125.アルフ・ステインローズに本当に似ていたのは……

「申し訳ありません!!お父様!お母様!」


アリーの部屋に入って早々、アリーは2人に頭を下げた。いきなりの謝罪に困惑する2人。


「どうしたんだい!?アリー!何を謝っているんだい!?」


「そうよ。いきなり謝られても、何の話だかさっぱりだわ」


2人にそう言われても、アリーは頭を下げたままだった。そして、アリーはポツリポツリと謝罪をした理由を語り出した。


「私は……お姉様の事を……1人の女として愛しています……!私は……もう……この気持ちを抑えつける事が出来ないんです……!ステインローズ家の役に立てない娘で本当に……ごめんなさい……!!」


アリーの謝罪理由を聞いて2人は驚いていた。主に、えっ?今更恋心に自覚したの?というもので……しかし、2人はそう思う気持ちをグッと堪え


「顔を上げなさい。アリー」


アルフが顔を上げるように促すが、アリーは一向に頭を上げようとしない。アリーは実の姉に惚れ、優秀な跡取りを婿に出来ず、ステインローズ家の為にならない自分を悪だと思い込んでしまってる。と、アルフはそう感じた。


「……アリー。実はクレアは平民の出なんだよ」


「えっ!?」


この時アリーはようやく顔を上げた。貴族令嬢のお手本と言われている母が、まさか平民の出とは信じられなかったのだ。しかし……


「そう言えば……お母様のお父様やお母様には一度もお会いした事が……」


「私の両親は幼い頃に亡くなっているの。だから、私はステインローズ領にある小さな村の孤児院で育ったのよ」


「えっ!?」


更なる衝撃の真実に驚くアリー。平民の出どころか、まさかの孤児院で育ったとは……アリーは全く知らない話だった。


「たまたま視察で領の村を訪れた時、その見た目の美しさと、自分のご飯の量を削っても、小さな子達に分け与えている聖女のような内面を持つ彼女に、私は一目惚れしたのだよ」


当時の事を思い出して朗らかに笑うアルフ。同じように思い出したのか、クレアも微笑を浮かべていた。


「本当に、あの当時のあなたの猛アタックにはビックリしたわ。貴族の人に告白されただけでもビックリなのに、孤児院に多額の支援金を送ったり、自ら孤児院の子供達と関わって、子供達にいい印象を与えて外堀をどんどん埋めていくし」


「それだけ必死だったのさ」


「1番驚いたのは、今の獣王様のライアット様が私にいつもの軽いノリで告白してきて、あなたにボコボコにされた事ね」


「あれは私のクレアにちょっかいをかけた奴が悪い」


当時の事を嬉しそうに語る2人を見て、アリーはこれは惚気話かな?と思ったが、あえてそこは言わずにいると、アルフはキッとアリーを睨みつけた。


「それで……アリーよ。お前は姉への恋心を自覚しながら、それをなんとか覆い隠して、いい妹として生きていこうと考えてないか?」


アルフに言われ、アリーは言葉を詰まらせる。正直、図星だった。というより、それが一番だと思った。しかし、アルフは……


「まず、お前の父として言わせてもらう……お前も私と同じ血を持ってるなら!惚れた女を落としてみせろ!」


「ッ!?」


アルフの言葉に驚いて何も言えなくなるアリー。まさか、そんな事を言ってもらえるなんて思わなかったのだ。


「それから、アンナの父としても言わせてもらう……そんな中途半端な気持ちの者に!大事な娘をやれると思っているのかぁ!!!」


「ッ!!?」


アルフの最後の言葉に、アリーの全身がカァッと熱くなった。アルフは言ったのだ。本気で惚れたのなら、落としてみせろ。そうしなければ娘はやれないと。ならば、アリーが返す言葉は一つだった。


「……必ず……!お姉様を私の物にしてみせます!!」


アリーはアルフを真っ直ぐに見つめてそう言った。その瞳は決意に満ちていた。アルフはそれを見て、何も言わずに退室していった。そして、クレアもそんな夫に付き従うように退室していった。







「私に似ているのアンナだと思っていたんだがな……」


アリーの部屋を退室したアルフはふと呟くようにそう言った。


アンナがマダム・Aなのはアルフも知っていたので、その時の手腕や才覚も自分譲りだと思ったし、瞳の色や、悪役のように笑う顔なども自分に似てるところがあったので、アルフはずっとアンナは自分に似ていると思っていた。

しかし、自分の根本的な性格。想ったら一直線の性格はアリーが受け継いでいたのだ。


「これからアリーは大変でしょうね〜。アンナは鈍感そうだし」


「そこは君譲りかもしれないね」


「あら、私の場合は違うわよ。あなたの好意が信じられなかっただけよ。なにせ、リアンナが高い魔力数値を出したから、あの孤児院には金の成る木がいるんじゃないかって、寄って来る貴族達が後を絶たなかったのだもの」


「そのせいで本当に苦労させられたよ……」


アルフは当時を思い出して溜息をついた。


実は、現ウィンドガル王国王妃のリアンナ王妃は元々はクレアと同じ孤児院の出身だった。しかし、リアンナが高い魔力数値を持っている事が発覚し、我こそは彼女を養女にという貴族が後を絶たなかった。

たまたま、当時は現役バリバリの当主であるダイン・アスカルド侯爵が養女権を獲得したのだが、まだ他にも魔力数値の高い子がいるのでは?と、貴族達のそんな視線に晒されて、子供達が完全に怯えてしまい、クレアは貴族から子供達を守るのに必死になっていた。


「今となってはいい思い出よ。私はちゃんと素敵な旦那様をみつけたし、あの子達も、あなたのおかげで立派に育っていったしね」


あの孤児院のクレアより年下の子達は皆、王国の騎士になったり、文官になったりしている。そこにはリアンナの働きもあるが、彼らがアルフの働きにより優秀な才覚を目覚めさせた結果でもある。


「これからアリー達がどういう結果を出すかはまだ分からないが、親としてちゃんと見届けよう」


「えぇ、そうね。あなた」


願わくば、2人が結ばれるのを願いながら、2人は夫婦寄り添いステインローズ家の屋敷へと帰って行った。

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