閑話.懐かしき日々

マダム・Aとブドウ子爵とのやりとりを、アンナに察知される事なく気配を消して眺めていた者がいた。


「まさか、あの方が作り上げた「魔法闘技マジックアーツ」と、私が鍛えたダンス技術を組み合わせるとは……本当にアンナ様は面白い事をなさる」


それは、ステインローズ家の執事長セバスだった。セバスは愉快そうに笑いながらも、ふと、アンナがかつて自分が仕えていた主人と重なり、懐かしそうに目を細めた。




それは、遠い昔の話。自分が仕えるべき主が亡くなり、セバスはこの国を去ろうとしていた時、唯一の親友と呼べるべき存在マクバーンに呼び止められた。


「待て。セバス。俺と勝負をしないか?」


いきなり勝負を持ちかけられ、セバスは首を傾げるが、マクバーンは構わず話を続ける。


「俺が勝ったら……お前は俺の妹が嫁いだ家に仕えて、永遠にその家が繁栄するように守ってくれ」


「……それはお前でも出来るだろう?」


セバスはマクバーンならば普通の人間よりもかなり永い時を生きられるだろうと確信している。が、マクバーンは首を横に振った。


「だが、永遠にという訳にはいかない。俺は所詮人間だ。普通の人間よりは永く生きられても、いずれ寿命はくる。けど、お前は違うだろ?」


マクバーンはニヤリと笑ってそう言った。セバスの事をよく知るマクバーンは、セバスなら永遠に自分の妹が嫁いだ家を守っていけると確信していた。


「……で、私が勝った場合は何を得られるというんだ?」


何を言っても無駄だと悟ったセバスは、マクバーンにそう尋ねた。そして、マクバーンはその問いかけを待ってましたと言わんばかりに口の端を上げた。


「それはもちろん「魔法闘技マジックアーツ」だよ」


マクバーンの言葉にセバスの眉がピクリと上がる。それは、自分も得たいと思ったが、教えてもらえず、結局自分の主と同じく妹を大切にしている者に託された技。それ故に、マクバーンとは何度もぶつかり合い、そのぶつかり合いの末に親友になったのだ。まぁ、セバスもマクバーンもそのせいで、セバスのかつての主人にもの凄く怒られてしまったのだが……


「……いいだろう。ここをさる手土産に、今日こそお前に勝って、「魔法闘技マジックアーツ」もいただくとしよう……!」


そう言ってセバスは構えをとってマクバーンに向かっていった。


こうして、三日三晩セバスとマクバーンは激しい激突を続け、勝利したのはマクバーンだった。故に、セバスは親友との約束を未だに守り、ステインローズ家を守り続けている……



「マクバーン……もう少し長生きすべきだったな。お前の最愛の妹の縁ある者は、とても面白い娘に育ってるよ……」


セバスは空を眺めてそう言った。

その空には、親友のマクバーンと、かつての自分の主人でウィンドガル初代国王のアイリーンが映ってるようにセバスは感じたのだった。

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