第4話
ダンジョン地下1階。
ザックが目を覚ますと、暗い王城の灰色の汚水を国から外へ排水するためのトンネルの終着点。
「ひどい臭いだ」
トンネルの終着点から僅かな光が漏れていた。バスティーユ・スラムの看板が見えた。
「おいおいおい!聞いてんのかそこの兄ちゃん!今すぐ壁に掴まんな!」
トンネルの交差路の陸地から声がする。どうにか振り向くと10歳くらいの子供がロープを腰と近くに会った木に巻き、飛び込んだ。
ザックはキツいこの汚水に飛び込んでまでボクを助ける真意がわからないと思い怪しんだ。しかし、その発想はすぐに間違いだったと気づく。汚水の排水先の終着に辿り着いた。トンネルのから出た先は何も無く、滝のように下層に落ちるだけのものだった。
抗いようも無く、ザックはトンネルから汚水事流され、ダンジョンの地下に落ちていった。
汚水の中にあったドロドロのゴブリンの死体を昆虫類が食べに寄り、昆虫類を食べるために鳥類が集まる。鳥類を食べるために討伐レベル110越えのドラゴンの群れが集まってきていた。
「なんだとッ!!!このまま落ちたら確実に餌にされて死ぬ!」
目を見開き手足をばたつかせるも意味はさして無く逆に沈んでいく。
あっさりとドラゴンの口の中に収まりそうになったザックを子供が掴み、他7名程の子供達がロープを引き上げ、どうにか陸に近ずいた。
「た、助かった!あのドラゴンは何なんだっ?」
「あのドラゴンは魔王の死体を食ってレベルアップしたゴブリンの進化系さ。ビビるよね」
「あぁ、冷や汗かいた。またあの中に入るのは冗談じゃねぇや」
直後、少年が抱きついていた腕を離した。
「はぁ?ちょ、ふざけんな!」
再び汚水の流れに抵抗出来ずトンネルの外に流される。子供が汚水に浮く壊れた馬車や樽に乗り移り、話しかけてくる
「川下からどんぶらこ流れてきた男が桃太郎だった事は大きい。でも、君は失った力をまだ取り戻せてない」
ザックは、もがけばもがくだけ沈んでいくこの汚水の中で問われる。
「ザックは、昔の力を取り戻したい?ボクは質問してるだけ。このまま、昆虫の餌になるか、力を手にするか。選んで決めるのは君の仕事」
「いきなり手を離した野郎を信用する程の心の余裕はもう無いな。なんせ、ボクは弱いからな」
樽にバックパックから出した擦りマッチで火をつける。目の前に立つ子供はびっくりした表情を浮かべる。
「死ぬ気かよ!バカなのかっ!ここに浮かぶ樽の殆どは使われず廃棄された地下街嫌がらせ用油樽!火なんて付けたら体が吹っ飛ぶぜ!」
樽の中身の液体が爆発で吹っ飛び、ザックの体ごと後方に飛んだ。
ひどい出血だが、陸地に辿り着いた安心からか、教会での先頭の疲れたわからないが、気を失ってしまった。
「このままでは傷口に入った汚水が身体に回ってあまり良くない。困った事になるね」
メガネをかけた栗色の髪の青年がいう。
「あぁ、困った事に僕らは、困った人を助けなくてはならない」
手を離した少年が答える。少年の能力、蜘蛛の糸で、ザックの腹に巻いた保険の紐を解除する。そして、栗色の髪のの少年の分身の能力も解除した。
ザックが寝込んで2週間が経つ。その間、新しい王に異世界召喚者が選ばれたらしい。魔王でも抜くことの出来なかった、天使の王剣を引っこ抜いたらしいのだ。
しかし、善意でいい統治をしようとしているも、宰相の声にしか耳を貸さず、重税と兵役を必要以上にかけた。
村にモンスターが入ってくる事は、厄介この上無く、戦争で他国に勝てる事だけが今の王の優れているところだそうだ。民は表面上こそは王を尊敬しているものの、心の内では退任を願うようになった。
バスティーユ・スラム。第1回層のトンネルのダンジョンは、アリの巣のように深く作られている。
建物は全て、過去の世界大戦で核によって破壊された建物がこちらの世界に召喚されている。ドラゴンや昆虫類に食われないよう息を殺して廃墟の中を生きている人間が多い。
2人はその貧民街の一角で、ひっそりと、何でも屋の事務所を構える。五階建てのマンションの4階だ。そして、今は余り物の食材を消費している最中だ。
「なぁ、ジーク。ザックは後どれくらいで起きるかな」
先程のザックの身体から腕を離した、頭を白いタオルを巻いた赤Tシャツにオーバーオールで黒髪の少年は、小型のクーラーボックスからアイスクリームの包装を破きぺろぺろと舐めながら、栗色の髪の少年に尋ねる。
「さぁね?早くても後3時間はかかるかな。王城の追っ手がここの存在を割り出す方が早いかも知れない」
頂きものの牛肉、塩漬けのウィンナーソーセージ、干していた鮭の干物、キャベツ、じゃがいも、名も知らぬ鳥類の鶏ガラ、塩を適当に鍋にぶち込み釜に火をつける。
栗色のマッシュヘアーで黒のメガネをかけ、緑色のジャージを上下来ており、右胸の所に西条と書いているため、異世界召喚されてからは、記憶を失っているが「サイジョー」と呼ばれている。
