時
「時雨ちゃん、ちょっとおいで」
私を呼ぶ声がする。村人。近くに住んでるおばさん。名前は、なんだっけ。覚えていない。というか、可笑しい。私になんて、誰も話し掛けないのに。村の暗黙の了解の様に、村人全員が私を居ないものとして扱うのに。_考えられる事は一つだ。世間一般的に“嫌な事”という様な何かをさせられるのだろう。でも、私は付いて行った。理由は一つだ。どんなに嫌いな人でも、関心の無い人でも、私の名前を呼んでくれた人は久し振りだった。
「ちょっとここで、目を瞑っていてね」
がさがさ。ごそごそ。がたがた。忙しなく動き回る音が聞こえる。古い畳に正座をして、言われた通り目を瞑って待つ。
「“ブレインウォッシング+++”」
拙い。そう思った時には、もう遅かった。呪文の様なそれは、洗脳の術だ。しかもプラスプラスプラス。強力な術できっと、解くのは難しい。何をされるのだろう。こんな術を使ってまで、私に何をさせたいのだろう。
「君と私は“あの神社の祠を壊す約束”をしていたわよね。行って来て頂戴」
「…はい」
自然に口が動く。身体が勝手に。自分の意志を無視して動く。あの神社の祠を壊す。自分たちにとって忌々しいあの神社を壊そうというの。私で。神社の祠なんか壊してはいけない。神様がきっとお怒りになる。あの神社に神様が居なくても、きっとほかの神様がお怒りになる。寧ろ、住み着いた妖怪だって怒るかもしれない。あの神社は壊したくない。でも、矢張り勝手に手足が動く。険しい山道を、息一つ崩さず登る自分。自分自信が自分じゃなくなっていく恐怖が身体全体に行き渡った。
誰か、扶けて。
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