第6話『自分以外バカ』

「...っ」


気が付けば、数時間でこの部屋にいるのは自分だけになってしまった。

先程の炎に包まれるフェネックの断末魔を聞き、気分が悪くなり、ずっと壁の方を向いて荒々しい過呼吸を起こしていた。


パーク内で一番賢いのは自分だと自負していたが、今となっては冷静に物事を判断する事が出来ない。なにも思い付かない。

もう、諦めるしかない。




ゆっくりと扉が空いた。


「ワシミミズク。君も他の奴らみたく地獄に行ってもらおうか」


銃口を向け、近付いた。


「私は...、私の、罪とは、何ですか」


彼女の質問に彼はほくそ笑みながら、

こう答えた。


「君は実に“バカ”だなぁ」


「....」


彼が何にを言っているのか、意味がわからない。


「お前のキョトンとした顔を見るのははじめてだ。アホヅラしてんなぁ~」


彼は遠慮なく自分の事をバカにしてきた。


「お前の罪はそれだ。

自分以外全員バカだと思い込んでる異常な思考、まさかブーメランが刺さるとはな」


「私はそんな、そんな目で他人を見たことなんて...」


「俺の事を散々バカ扱いした奴が何言ってんだよ。“こんな事も知らないんですか?”ってよ、嘲笑してたのを俺はよく覚えてんだよ。

たかがフクロウの存在で調子のってんじゃねえよ」


「...」


「自分は賢いと思い込んでるナルシスト野郎

お前に蔑称を付けるとしたらそれだな」


彼は腕を組んだ。

今までとは何やら雰囲気が異なる。


「そういう所が癪に障るんだよなぁ。

さっさとぶっ放して殺してもいいけどよ。

お前は俺が最後に担当したフレンズだ。

遊んでやるよ」


そう言うと、拳銃を弄り始めた。


「ロシアンルーレットでもやろうか。

この拳銃に弾を1つだけ込めてやる。

相手に向けて交互に撃ち合うだけの単純な遊びだ。バカのお前でも出来る」


軽い皮肉を言ってみせた彼は、銃を渡した。


「...これを引くんですか」


「ああ、どこでもいいぞ。口でも頭でも。

俺が死んでお前が生きるか、お前が死んで俺が生きるかだ」


恐る恐る、彼に銃を向けた。

手の先に何とも言えぬ緊張感が走る。


「どうした?手が震えてるぞ?」


にやけながら言う。


相手は、これまで4人のフレンズを殺した。

ここで彼を殺せば、逆に彼女達の復讐を果たした事になる。しかし。


散々自分は、彼に対し失礼な態度をとってしまったが、心の中ではとても嬉しかった。

何故なら一番最初の飼育員が彼であったためだ。フレンズになって、初めての。


彼女の指の動きに歯止めを掛けているのは、

思い出だった。


「お前、早く撃てよ、撃てねえのか」


「...」


「...貸せ」


彼女から強引に銃を奪った。

彼は奪った拳銃を自らの頭部に当てた。


彼女の目前、不気味な笑顔を浮かべ、躊躇いもなく引き金を引いた。


「どうだ?全然怖くねえ」


そして間髪も入れず彼女に銃を向け引き金を引いた。


「...ちょっ!」


「お前が何時まで経っても引かねーからだボケ」


強引なやり方だ。

そしてすぐに、彼女に向け返した。


「さあ、口を大きく開けて」


「な、何を...」


「あけろっつってんだろ」


そう、彼は睨みを利かせながら言った。

彼女が渋々口を開けると、

ゆっくりと拳銃を近付けた。


「咥えろ」


その指示に従い、冷たい金属の銃口を咥えた。

何も味がしない。


「お前がもっと他人に従順なら...、俺もお前も、ハッピーエンドに向かったかも知れねえな」


ハァ、と深く息を吐いた。


「一体何が幸せなのやら。

動物がヒト?よくよく考えたら、馬鹿馬鹿しい。動物もヒトも全く変わらねえし、害悪になっただけじゃねーかよ」


彼は、淡々と述べた。


「だから、俺は復讐を決めた。

てめえらみてえな、他人の気持ちわかんねー奴に、制裁を下す為によ」


そして。


「死ね」




このゲームの終演は意外にもあっさりとした幕引きだった。


こもった銃声と共に、

「ゴホッ」という喉の奥底からの声が聞こえた。


ワシミミズクの口からは大量の血が出た。

彼女の喉の奥には、もうひとつ穴が空いた。


一瞬、空気の通る音が聞こえ、後ろに倒れた。



拳銃や彼は、返り血を浴びた。


この部屋にいるのは、鳥の亡骸と復讐を果たした男だけだった。


ゆっくりとソファーに腰掛け、足を組んで、

タバコを吹かした。


「俺の人生...、ぶっ壊しやがって...」


黒い天井を見上げながら呟いた。

一旦卓上に置いた、銃を確認した。


「...、ジャパリパークへようこそいらっしゃいました。

担当飼育員の....」








ガチャッ





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とある飼育員と5人のフレンズ みずかん @Yanato383

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