第7話 早乙女
俺は『軍事学園』を抜け出すことを決意した。
理由は国が『国家非常事態宣言』を発令したとき、俺達を利用したこと。
早乙女からある男の話を聞いたとき、恐怖で震え上がった。いつ、俺もあの男のようになるかは分からない。
だったら言おう。俺は逃げる。この地獄から。
俺は下校中に親に連絡をした。
「英二? 元気にしているのか」父親だ。
「実はさ、高校がはだに合わなくてさ、だからさ、その、帰ってもいいかな?」
すると電話から怒号が鳴り響き、鼓膜が破れそうになる。
「ふざけるな!! お前はいつもそうだ自分で決めたことなのにすぐに逃げ出そうとする。いいか? お前はもう大人なんだ分かったか」
俺が理由を説明しようとしたら、電話を一方的に切られた。
ーーなんかもう嫌になってしまった。目から溢れだした感情は、俺をよりいっそう惨めにさした。
踏切が轟音を鳴らし、電車が通過することを合図する。
時刻はもう七時。視界の大部分が真っ暗だ。
ゆっくりと歩く。今までの大変だった思い出が走馬灯のように甦らる。
父親に虐待をされたこと。
それが原因で、施設に入所していたこと。
学校でのいじめ。
なんだ、俺なんか生きていたって仕方がないじゃないか。もう、吹っ切れた。
俺は電車にのみ込まれた。衝撃が体を貫く。
あれ? ここは確か……。
目の前を電車が通りすぎる。
背中に違和感があった。
「お願いし……ます。北川さん……」早乙女が俺に抱きついていた。何故か涙声だ。
振り替えると目を真っ赤にさしていた。早乙女は泣きながら俺を睨み付ける。
「お願い……死なないで。私……貴方のこと……こと」また抱きついてきた。その力はかなり強い。
「ごめん」駄目だ、感情が目から溢れだす。
踏切の轟音が止まる。俺達は客観的に見ると抱き合っているのだろう。
二人で肩を寄せ合いながら、帰宅した。
陰キャの俺が初めて好きになった彼女、早乙女。
今まで大変なことばかりだったけど、これからは楽しそうだ。
俺は早乙女の温かい体温を感じながら思った。
翌日、学校では早乙女は普通だった。いつも通り。
こんなことを経験しながら八月を迎えようとしていた。
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