第10話 どちらを取るか

 私はあれから病室に毎日通い、彼の体調を伺うが、日に日にどんどん悪化していく。


 「北川さん……」彼の頬を触る。


 彼の右腕はもう無い。傷がかなり深く、そのせいで細胞が死滅してしまったのが要因だと医者は言っていた。


 病室のドアが開く。その正体は嶋田くんだ。


 「早乙女……。またここに来ていたのか」


 「だって……北川さんが……」


 「北川を心配する気持ちは十分に分かる。だけどな、もう北川は助からないんだ。あと三日したら脳死判定を受ける」


 「私がもう少し早く気づいていれば……どうして気づけなかったんだろう、私のバカ」


 「早乙女、自分を攻めちゃ駄目だ。わかったら家に帰ろう。あ、帰りにカフェに寄っていこう」


 「私の能力を使えば、助けられるかもしれない」


 「駄目だ、医者から使用を控えろと言われていただろ。早乙女の能力は完璧ではないし、いつ細胞が突然変異をするかも分からないじゃないか。だから、絶対に駄目だ」


 私はその言うことを聞かずに、能力を使った。


 私の能力は、完璧ではない。普通のTIME REAP は、第三者の記憶は消されるのだけど、私の場合は記憶が逆に継承されてしまうのだ。


 TIME REAP は、タイムマシンに近い。決めた時間に移動して、わざとパラドックスを起こし、時間軸を変える。


 でも、この能力の細胞は、突然変異がしやすい。突然変異とは、他の能力に変わるか、細胞が悪化し、その『HAZARD』が死亡するか、細胞が死滅する三つのケースがある。


 私は一体どれになるんだろうか。


 死ぬことだけは避けたい。



―――――――――――――――――――――



 俺はゆっくりと覚醒する。


 「早乙女……。お前のことが好きだ!」嶋田の声だ。


 目の前の光景を確認する。嶋田が早乙女に抱きついている。


 ここは病院だ。一体なぜ、状況がのみ込めない。



 『私は拷問が好きでね』

 ここは何処だろう。視界が全く無くて分からない。 


 冷たいこの感触は鉄だろうか。


 『ん? 気がついたようだな』


 目に一気に光が流れてくる。


 辺りを見渡す。眼鏡を掛けた初老が佇んでいるのと、床には血痕があって、かなり不気味だ。


 『いきなりだが君の能力はなんだ?』


 俺はTIMEREAP のことについて話す。


 『そうか……TIMEREAPか。早速だが君を拷問していこうと思うよ』


 初老はナイフを持ち出し、ゆっくりと近づいてくる。そして、左目に向けて差し込んだ。


 『うわぁぁあぁぁ!!』


 『北川くん!!』早乙女の声だ。


 初老を嶋田が殴り付ける。


 『大丈夫?』



 一気に記憶が流れ込んだ。


 左目が痛い。そうか、もう見えないんだ。

 

 早乙女がこちらに視線を送った。


 「嶋田くん……もうやめて!!」早乙女が嶋田を押しのける。


 「北川さん大丈夫? ごめんね左目はその、無理だったの」


 早乙女が俺の頬を触る。するとなんとも言えない快楽の波が押し寄せる。


 左目が見えた。傷が治ったのだ。


 「嘘でしょ、まさか突然変異で」


 早乙女は笑った。


 「ーふざけんな」嶋田は勢いよく病室を出た。



 三日後退院した。早乙女は嶋田が自殺したと語った。


 


 


 


 


 


 


  

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