係が頭を乾かしてくれた。
やっとオメガも服を着たのにオッドアイがブルブル! 事故だ。
見事に全員ずぶ濡れになり風呂係が服を取りに猛ダッシュ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます