閑話:知らず知らずに自分の首を絞めてる事はよくある話

これは、アンナとアリーが姉妹仲良くお出かけする話から1年ほど前の話。


「リーガル商会」の主人であるリーガル=ランバルトは、最近紳士達の間で流行してるコーヒーを啜りながら、新たな商売への道を頭に巡らせていた。


「あなた!ただいま!」


すると、最愛の妻であるアマリス=ランバルトが帰ってきた。リーガルは最愛の妻を笑顔で出迎えた。


「やぁ、アマリス。お帰り。今日の婦人会は楽しかったかい?」


今日アマリスは、王都で時々開催される、王都民の婦人達が集まるお茶会的な催しに出席していた。


「えぇ、あなた。バッチリと宣伝もしてきたわよ!」


「ふっ、流石は私の妻だ。抜かりないな」


アマリスが親指をグッとたててそう言ったのを見てリーガルは微笑を浮かべた。この婦人会にはごく稀に貴族のご婦人方も参加されるので、ノイエル町が作り出す商品をPRするのにはうってつけなのである。


「それで、何か面白い話題はなかったかい?」


リーガルは何気ない世間話のように聞いたが、リーガルの目は一商人の目になっていた。婦人会で話題にあがる事が、時に大きなビジネスチャンスになるとリーガルは心得ていた。そして、アマリス自身もそれは承知している。


「そうね〜……特に変わった話題はなかったけれど……あっ、そういえば……「おばけ屋敷」が王都にも作られたらいいのになぁ〜って言ってるご婦人方が何人かいたわね〜……」


「おばけ屋敷……?」


「あなたは「トキメキ学園物語」は知ってるかしら?」


そのタイトルだけならリーガルは知っていた。それは、マダムAことアンナが、前世の少女漫画を小説として書き起こした物である。


「タイトルは知ってるのだが、あいにく内容までは把握してなくてね……すまない……」


「気にする事ないわ。基本は読者は女性が多いのだし……それで、その本に「おばけ屋敷」という娯楽施設が出てくるのよ」


アマリスの説明曰く、最近発売された「トキメキ学園物語」の最新巻で、ヒロインの女の子が、おばけ屋敷に怯えるも、ヒーロー役の男の子が


「大丈夫さ。俺がいるだろう」


と、甘いセリフを言ってヒロインを支えてくれるのに、ご婦人方はキュンキュンしていた。

アンナも、本当は「おばけ屋敷」という単語は書きたくなかったが、そのシーンの怯えているヒロインが可愛かったので、採用したのである。


「それで、私もこの主人公みたいに好きな殿方に縋り付いて甘えてみたいってご婦人方が話してたわね〜……」


つまりは、自分もヒロインと同じ気分を味わってみたいという願望をもつご婦人方がいるようだ。それが、現実的に難しいのも分かっているだろうが、いくつになってもご婦人方は夢を見たい生き物のようだ。


しかし、リーガルはふと考える……「おばけ屋敷」……今それだけ話題なら、今作れば流行るのではないのだろうか?と……いや、しかしアンナ様はそれについては何も言わなかったし、もしかしたらそこまで儲けが出る話ではないのではないのだろうか……

まぁ、実際はアンナが単に「おばけ屋敷」など作りたくなかっただけの話だが……


リーガルは散々考えを頭に巡らせた結果、自分の直感を信じる事にした。


「今から人を呼んで「おばけ屋敷」を作ろうと思う」


「まぁ!でも、アンナ様は何も仰られなかったけれど……」


「あぁ、だからこのノイエル町ではなく、王都で試作してみようと思う」


「そうね。アンナ様の指示がない以上それが一番ね」


アマリスの言葉にリーガルは軽く頷くと、人を集めて王都に「おばけ屋敷」の設立にとりかかった。


こうして、アンナは自分で自分の首を絞めてるとは知らずに「おばけ屋敷」は王都に完成したのである。

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