第5話 正解はどこだ?
閉会宣言と同時にさっとミーティングルームを出たのにあきらのデカい手がポンポンと頭を叩いた。
「お前は怖いねぇー」
うぇー。フットワークが良過ぎる。
「あきらを見習ってる」
振返って答えるとあきらは「あはははっ」と笑う。
どうせ恐れられるなら悪役で結構。
「変な顔して何で香師がキングに成ったんだー。とか思ってるのか?」
「思ってない」
「じゃあ、ご機嫌斜めの理由は何だよ」
シオンとペア解消したらあんたが怒るでしょ!
「シオンが朝から帰って来ない」
「ぷーっ! もう俺の元には帰って来ないってか? バッカだなぁー。シオンはそんな奴じゃないよ。親が心配するから事情説明にでも行ったんじゃねーか?」
そうか。
「シオンだけじゃなくあちこちで乱闘騒ぎが起こって行方不明者も多い。京は調香戦を見なかっただろうけど去年は誰のものか分からない重い気香が香師を勝たせたんだ。お前だって油断はできねーぞ」
調香戦の話しは前にも聞いたけどあきらにも分からない気香なら百香でしょ。
俺を除いた百香は五人で四人は東西南北の僻地に散らばり街中には慈愛しかいなかった。
登録されてない百香がいる? 有だ。
「それなら今度の調香戦は百香対決だ。ふふ」
「そりゃ恐ろしくて笑えないな。はーぁ。早く安心して暮らしたいわぁー、はは」
ペア登録されてない蜜人を五十人近く守護するあきらには気が休まる暇もないのか今日は笑っていても元気が無いし修一も前に出ない。
部屋に戻るとシオンがいる気配はするのに姿は無しぃ。
いつものように窓を開けて窓枠に座る。
二月の夜はまだ冷えるけど芽吹いた草木の香りを感じるのは俺だけなのかな?
窓全体に取り付けられた頑丈な格子に寄掛ってビルの隙間から星空を眺めれば今夜も星が流れる。
星に手を伸ばしたら指先が暗闇に同化して消える……全身に闇が広がり夜空に解けて無くなればいいのに。
百香と呼ばれる事に違和を感じ自分が何者かも分からない。
仙香は別れる時に『君は暫く虹彩京で居なさい』と言った。
暫くって何日? 何年?
北連峰は星が良く見えたのにここは夜も明るい……仙香が付けた名前だけは結構気に入ってる。ほほほ。
「何してる! 危ないじゃないか!」
ドッキリさせる方が危ないでしょ。
大きな声に振り向くといつの間にかリビングには明かりが点き大股でシオンが近寄って来た。元気そうでなにより。
怒っているのかと思ったらやさしい眼をしているシオンの頭を引き寄せて髪を指で梳かせばヒアシンス、スズラン、カンパニュラ、金魚草、アルメリア……。
「いい香りがする。ふふ。シオンは小さい頃に俺と会った事ない?」
「ないよ。俺は香量測定器が微かに揺れて戻るだけなのに何の香りがするんだ?」
「この前は冬の花、今は春の花でヒアシンスにスズラン、カンパニュラ、金魚草、髪を梳かすと次々とシングルフラワーの蜜香がする。測定器より俺が正しい」
笑ったぁ。いいもの見た。顔を改めてよく見たら大きな切れ長の眼に筋の通った鼻、小さな輪郭が凛として麗しい。
「危ないから早く降りろよ」
「落ちても下のネットにキャッチされて死ねないから大丈夫」
「……京の事を山根さんにちょっと聞いたよ。俺を探しに無許可で外出したから臨時理事会があったんだろ? 心配してくれたのに悪かった。ごめん」
ふふふ。俺が知っている大人なら惚けまくって責任問われたら余計な事されたって言うよね。
「どうって事ないよ」
「キングになったら自由になれるのか?」
「さぁ?」
あれ? 笑ったと思ったらもう不機嫌になった。
「この建物の中だけじゃなくて外に出たいと思わないのか?」
「外に出て何するの? 普通の事なんて分からない。ふふ」
「普通の事は覚えればいいだろ。何か他に事情でもあるのか?」
「事情? 俺は恐ろしい百香様だから。わ・は・は・は」
ウケなかった。百面相ならぬ百眼相だな。溢れるよ。聞かれたから言ったのに拙かったか?
「家族と引き離されて学校にも行けなくて京はなんで他人事みたいに笑ってられるんだ?」
「自分が無力だから。ふふ。今はシオンの髪がさらさらで気持ちいいから?」
包帯で顔を隠した!
人に泣かれるのは窓から落ちた時に山根に号泣されて以来だ。
胸がざわざわする。
「何て言えば良かったの? なんで泣くの?」
「泣いてない!」
いやいや。極力優しく喋ってる心算だったのに……近すぎて逃げられないから謝るか?
「くだらない事を喋り過ぎた。悪かった」
「……うわぁー……」
あらららららららぁぁぁ。余計泣いて包帯で顔をゴシゴシ擦る。
ゴシゴシして痛くないのか?
俺の周囲にいる人とはちょっと違うシオンをどう扱えば正解?
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