そして、後ろに森三中サッカー部と日本語がプリントされている。
追っ手が事務所を破壊するかも知れないと言う恐怖から食材を消費しているが、半年ぶりの牛肉にはヨダレが垂れる。
「少しくらい味見してもバレないだろ……」
サイジョーは、スプーンを持っていたスプーンで煮込んでほろりと崩れた牛肉を掬い口に運ぼうとする。
が、右腕に持つスプーンが固定されているかのように動かない。
「なぁにぃをぉーしようとしているのかぁ?サイジョー先輩よぉ?肉の分量で殺し合いはしたくないぜ」
アイスの棒をサイジョーの頸動脈にチョンと当てる。
「あぁ、そうだよな。ごめんごめん。確かに戦争は得るものはあるけど、出来るなら回避すべきだ。謝るよ。ごめんごめん。肉うめぇぇぇぇぇ!!!!」
サイジョーは、分身体に口まで肉を運ばせもりもり食べていた。
「てめー!!よろしい!ならば!戦ッ!!!」
突如視界に違和感を感じる。
オフィスの窓が割れ、3人の騎士団のフルプレートを着込んだ騎士が冷蔵庫を漁っていた。
アイスクリームを食べるべく、ヘルメットを脱いだ騎士が、汗で篭もった髪を手で解しながら2人に言った。
「お前ら、そこに転がっているザック団長を引渡しな。そうすりゃ拷問はせず楽に殺してやる」
鍋を分身体に持たせ、ジークはザックを、サイジョーはバックパックを持って、窓から飛び降りる。
「なんだか知らんがとりま爆破だ!」
サイジョーはスマホをポケットから取り出し、液晶に表示された「アジト爆破」の文字をタップする。
フルプレートを装備していない騎士はリタイアした。
「たぶん、燃え盛る廃墟の中でミートパイのようにこんがり焼けて、1人は始末できた。でも、あと二人だ」
ジークは、右手から生やした蜘蛛の糸てマンションからマンションに飛び移りながら移動し、スマートフォンで地上に着地し、地面を走るサイジョーに電話していた。
「じゃ。ジークがザックを連れて伝導魔術師ルーカスの工房に行き魔法を使えるようにする。俺はその時間稼ぎという事だな?」
騎士が窓を右手の掌の排熱口で吹き飛ばした。吹き飛んだガラスがナイフ状になり真っ直ぐジークに向かう。ジークは、糸をしならせ腕に巻き付け、両腕のラッシュによりガラスを全ての粉砕する。落下仕掛けるとスマホを再びポケットから出し、マンションからマンションへと糸をくっつけ移動した。
「そうだ。いける?サイジョー?」
騎士が2人、掌から空気を排出し、滑空しながら襲ってくる。スピードは僅かにジークの方が遅かった。サイジョーは、地上から兵士の滑空を見上げながら答える。
「そりゃ無理だろ。ステータスが違うから、兵士が本気になる前に連れて帰ってくるんだ」
「努力する」
サイジョーは電話を切り、
「イモータル・コンバット」と呟く。
目測をつけ道に落ちている木片で石を打ち上げる。打ち上げた石がサイジョーに変化したが、掌の排熱口で吹き飛ばされ掻き消える。
「ガッカリだ」
騎士達のターゲットは、ジークでは無く自分に向いたので、サイジョーはこれで良しとした。
「イモータル・コンバット」
地上をかけて逃げる。無機物に触れると、無機物がサイジョーの形に変化し、単純な回避行動をとった。
「キツネ狩りか。一人でやるのもいいが、2人で片付けた方が早い。手早く片付けよう」
騎士のヘルムには無線が内蔵されており、会話も難なく出来てしまい、2人の空中魔弾の爆撃が廃墟を更地に変えて行った。
無機物を建物に変えて逃げる算段を付けていたサイジョーは、がっかりした。
自分が隠れようとしていた所だけが爆撃されなかったからだ。
「位置がバレている……」
サイジョーはゴクリと生唾を呑んだ。倒壊した30階建てのビルの18階のオフィスのデスクの下でスマホの電池残量を確認する。何も操作をしてないのに秒単位でぐんぐんと電池残量が減って行っていた。
「スキルを使いすぎたか……」
刹那、窓ガラスが割れる音と、風を切る音が聞こえた。
「おやおやおやおや。逃げるのはもう辞めたのかい?先程の体当たりの技。見事だったよ。さて。死んでもらう」
サイジョーの背後に仲間の反応があり。価値を確信する。
「お前が後ろからトドメをさせ」
そうメッセージを送ると、了解と返信が来た。まもなく。命乞いをするサイジョーは、デスクの裏側から、収束したエネルギーのビーム砲によって焼かれて死んだ。
騎士のヘルムに内蔵されたサーマルスコープで、サイジョーの体温がグングン下がっているのが見て取れる。
肉の匂いのいい匂いが微かに鼻を刺激した。
祭壇場の魔王 佐世保 悟 @teritama0912
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