第11話


 週明け、部室に行くと封筒を開けて、何かパンフレットを取り出す策士先輩がいた。

「あれ、届いたんですか? 組み合わせ」

 僕はカバンを部室内にあるロッカーに置きながら、ベンチに座って小冊子をパラパラめくる先輩に声を掛ける。

「ああ。届いたよ。見る? 組み合わせ」

「はい、見たいです」

「オッケ―」

 そう言い、先輩は冊子を僕に手渡す。

「明日翔は、Bブロックだったかな」

「あ、はい。見つけました。えっと……同じ一年ですけど……魔法研究科ある学校ですね……。やっぱり研究科のある学校は強いんですか?」

「ああ、基本他の学校よりは強いと思っていいよ。都内だと、千代田科学技術高と、都立八王子北野くらいかな。うちが基本に当てはまらないってだけで、その二校はめちゃめちゃ強い。……ああ、明日翔は千代田の一年とか。でも、僕の見立てでは、明日翔は魔法の実力はどの高校生よりも上手いと思っている。まだ戦術の理解が乏しい初心者の一年生なら、十分上位にいける可能性はあると思うよ。例え、それが他校の研究科相手でも」

「それは言い過ぎですよ。僕にそんな実力なんて……」

「何級持ち? ……明日翔は」

 先輩は、鋭い目線を僕に向け、優しい声でそう尋ねる。

「明日翔は、魔法実技理論検定、何級持っている? 因みに、高水は認定がない。若葉先輩は五級、僕は四級だ。……明日翔、君は何級を持っている?」

「…………」

 答えに言い淀むと、先輩はおもむろにベンチを立っては練習器具の準備を始めた。

「……僕が見るに……明日翔。君……少なからず準一級は持っているんじゃないか? でなければ、あんな数ミリ単位でボールをコントロールして投球するはずなんてない。これまで毎回練習終わりにクールダウンでボールを投げてもらったけど、その投球全てにおいて君は、正確にボールをポケットの中心に放り続けた。……高校トップクラスの選手がやるような真似だ。そんなのは。そして、トップクラスの選手は誰も、大体が二級か準一級を保持している」

「…………」

 ほんと、よく見ているなあ。この先輩。

 策士先輩は練習で使う白粉入りの飲料水を作り始めた。ビーカーに一定量の白粉を注ぎ、それを水の入った専用ボトルに注ぎ込む。それを繰り返している。

「……僕は実技が苦手でね。四級も理論のテストでなんとか逃げ切ったってレベルなんだ。だからこそ、他人の実技の力はよく見ていると思っている。……今まで何百人とエアカーリングの選手を見てきた。試合でも、練習の様子からでも。明日翔。君は僕が見てきたなかで一番『魔法の実力がずば抜けている』んだ。学年とか、そんなの抜きにして。十五歳で、あそこまで魔法を操れるもんなのかって思っている。僕もよくできた人間じゃないんでね、嫉妬くらいはするんだ。もし、君の実力の一パーセントでも僕にあれば。ってね。……だから、僕の前で、少なからず、僕の前で、実力がないだなんて言わないでくれないか」

 手慣れた様子で次々と白粉入りボトルを完成させる策士先輩。その肩は、少し小さく震えていた。

「話が逸れたね。それで、明日翔。君は、何級を持っているんだい?」

 蛇口を止め、最後のボトルの口をきつく締めた先輩は、眼鏡を直しながら聞いてくる。

 別に、隠していることではないから、いいの、かな。それに、策士先輩になら、というか、部員の先輩方になら知られてもいいのかな……。っていうか、合格者は色々名前がネットとか新聞とかに載るから、調べようと思ったらわかっちゃうんだけど。

「……一級ですよ、先輩」

 僕がそう答えると、策士先輩は少し目を見開いてから、何回か頭を上下に動かしてから僕に向かい合った。

「そっか、一級か。……道理で上手いわけだ……。なるほどね……」

 そして策士先輩は用意したボトルを手提げのかごに詰め込みながら、続けた。

「ほんと、どうしてそんな君が普通科にいるか、わからないけど。……明日翔、君ならうちのエアカーリング部を、変えられるよ。僕に言われても、嬉しくないかもしれないけどね」

「…………」

「さ、そろそろ高水や若葉先輩が来る。こんな湿っぽい話は終わりにして、明日翔も練習の準備をしよう。な?」

 何事もなかったように、策士先輩は言う。

「は、はい」

 今日の練習も、いつも通り行われる。

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