第4話
三木原の協力のおかげで、数学の授業は事なきを得た。
柚子が十五分休憩で自販機に行くと、瑠奈と真美が立ち話している所に出くわした。
「こんにちは」
「あー……川之江さん、こんにちは〜」
小銭を入れ、炭酸ジュースのボタンを押す。値踏みされるような真美の視線がまとわりついて居心地が悪い。さっさと立ち去ろうと、ペットボトルを取り出していると真美が近づいてきた。
「それ、美味しい? カロリーめっちゃ高くない〜?」
「朝走ったから喉が乾いちゃって。カロリーはあんまり気にしてなかったですけど高いんですかね?」
「え〜それ細いからってイヤミ? 佐藤ちゃん気にしてるのに。ねぇ?」
軽く笑って真美は後ろを振り返り、瑠奈に同意を求める。何となく、瑠奈は元気がないように見える。
「イヤミなんかじゃありません」
「うそうそ、冗談だよ。川之江さん細くて羨ましいな〜って」
笑ってはいるが、真美の表情にゾワッと鳥肌が立つ。どこから仕留めようか見定められているような。
あまり接触しない方が身のためかもしれない。
「私、教室に戻ります」
「あ、そうそう」柚子の言葉など聞こえなかったかのように真美は口を開く。「中間のテスト期間になったら二年生何人かと、佐藤さん安田くんも誘って勉強会やるけど川之江さんも来る?」
「えと、遠慮させてもらいます。誘って下さりありがとうございます」
「え〜何で? 家遠いんだっけ?どの辺?」
結構ぐいぐい聞きにくるタイプだ。明確な理由は無いけれど直感が、彼女にあまり深入りしない方が良さそうと教える。
「家は、えと、私、電車なので……近くはないです」
「そっか〜、一学期の中間なんて楽勝だけどいきなり行事に参加出来ないとかナシだしね。もし気が変わったらいつでも言ってね〜」
「はい、ありがとうございます」
あれ、思ったよりいい人? 親切? でもなぜかちょっとモヤっとする。
自分の気持ちに整合性がつかない気持ち悪さを抱え、瑠那に小さく手を振ると柚子は教室に戻る。
モヤモヤの正体がわかったのは、その後二時間分授業を受け、昼休みになってからだった。
「今朝プリント配られた、生徒会のイベント? とかって、欠点2個取ったら自習してなきゃいけないんだよね、だるいなぁ」
「さすがにまだ一年生の初めだからそんなに難しくないでしょ」
咲良と心美がそれぞれお弁当とパンを食べながら会話しているのを聞き、ようやく線がつながる。
そっか、自分は危ないかも、って思ってるのに『楽勝』なんて言われたのが引っかかってたんだ。原因が何かがはっきりしただけ、いくらか胸にあるものがマシになり、柚子はお弁当箱に収まっている唐揚げを出してぱくつく。
「あ、そうだ、イベントって言えば。あたしの友達が、文化祭とかの実行委員か企画委員かそんなのになって、一回顔合わせだけしたらしんだけど、二年にイケメンがいるんだって。あとで見に行かない?」
「私そういうの興味ないからパス」
パック牛乳をすすりながら心美はあっさりと辞退。
「えー、じゃあユズついてきてね」
「う、うんわかった」
指名されて柚子は頷く。わざわざ見に行くのもどうか、という気もするが、興味がないと言えば嘘になる。
ヨソからわざわざ女子が見学に来るなんて、まさに漫画あるある。
【羽尾高校生徒会】 中村未来 @NakamuraMirai
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