第2話『スポーツマンシップ』

一番最初に俺が担当したアニマルガールは

G・ロードランナーというちんちくりんな名前の動物だった。


俺は彼女に会った時のことを鮮明に覚えている。


「はじめまして。今日から君の担当になった...」


「ああ?」


「えっ?」


「お前足早いのか?」


初対面からお前って...。

その時からこれは自分の苦手なタイプであるなと悟った。


「いや...、そんなには...」


「オレとかけっこしようぜ」


そう誘われ、渋々やることになったが、結果は

彼女が勝った。というか、彼女は不正を堂々としていた。空を飛んだのだ。


「ず...、ズルいじゃないか!」


「誰もかけっこで空を飛ぶなってルールは決めてないぜ?」


なんて不公平な。

しかし、こんなことでキレていたら、

逆に相手の思うツボだ。


だが、こんな一言を彼女は付け加えた。


「ヒトのオスは力強いって聞いたぜ?

オスの癖に弱いなぁ~!」


そうやって、彼女に笑われた。

屈辱的だった。


女子に言われて、しかもズルした奴に。


その後も、急に勝負を挑まれては、

彼女は正々堂々不正を働き、俺を散々バカにした。それは身内のやりとり以外にも、

毎年パークで行われる担当フレンズとの運動会に参加した時彼女が他のフレンズにこう喋っている所を俺は立ち聞きした。


「アイツ本当にオスの癖に運動出来ないんだぜ?わらっちまうぜ。アイツと一緒に競技するなんて正直やだね。オレは勝ちたいのにアイツ

が足引っ張るから迷惑なんだよ。早く消えればいいのに」


陰口を言われ、俺は深くプライドを傷つけられた。

その日の運動会の結果は散々だった。

終了後、大きな溜め息を吐かれた。


俺はその後、移動願いを出し、彼女の担当から外れた。






「お前がよ、俺を散々侮辱して、馬鹿にして、

どれだけ俺の心が傷ついたかわかるか?」


「...」


ロードランナーは絶句し、後退りする。


「何がいい奴だっただ。美化しやがって」


壁に背中が当たる。

これ以上は逃げられない。


チャンスを得た彼は彼女の首を左手で押さえつけ、右手で腰からナイフを抜いた。


「...っ」


「てめぇのよお、他人を舐めきったような腐った性格が嫌いなんだよっ!」


右手のナイフが、彼女のすぐ横の壁に刺さり、

金属音を出した。


「ご...、ごめん。悪かったよ...。

馬鹿にして、悪かった。だから...、ゆ、許してくれよ...」


彼女は目を潤しながらそう、謝罪した。


「謝れば済むと思ってんのか?

俺はな、純粋に動物が好きだったんだよ。

小さい頃、動物のお姉さんと遊ぶのが好きだったんだよ。だから、この仕事に就いたんだ」


そう言いながら、ゆっくりナイフを腰に戻す。


「...だがな」


彼はまた、別の道具を腰から取り出した。


「お前のせいで...!

お前が散々侮辱するせいで!

俺は他のフレンズと会うたび嘲笑されるようになったんだよ!!ふざけるな!!」


バンッ!


銃声が響いた。


「あ゛っ゛...」


ロードランナーは苦しい声を出すと地面に座り込んでしまった。

左足を銃で撃たれた。


「痛てぇっ...!」


涙を堪える様に必死に目を閉じる。


「お前のその痛みの数倍以上の痛みを俺は体感し続けて来たんだぞ!」


彼はそう言うと、軽く息を吐いた。


「さあ...、お前の好きな運動を楽しめ」


彼は上手く立てないロードランナーを無理矢理立たせた。靴を脱がし、負傷した左足を露にさせ、引きずりながら苦し気に歩く。


彼は非常に用意周到で、部屋に道具をセットしてあった。


ランニングマシンの前に彼女を立たせた。


「乗れよ」


首筋に銃口を当て、命令する。

ゆっくりと彼女は機械の上に乗った。


「ロードランナーの名の如く、お前にはランニングしてもらう。ズルをしようとしたら、お前の脳天ぶち抜くからな。死にたくなきゃ走り続けろ」


ランニングマシンの後方部に鋭くトゲのあるマットが設置された。


「オレは...、ケガしてんだぞ...」


「だからなんだ。俺の痛みはお前の倍だと言ったはずだ。苦しめ」


(痛ぇけど...、意地でも走りきってやる...)


