第4話『わがまま』

彼はフレンズを殺してから1~2時間ほど間を取る。何の間なのか。

地下室に閉じ込められた彼女らに助けは来ない。


「ねえ、あんた。さっきから泣いてんのうるさいんだよ」


フェネックがレッサーパンダを叱責した。

相当、イライラが募っている様子だった。


「だって...、次は私の番だもん...、死にたくないよ...」


鼻を啜りながら言う。


「あんた彼を殺してよ」


フェネックはそう彼女に言った。


「出来ないよぉ...」


「役立たず、ゴミ、死んでね」


辛辣な言葉をレッサーパンダに浴びせ、

彼女は再び泣いた。


「フェネック、やめるのです。

あなたの焦る気持ちもわかりますが...」


「口だけじゃなくて行動で示して」


「脱出出来る方法を考えてるのです...」


「急いでよ」


その時、地下室の扉が開いた。


「おい、レッサー。お前の番だ」


「いやぁぁぁぁぁっ!!」


更に彼女は慟哭を強めた。


「俺が担当だった時もお前は泣き虫だったな」


耳の穴をほじりながら言った。


(今がチャンス...!)


フェネックは彼がレッサーパンダに気を取られているうちに扉から脱出しようとした。

だが。


「逃げんな」


バァン


「あう゛っ」


右太腿辺りに弾が命中した。


「あぁっ...ああぁぁっ...」


うつ伏せになり悶絶する。


「お前だけは逃がさねえぞクソギツネ。

じっくり復讐しねえと気がすまねえ。

お前の番までそこで痛みに苦しんでろ」


そう台詞を吐き捨てるとスタンガンを取り出し、泣き喚くレッサーパンダを黙らせ、そのまま担いで出て行ってしまった。


「フェネック!」


ワシミミズクが心配して駆け寄った。


「...わたしが...、何を...」





あの部屋に連れ込んでから直ぐには目を覚まさなかった。威力が少し強すぎたのかもしれない。二十分程経過した時、目を覚ました。


「お前はどれだけ俺に手間を掛ける」


寝起きである椅子に縛った彼女にそう語りかけた。怯えた目をする。


「...ブタの件でまた配置変えされた俺は、

問題児と言われていた動物の担当になった。

それがお前だ。お前は小学校低学年のクソガキそのものだった」


「え...」


「お前は泣き虫で、ワガママだった」






ブタの次に担当になったレッサーパンダは問題児と言われていた。泣き虫でワガママな性格がそう言われる由縁だった。


「おい、じゃぱりまん食えって言っただろ」


「イヤだ。ハンバーガーがいい」


「はぁ?何言ってんだよ。

お前は栄養を過剰に摂取しすぎだって医者から言われてんだ。我慢しろ」


「じゃあ食べない」


「食べなきゃ俺がまた面倒な書類書かされる事になんだよ。黙って食え」


じゃぱりまんを手に取り口に近付けるも。


「やだやだやだっ!」


そして、赤子の様に泣き始めたけ。


「うるせえなぁ...、この野郎...」


こうなると収拾がつかない。

仕方なく、ラッキービーストに彼女の食べたいものを注文して落ち着かせた事もあった。


しかし、彼女の暴走は止まらなかった。





「なあ、お前。俺が一番何に怒ってるかわかるか?」


銃口を額に当てて尋ねた。


「わ、私が、好き嫌いして、色んなのた、食べなかったから...」


震えた声で言った。


「残念。正解はその逆だ。

お前、前に一回ジャパリチップスを暴食した事があった。俺はまた医者や上司に問い詰められるのが嫌なのでチップスを全部回収し、

お前が食えないようにした。そしたらどうしたと思う」


「わ、えっ...」


「他のフレンズから奪い取ったり、

来園客の車やコテージから勝手に盗んだりして...。要は盗み食いしてたんだよ」


「...」


そう言えば、そんな事をしてしまった記憶があった。


「俺はなぁ、お前のせいで謝罪巡りだ。

どんだけ頭を下げまくったことか...。

監督不行き届きを指摘されて上司にも怒られた!お前が迷惑を振り撒いたんだよ!

俺が叱っても泣きまくって話を一切聞こうとしない!」


声を荒らげた。


「俺は結果、また配置変えだ...。

お前のせいで俺は精神的にもダメージを負ったんだよ。疲労困憊だったんだよ。

俺の気を知りもせずよく、他人に迷惑を掛けて、俺を苦しめた...、復讐してやる」


「イヤだっ...」


彼女はまた泣こうとした。


「喜べよ。痛い思いはさせねえよ」


彼はマスクをして、とある箱を開けた。

細長いトングでその箱の中の物体を掴み、

彼女の口に近付けた。


「イヤだ...っ!!イヤ!!」


泣きながら頑なに拒む。


「美味しいチョコレートだ!食べろ!」


無理矢理口に突っ込ませた。


「う゛ぅ゛っ゛...」


大量の涙を流し、息の詰まった苦し気な声を出した。


「どうだ。お前が食った事の無い味だろ?

満足だろ?」


「...オウェッ...、ゲェッ...」


何故か口から吐いてしまった。


「おいおい、食べ物を粗末にしちゃダメだろ」


「ごへんな...ざい...もう...好き嫌いしない...からやめ...」


「じゃあ飲め」


「んぐっ...!」


口にした物は“飲み物”ではない。


「あがっ゛...、う゛ぇ゛っ...」


涙目の彼女。口からは異臭。黒い服にシミがついている。


「犯罪に汚れたお前にはお似合いの姿じゃねえか。見てて清々しいぜ。はははっ!!」


子供の様に笑った。


「もっと食えよ!食いやがれっ!!!」


「ん゛ッ゛!!」


何回も彼女は嘔吐を繰り返した。


「がハァ...ハア...ァァ...」


「これでもがき苦しめ」


彼は彼女の口に大量の錠剤を含ませた。

口からボロボロと破片が零れる。


「あ゛っ.....、あ゛っ゛......」


苦しさと、気持ち悪さと、息苦しさ。

彼女は陸地に打ち上げられた魚のごとく、

ヒクヒクと息をしていたが、そのうちリズムは遅くなり、遂に途絶えてしまった。


「あははははははっ!!

やっとうるさいゴミパンダが消えたぜ....。

はーあっ...。さてと...。

おーい、クソギツネ見てるか?

見てねえか。次はお前の番だぜ。楽しみだなぁっ!!」

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