【序章】闇の7日間

 10万年ものはるか昔…


あるいは人がようやくこの地球上に誕生し、獣と人間との間にそうへだたりがなかった太古の昔。


世界には、今では生態系の頂点に位置する人間をべる存在がいた。


それを人々は神とあがめ、その形状からこう呼んだ。


ー 龍の神 Dragott ー


と。


 神と呼ばれていた最大の理由は、龍神の身には魔力が宿されていたからである。


これは人間には到底身につけられないものであり、畏怖いふの象徴でもあった。


99000年もの永きの間、人は龍神に統治され、支配されることをよろこびとしていた。


 やがて人々が知恵を身につけ始めると、龍神を崇拝すうはいする宗教家も出現し、世界各地に龍神の素晴らしさを説いて回り始めることになる。


当然のことのように、龍神をたてまつる神殿も、数多く建立こんりゅうされていった。


ーーーーー1ーーーーー


 龍神は通常人里からは離れた山の上に城を築き、ここから人々を見下ろすように生息していた。


 神殿を真っ直ぐに見下ろせる場所が、特に龍神達からは好まれたため、龍神の城へ行くには神殿を経由しなければならない。


神殿を通過するには、当然信者にならないといけないため、信者の数は鼠算的ねずみざんに増え続け、神殿の力はおのずと強大になっていった。


 次第に龍神をまつるための神殿は、【龍神党】という本来の役割からは外れた存在になっていく。


 龍神党の神官達は最初こそは龍神を敬っていたが、信者数が増すほどに権力を増し、我が物顔に行動していくことになる。


宗教家というよりも、今で言う政治家の役割に近いのかもしれない。


気づけば龍神達の存在自体がただの信仰の象徴となり、実際に人々を扇動せんどうしていくのは神官達になっていった。


ーーーーー2ーーーーー


 いつしか、龍神自身の人気よりも、龍神党の人気の方が上回ることになり、その結果生まれたのが1000年前の悲劇である。


この人類最大の悲劇を


【闇の7日間】


と、人々は後世に伝える。


ーーーーー3ーーーーー


 今では正しい記録は燃え、ほとんど残ってはいないが、闇の7日間に起きた出来事を簡単にここに書きしるす。


 始まりは、おそらくは人間が欲深くなったことによる龍神との些細ささいいさかいからであろう…と後の研究者達は口々に言う。


些細な諍いの詳細は誰にも分からないが、【龍神にとっては到底許せざること】が起きたことだけは確かである。


 そして、これがきっかけで7日間のうちに99%もの人類と、ほとんど全ての龍神が滅びたと言われている。


ただでさえ寿命が長く、それゆえに個体数の少なかった龍神は、7頭を残し全てが死に絶えたようである。


人類は個体数が増え続けていたこともあり、1%であっても10万人ほどが生き延びたのだという。


ーーーーー4ーーーーー


 そして、これだけは確かなのが…


この時より、一部の人間の体に何かしらの変化があり、それまで龍神だけが使うことのできた魔力をその身に宿すことになる。


 魔力を手に入れたことにより生まれたのが、人間同士の差別であり、戦争である。


 その結果、魔力を持つ人間を選ばれた人間【Xenoーゼノー】と呼び、その他の大多数の人間を持たざる者【Nemoーネモー】と呼ぶことになる。


 その後の1000年は、99000年間龍神により統治されていた平和な時代からは想像もつかないような、みにくい争いの連続であった。


ほとんどはゼノ達の一方的な殺戮さつりくであり、有無を言わせずネモ達を奴隷化どれいかしていった。


(強大な力を持つゼノ達がネモ達を支配していったのは、あまりにも容易に想像できるであろう)


あるいはゼノ同士の戦争に巻き込まれ、ネモ達の多くが命を落としていった。


 ゼノに抵抗することをあきらめ、完全に支配されることに甘んじたネモ達が、魔法が存在することすら神話の中の出来事として子孫に伝えていくことになる。


 今現在魔法の存在を知っているのは、ごくわずかになっている。


ーーーーー5ーーーーーー

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