彼は遠隔操作でマシンの電源を入れた。


「...ッ」


ロードランナーは歯を食いしばった。

先ほど撃たれた左足が、とてつもなく痛い。

しかし、飛ぶ素振りを見せたら彼に撃ち殺される。


徐々に早くなる速度、死への恐怖と痛さから荒くなる呼吸。


「はあっ...、アアッ...」


彼女の足は紅に染まり切っていた。

その様子を彼はにやけながら見る。


マシンの最高速度に達したが、彼女は死に物狂いで食らいつき、5分間は走り続けていた。


最初は面白いと思いつつ見ていた彼も少し飽きが来ていた。

手元のリモコンを操作し、マシンを強制停止させた。


「...!?」


その途端、バランスを崩し、後方によろけ、

トゲの絨毯に足を着いてしまった。



グサリと両足に、トゲが刺さった。



「あああアアッ!!あああああアアアッ!!」


絶叫。


モニターを通しても、その音声が流れた。



フェネックやワシミミズクは口を開け、唖然としブタは耳を塞ぎ、レッサーパンダは啜り泣いていた。



両足に重症を負った彼女は痛さのあまり立てず、床倒れ低く唸り声を出していた。


「うぅぅぅぅぅっ....、てめぇぇっ...」


「そんな血だらけの足で何が出きる?

俺に抗うか?俺を馬鹿にするのか?」


倒れ込んだ彼女を上から見る。


「どんな気持ちだ?

他人から見下される気持ちはよ」


嘲り笑い。

彼は過去に彼女が自分にした事を、そのまま返したのだ。


「....っ、...ほんとうに...、悪かったからぁ...、はぁ.....、許して....」


女々しい声で訴えた。

だが彼が復讐を止める気は更々ない。


「ああ、そうだ。お前確か...、水が苦手だったよなあ」


ガラガラと台車を押してきた。

荷台には、水がたっぷりと入った水槽がある。

丁度モニターの位置だ。


「運動好きなら、水泳をやんなきゃなぁ...」


「ぐっ...」


彼女の両腕を乱暴に掴むと、水槽の前まで引っ張る。


上半身を起こさせ、髪の毛を掴んだ。


「やめ...ろ...」


「水に慣れる練習だ!」


「あっ...」


水中に無理矢理顔面を突っ込まれる。

そして、引き上げられる。


「ガハッ...、ハァ...、うぐっ...」


何度も、何度も、何度も。


その様子をモニターで直視する者は誰も居なかった。


一連の行いをやって23回目くらいか。


「...ん」


彼は彼女が息をしていない事に気が付く。

後頭部を引っ張り、乱雑に手を離した。


彼女の顔や髪の毛はびしょびしょに濡れていた。

その姿を見て笑いが込み上げてきた。


「...ハハハハハッ!!

びしょ濡れクソバードめっ...!!!

俺を散々軽蔑した裁きを地獄で受けろ!!

あははははははははっ!!」


笑い声が響いた。


「ハァーっ...、お前達」


満足し終え、カメラの方に向き話し掛けた。


「俺はお前らに復讐する...。

自分達が何をやったか、思い出しとけ。

いいな?脱出しようものなら殺す」


そう告げると、映像が終了した。




「私達死んじゃうんだ...」


レッサーパンダが泣きながら言った。


「冗談じゃない...。私がいつアイツを傷つけるような事を言ったのか。完璧な濡れ衣だよ」


フェネックはイライラしながら言った。


「あんなの完全なるでっちあげなのです」


ワシミミズクもフェネック同様だった。


「...多分、次は私ですね」


ブタがそう言ったので、ワシミミズクは顔を上げて尋ねた。


「お前は何か心当たりがあるのですか?」


「...私は」


監禁された元飼育員の担当だったフレンズ達。

彼の復讐は終わらない。

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