【2】赤い夢
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辺りは見渡す限りの黒、黒よりも黒い闇に落とされたような空間に立っている。
真っ暗な巨大な空間に、黒い
地は地で、どこからが大地でどこからが空かを悟らせないように、境界線が見えないほどに黒い。
視覚も聴覚も刺激するようなものは何ひとつない。
月も星も、光も音もない空間に、どうやら落とされたようだ。
と…しばらくすると、その闇の中、
乾いた空気が風に乗って、
1つ1つが小さかった明かりは、それぞれがゆっくりと確実に成長していき、さらにお互いが求め合うように融合していく。そしてひとつの巨大な明かりとなったとき、ようやくある事実に気づくのだ。
「あれは…火!?火事!!?しかもここは…大神殿?」
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その言葉を合図に、静寂に包まれていた空間に音が
大神殿の建物の東側を始め、至る所から炎が上がっている。明かりだと思っていた炎は、みるみるうちに燃え広がっていき、時折強烈な破裂音を響かせると、ますます勢いを増していく。そのバチバチと鳴る炎の隙間から、見たこともない黒いフード付きの
なぜだか、その炎はひどく美しい。
不思議な光景をしばらく眺めていると、不意に誰かが自分を呼びかける声がし、俺はハッと気づく。
《ボーっとしている場合じゃない!早く助けに行かないと!》
足元を見ると、大神殿の中央本殿がよく見える反省塔の屋上、鐘撞堂のすぐ真横に自分が立っているのだと分かる。かろうじて鐘撞堂には飛び火していないが、ここに火の手が来るのが時間の問題だろう。それに…
《ここからだと…中央階段を降りるより、隣の低い屋根を伝っていくほうが早いな》
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そう思い、北側に方向転換をしようと左足を一歩前に踏み出そうとしたところで、さらなる異変に気付く。足が動かないどころか、振り出そうとした手にも力が入らず、ただ意識だけが屋根を伝い、中央本殿へと移動しようとする。
《なぜだ…足が…動か…ないっ!?》
すぐにでも駆け出したいのに、足が鉛のように重く、一歩も踏み出せない。確かに足の裏に地面の感触を感じるのに、体は金縛りにあったように動かない。
そうこうしている間にも、東棟の大火が3階建ての中央神殿の3階まで到達し、ついには敷地内全部に火が燃え広がってしまった。今では、燃えていない場所は、自分のいる反省塔だけになってしまった。
眼に映るもの全てが灼熱の炎に包まれ、赤い宝石よりも
鼻をついてくるのは、黒煙の焼け焦げたような臭いと、なにかが腐った時に放つ
このままでは、大神殿にいる全員が焼けてしまう。全てが灰となって消えてしまう、人も生き物も…自分のいるべき場所全てが。
《頼む…動いてくれ!お願いだ》
祈るように目をつぶると、再び何者かが自分を呼びかけて来る声がする。その声に傾聴していると、フッと自分を押さえつけていた力が抜け、勢い余って鐘撞堂の屋上から転がり落ち…
黙々と立ち上る煙の中に落ちていった………
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