36.姉妹仲良く服選びってのが、姉妹仲良く出かけるイメージがする

私達が最初に向かった場所。それは……


「服屋……ですか……?」


それは、最近王都で話題の服屋「シーカーブランド」だった。


「ここがお姉様の行きたかった場所ですか?」


そう。ここを指定したのは私である。

そもそも、昨日どこへ行くか散々悩んだ私達に……


「だったら、お互いに行きたい場所を一つ指定して、そこへ行かれたらいいんじゃないですか?」


というキョウカの素晴らしいアドバイスにより、私達はそれぞれ行きたい場所を一つ選択し、そこへ向かう事にしたのだ。もちろん、どこを指名したかは相手には内緒である。


「お姉様って服にそんな関心ありましたか?」


「あっ……いや……その……姉妹仲良くお出かけって言ったら、お互いの服を選びあうみたいなのが浮かんでさぁ〜……」


正直勝手なイメージであるが、前世で、妹がいた友達が妹と服選びあいっこしていたって言うし、多分……間違ってないはずだ……


「まぁ!それじゃあ私がお姉様にあう服をお選びしてもよろしいんですね!」


何やら妹が俄然乗り気になった。まぁ、私も妹に似合う服を選ぶのは楽しみなのでお互い様だろう。私達は仲良く「シーカーブランド」に入店した。





「オホホホ!流石は「シーカーブランド」さんだわ!いい買い物をしたわ!また寄らせていただくわね!」


「はい。またのご来店をお待ちしております」


上機嫌に去って行く子爵夫人に、「シーカーブランド」のオーナーは恭しく頭を下げてそう言った。


「ふん。もう二度と来るなっての!」


その子爵夫人が去った後、不機嫌を顔に出しまくりの女性店員が、鼻息を荒くしてそう言った。


「やめないか!?リンチェル!聞こえてたらどうするんだ!?」


オーナーは女性店員のリンチェルに慌てて注意する。すぐに、入り口付近を確認するが、どうやら子爵夫人は馬車に乗って去って行ったのか、もう姿は見えなくてホッと安堵の溜息をもらす。


「だって!あの子爵夫人のせいで!私の可愛い我が子が酷い有り様になったのよ!?許せる!!?」


リンチェルは怒りをあらわにしてそう訴える。

この言葉だけだと、リンチェルの子供が子爵夫人に酷い目にあわされたように聞こえるが全く違う。


彼女はリンチェル・シーカー。この「シーカー・ブランド」の専属デザイナーなのである。この店にある服は全てリンチェルが手がけたもので、リンチェルにとって自分が作った作品は我が子同然なのだ。


「だから!私は彼女のサイズに合う同じデザインの服をすすめたのに!あいつ!『これだと花が大きくなりすぎて可愛くありませんわ』って言って!一回り小さいサイズの服を試着して、私の可愛い我が子がミシミシ音をたてた時は……あぁ!!?」


その時の事を思い出したのか、リンチェルは頭を抱えて蹲った。オーナーはやれやれと言わんばかりに溜息をついた。


「毎回言ってるが、だったら接客業をやらなければいいだろう。そうしたら、お前の愛する我が子が傷つく姿を見ずに済むだろうに……」


これは毎回オーナーがリンチェルに忠告してる事だ。客はさっきのような子爵夫人ばかりなので、毎回リンチェルは可愛い我が子が傷つく姿を目撃するハメになるから、大人しくデザイン部屋でデザインだけしてくれれば、オーナーの心的にも平和になる。


しかし、リンチェルにはもう一つ目的があって、この店の店員として接客をしていた。それは……


「ダメよ!!私の可愛い我が子を着せまくりたいお客さんが来るかもしれないでしょ!!!」


リンチェルは、自分が作った我が子を着せまくりたいお客が現れるの待っているのだ。それこそが、リンチェルが無理してでも接客をしている理由である。

が、現実問題、リンチェルの作品愛が強いせいもあって、なかなかリンチェルのお眼鏡に叶う客は来ない。オーナーは思わず重たい溜息をついた。


カランカラン!


「いらっしゃいませ」


オーナーはさっきまでの表情をガラリと変え、店のオーナーとしての顔になり、入店してきたお客に挨拶をする。

入店してきたお客は、王都民の姉妹に見えるが、オーナーはこの姉妹がお忍びできた貴族の令嬢であると見抜いた。そういったお客も稀にやって来るからである。


だとしたら、下手に声をかけず、用がある時だけ素早く対応しようと、長年の接客経験からその答えを弾きだしたが、隣にいたリンチェルを見てオーナーはギョッとなった。


リンチェルが、2人の姉妹を凝視していたのだ。

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