第6回 古武道と捏造批判について
(※2016年6月に書いた記事の改訂版です)
古武道と捏造流派批判について、2ch武道板(と過去ログ)や武道関係ブログを見ていて少し思ったことがあります。
これらWEB上の匿名・記名の批判の双方とも、社会的に権威がある流派(ただし私から見て歴史が怪しい流派)は2chやブログではほとんど叩かれていないか、叩かれていてもソフトな叩かれ方をしています。
逆に権威の無い流派はけっこう強く叩かれています。という事は捏造流派を叩きたい人にとって権威によるバイアスは結構強いのでしょうか?
2chや武道関係ブログでは結構気安く
「あの流派は偽物だ」
「ねつ造流派」
と安易に判断、書き込みする事が多いですが、こういったことは本来慎重に検討して、書く際にも表現が正確になるように気を付けるべき事でしょう。それが出来ていない場合はたとえ有名な武道の先生が書いた批判だとしても鵜呑みにしないことが誠実な態度と思います。
そして、有名で権威ある流派でも歴史を調べてみればよくわからない点、そのまま鵜呑みにはできない点が多い事も知っておくべきだと思います(そして公開して指導している流派の方々は、ぜひそのあたり過去の史料を調査するべきと思います。)
権威ある流派で歴史がよくわからない例でいえば、古武道協会や古武道振興会にも加盟している『水鴎流居合剣法』ですが、この流派は劇画に登場することや、実戦的と言われる組型などで知られています。また、歴史的には大正以降に有名になった「撃剣叢談」の堤宝山流の項目に敵役として登場します。ですが、後述する目録以外の歴史的な資料や伝承記録はいまだに全く知られていません。
水鴎流には近年知られるようになった江戸時代初期の目録があります。この内容と現在の水鴎流の伝承に一致点がほとんど無いことから、私は
①江戸時代初期の水鴎流と全く関係ない流派がどこかで撃剣叢談の内容を取り入れた
②『水鴎流』の流派名だけが残り、伝承が失われた上で目録内容を大きく変更した水鴎流が、後世に撃剣叢談の内容を取り入れた
のどちらかではないか?思っています。(なお、近年知られるようになった古文書の内容と撃剣叢談の内容には人名漢字の近いや、若干の違い以外春ほとんど矛盾がありません)
現在の水鴎流の伝承を見ると、江戸時代末には幕臣が伝えたようなので、静岡県あたりから江戸時代後期の記録が発見されれば詳しい事がわかるのではないか?と思われます。
また、同じく古武道協会、古武道振興会に所属している『田宮流居合術』も前宗家が公開した前宗家か授かった目録と現在の目録が違います。以前書いたように前宗家が昭和二十年代頃に活動されはじめる前の記録や伝書類はほとんど無く、宗家の家伝の史料も公開されておらず、第三者からはよくわかりません。前宗家自身、英信流など昭和に盛んな流派の師範方から学び参考にしたと著書に書かれているとおり、古伝書に見られる田宮流の技とは全く違っていて、むしろ前宗家が学ばれた近代盛んになった英信流や伯耆流星野派、神刀流などの居合流派とよく似ている事が指摘されています。
居合と言えば『新陰流居合』も柳生厳長師範の弟子、鹿島清孝師範が厳長師範から学んだ居合(制剛流居合)を工夫したもので制剛流居合とも違いますし、新陰流の剣術とも違う、いわば新流派です。柔術では『大東流合気柔術』が武田惣角によって明治三十年代に創始されたものだろう、とは大東流の師範でもある柔術研究者の高橋賢先生の研究です。
ここ十何年かほどのWeb上で「ねつ造だ」「歴史が怪しい」とよく書かれている現在伝承されている流派としては『天真正自源流』『北辰一刀流玄武館(およびその分派)』『肥前春日流』『知心流(知心正流)』『豊前福光派古術』など、そして私もツイッターでフォローさせていただいている『天心流兵法』さんもよく話題になっています。(これらの流派への具体的な批判・誹謗内容についてはここでは触れません)
これらの流派は主張する流派の歴史が一般の剣道史や流派史と矛盾が多かったり、流派の記録が地方史や古文書に無かったり、伝承の記録が一般に知られていなかったりしています。ですが単純にそういった矛盾点だけなら、先ほど話題に出した権威ある流派にも同じように一般の剣道史と矛盾する流派や、第三者の記録が無い流派があります。
また、実際に存在し地方史に記録があり近代の伝承者の第三者の記録がある流派でも、それら記録が一般に知られてない場合では、WEB上や関係流派の他流師範から
「いきなりあらわれたあの流派は偽物じゃないのか?」
と言われる事例もあります。
普通の武道師範や武術愛好家は地方史等まで目を通さないので、有名な演武会に出ていたなど武道関係の記録が無い場合はまったく知らない場合が普通です。
上記のように、武道の世界も誤解が多く、ちょっとしたことで誹謗する人もいます。一般の信頼や信用を得るためには史実と主張する歴史に対してある程度根拠が必要でしょうし、またそれらは権威とは関係なく検討されるべきと思います。 流派の内部資料になりそうな、流派の内容や記録についてはすべめ公開される必要は本来ないとは思いますが、やはり現代ではある程度の公開や客観的な研究も必要だと思います。
○技術面での検討について
捏造古武道批判では技術面も問題になる事が多く見られます。例えば○○の形が伝わっていない、▲の使い方が間違っている、などなどです。ですが、技術的な伝承については手順や形式等、古文書でも確認できること以外は客観的な判断材料にするのが難しいと思います。
たとえ技術の内容をねつ造流派の批判材料にしたとしても
「○○年前の文書とは手順、構え、用語が変わっている」
「近代に盛んになった江戸時代には特定の藩にしか伝わっていなかったB流派の影響が強いように見える」
というような言い方までしか難しいと思われます。
一般に歴史が長ければ、意図的か無意識かは別として変化や改変は行われますから、やはり批判手法としては制約があると思います。これだけで捏造かどうか判断するのは難しいでしょう。
技術面について、一つ問題があります。武術の古文書については
「古文書には嘘が書いている」
「左右逆に書いている」
「わざと間違いを書いている」
「口伝を知らねば解読できない」
と主張している流派・会派があります。
また逆に古文書の記述に従って形を伝承している流派・会派もあります。
個人的にはわざわざ時間と労力をかけて嘘の伝書を書く師範の方がよほど希少と思いますが、絵や文書にすべてがあらわされている訳ではない事は常識でもわかると思います。書き間違いや字体が似ていて誤字する例、また画力・表現力の問題もあります。伝書が書書かれたのちに技法の変更があっても、文献はそのままという例も多くあります。
上記のように流派の伝書自体を批判・検討材料に使う場合は注意が必要です。
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