閑話.ヴィオラルド=メイル=ヴィンドガル第2王女

「はぁ〜……疲れたぁ〜……やっぱり王女は色々神経使うわねぇ〜……」


ヴィオラルド=メイル=ヴィンドガル第2王女はソファにどかっと座り込みながらそう言う。それを見た第2王女専属メイドのナタリアがジト目で睨む。


「ヴィオラルド様。はしたないですよ」


「大丈夫よぉ〜。私とナタリアしかいないんだしさ」


「そういう油断が正体を見抜かれた事に繋がってるんじゃないかしら?」


突如かけられた声にヴィオラルド王女は振り向き顔をしかめる。


「お母様に……お父様まで……」


ヴィオラルド王女の部屋に入って来たのは、アスラン陛下とリアンナ王妃だった。2人はヴィオラルド王女を見て軽く溜息をつくと、ヴィオラルドの向かいにあるソファに座った。


「あれ程油断はするなと言っておいたのに、お前がヴィオルである事がバレかけてるんじゃないのか?」


アスラン陛下の早速のお小言にヴィオラルド王女は思わず顔を歪める。

そう。ヴィオル・アスカルド侯爵。その本当の姿は、アスラン陛下の次女であり、ウィンドガル王国第2王女のヴィオラルドその人なのである。


「お言葉ですがお父様、アレは本当にアンナちゃんが優秀なだけですわ。ヴィオル・アスカルドでいる時は常に認識阻害の魔法をかけまくってますし、髪の毛も魔法で紫色に染めてますから」


ヴィオラルド第2王女はちょっとムクれながらそう答えた。だが、実際にヴィオラルドはヴィオル・アスカルドでいる時は万全の対策をしている。アンナの魔法を見抜く眼が異常なだけだ。


「けどどうかしらね〜……貴方って割とすぐに短気を起こして油断する事があるから……ほら、あのクラーケンの件とか……」


「ちょっ!?まだその話を持ち出すんですか!?もう散々お叱りもお小言も受けたからいいでしょ!!?だいたい!あの程度の被害なら、弟達が悪口言われたからって、小国を1人で半壊したアリアお姉様よりマシでしょ!!?」


またクラーケンの一件でお小言をもらう訳にいかないと、ヴィオラルドは言葉を返したが、アリアという名前を出した途端に2人は遠い目をした。


「今はアリアの名前は出さないでくれ……出来る限りその問題からは忘れたいんだ……」


アスラン陛下は遠い目をしたままそう呟くように言った。思わずいらん事を言っちゃったと思うヴィオラルドだが


「ですが、お父様。あのブラ……アリアお姉様の件はどうにかしないといけませんよ。ステインローズ伯爵令嬢の2人を王室に迎え入れたいなら尚のこと……」


「分かっているさ……」


アスラン陛下は額に手を当てて深い溜息をつく。これはそろそろ話題を変えるべきかなと思っていたところで、リアンナ王妃が話しかけてきた。


「ところで、ヴィオラルド。何故貴方は今回ヴィオラルド第2王女で参加を決めたの?またいつも通りヴィオル・アスカルド侯爵令嬢として参加すると思っていたのだけれど……」


本当にナイスタイミングなリアンナ王妃の話題変更に、ヴィオラルドはニッコリと笑って答える。


「そうですね〜……あの2人に王女の姿を見せるのも面白いかなと思ったんですけど……もう一つはこっちですかね」


ヴィオラルドはある手紙を取り出して、それを父であるアスラン陛下に渡す。それを受け取ったアスラン陛下は早速手紙を読み、その眉間に深いシワが刻まれた。


「……ここに書かれてる内容は事実か?」


「お祖父様が調べ上げた情報ですから間違いないかと」


「ダインが調べたのなら間違いないか……」


アスラン陛下は深い溜息をつく。その手紙にはこう書かれていた。



『グランズール帝国は、代表としてバルカス第2皇子が来るそうだから、せいぜいステインローズ伯爵の娘2人が目をつけられんよう気をつけるんじゃな』



「……お父様……まだ王家でも把握してない他国からの来賓をどうやって……」


「まぁ、お祖父様ですから♡」


ヴィオラルドの言葉にアスラン陛下とリアンナ王妃は揃って溜息をつく。

ダイン・アスカルドは、その昔、宮廷魔術師長だったり、軍の参謀役だったり、魔法騎士団の団長だったり、挙句は現在は魔法省の管理・統括をしていたりと、とにかくやたら色んな部署で、それだけの地位を得ていたりする為、それぐらいの情報収集は朝飯前なのである。


「しかし……グランズール帝国の皇帝陛下は何を考えているんだ……あのバカ……バルカス第2皇子が問題児であるのは重々承知してると思っていたんだが……」


アスラン陛下は深い溜息をつきながらそう言った。

グランズール帝国のバルカス第2皇子は、とにかく酷い女好きで有名で、誰彼構わず声をかける事で有名なのである。若干国際問題にもなりかけたが、グランズール帝国がかなりの大国である事もあり、あまり問題にはならなかったが、厄介者で有名な人物としてすでに広まっている。


「その事なんですが……どうやら皇帝陛下が熱を出して倒れたとか……」


「はぁ!?あの身体が取り柄の人がか!!?」


ヴィオラルドの言葉にアスラン陛下は驚いて声をあげる。


「信じられないかもですが事実です。それで、皇太子様は混乱する皇室をどうにかするのに忙しくて出席出来ないらしく、代わりにバルカス第2皇子が出席する事になったと……」


「はぁ……そういう事情だったのね……むしろそれなら誰も出席してもらわない方が良かったのだけれど……」


「言うな。リアンナ。リアンナの気持ちも、国としてメンツの為に誰でもいいから出席させたいグランズール帝国の気持ちも分かるからな……」


アスラン陛下は深々と溜息をついてそう言った。アスラン陛下としては本当に胃が痛い話である。


「だから、私がヴィオラルドとして参加する事に決めたんですよ。バルカス皇子の目が私に向いてくれるなら、私ならいくらでもやりようはありますしね♡」


ヴィオラルドはウィンク付きの笑顔でそう言った。


「そりゃあ……バルカス皇子が貴方を目がいってくれるならいいんですが……」


「もし……バルカス皇子がステインローズ伯爵令嬢の内どっちかに目をつけてしまったら……」


そんな嫌な想像が2人に駆け巡った瞬間、2人の顔は真っ青になる。


「嫌よ!?アナタ!?私!クレアお姉ちゃんに叱られるのだけは!!?」


リアンナは王妃は最悪の想像が駆け巡った瞬間、クレア・ステインローズを昔呼んでいた呼び名で言ってしまうが、とりあえずこの場でその呼び名を言及する者はいない。


「私もだ……アルフを絶対に敵にしたくない……!」


アスラン陛下はかつて同級生だったアルフの恐怖を思い出し身震いする。


そんな風に、2人して悪い想像を駆け巡らせてるのを見たヴィオラルドは、だったらあの2人を婚約者として迎え入れなきゃ良かったのにと思い軽く溜息をついた。


と、同時にヴィオラルドも2人と同じ嫌な想像通りの事が起こりそうな予感がするので、しっかりと対策を練ろうと改めて思うのだった。

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