第2章 そんな先輩でも、やっぱり悔しいって感情は強く持っているようで、
第8話
「──で、ここが更衣室ね。これで部室の案内はあらかた終わったけど、何か聞きたいことある?」
入部届を出したあと、策士先輩に部室のなかを案内してもらった。
「いえ、特には……」
「むすーっ」
いや、さっきから機嫌が悪そうなこの先輩について少し聞きたいですね。一体何があったんですか?
「入るなら言ってくれればいいのに」
そこ? 機嫌悪いの、そこ? えー……わかんねーなほんと……。
「じゃあ、次に部活の説明軽くしちゃうね、そこのベンチ、座って」
策士先輩に促され、僕は若葉先輩がずっと機嫌悪そうににしている隣に座る。ホワイトボードを転がしてきて、策士先輩は何か文字を書き始めた。
「部活の活動日だけど、週五で練習してる。休みは水曜日と日曜日。平日は午後六時までの練習、土曜日は午後一時から六時まで。全員揃ったらプロムナードを五周走ったあと、メニューに入る。練習場所は部室前の広場ね」
そう説明しながら、手際よく時間と曜日などの練習のことを書いていく策士先輩。
「で、これからのスケジュールだけど、大きな大会は七月にある都大会かな。これに優勝すると、八月にある全国大会に出場できる。今年の会場は、石川県。その前には五月に春の都大会、六月には東東京の地域合同の練習試合が組まれている。五月の大会でベスト16に残ると、夏の都予選で決勝トーナメントにシードされる。まあ、うちは去年の最高は若葉先輩の予選四位敗退だから、簡単な話ではないけどね。大体参加者は男女ともに二百人くらい。まあ、これくらいかな?」
「あの、決勝トーナメントって言ってましたけど、大会形式ってどんな感じなんですか?」
「ああ、ごめんごめん。春は全部トーナメント。一発勝負。夏は二百人前後の参加者を八人のグループにわけて一次予選を行う。そのグループ内で上位三人が決勝トーナメントに
残る。それに加えて、春の大会でシードされた人も足して、そこから一発勝負。そういう形式」
「ありがとうございます」
「ま、説明もそのくらいにして、練習行っちゃおうか。じゃあ、各自で体慣らしてからランニングーその間に僕は準備しているんで」
策士先輩はパンパンと手を叩き、部員の皆を部室の外に出す。
「じゃ、じゃあ……走りに行こう……? 上板橋君」
外に出て軽く準備運動をしていると、前髪で少し目が隠れた高坂先輩にそう誘われる。相変わらず若葉先輩はむすーっとしている。
「は、はい」
後ろにボールやらカラーコーンなどを準備している策士先輩を置いて、僕と若葉先輩、高坂先輩の三人は、まだ帰宅中の生徒がチラホラ見えるプロムナードに向かって走り出した。
「……なんで若葉先輩の機嫌、さっきから悪いんですか?」
僕は前を走る高坂先輩にそう尋ねる。先輩は僕の隣に少し下がって、一番前を走る若葉先輩の背中を見つめつつ小声で答える。
「うーん……た、多分……あんなに菜摘先輩が直接上板橋君を誘っていたのに、何も言わずに入部しちゃったからじゃないかなって……思います」
「ええ……」
面倒だなあ……若葉先輩も。
木々が植えられたプロムナードは、敷地内を一周できるように設計されている。そのため、わざわざランニングで外周する必要もないから、多くの運動系部活がプロムナードをランニングコースにしている。
かけ声を出しながら僕らを追い抜いていく集団も何個かあった。それを見て、
「あの……僕達緩めのペースで走ってますけど、これくらいの負荷でいいんですか?」
高坂先輩にそう聞いてみた。
「えっと、私達は普通の体力より、むしろ魔法の持続力の方が問われるから……体力はそんなに重要視されてないんです……勿論、あるに越したことはないですけど」
「そうなんですね」
「それより……多分、私にばっかり話しかけていると、菜摘先輩、もっと機嫌悪くなっちゃいますよ……」
「ははは、まさかそんな──」
僕はそう言われ、少し笑いながら前の方に視線を移すと、一瞬頬を風船のように膨らませた若葉先輩と目があった。
「やっぱり……」
「ええ……?」
なんなの? あの先輩。
簡単に高坂先輩とコミュニケーションを取ったランニングもすぐに終わって、部室前に戻った僕達は、練習の準備を整えていた策士先輩からスポーツドリンクの入ったボトルを手渡された。市販のより、なぜか美味しく感じたのは気のせいなのだろうか。
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