22.娘バカの夫婦は娘達にきた縁談を突っ返したい

アルフ=ステインローズは自分宛の手紙を読んで溜息をついていた。正直、クシャクシャに丸めて捨ててやりたい気分だが、差出人が差出人だけにそれが出来ないのが腹立たしい。


「あなた。どうしたの?」


これまで長年連れ添ってきた妻であるクレアが、アルフの様子を敏感に察してそう声をかけてきた。


「いや、なに……予想通りアスラン陛下から王子達とうちの娘達と婚約させたいと打診があっただけさ」


「あら?そうなの。そんなの突っ返してあげればいいんじゃないかしら?」


クレアは微笑みを浮かべてそう言った。ここに従者がいたら卒倒しているか、慌てて止めに入るだろう。が、幸いにもこの場には2人しかいない。


「まぁ、そうしたいのはやまやまだが……流石に相手が相手だからな……他の貴族連中のようにはいかんさ……」


これまで、アリーへの縁談の話はたくさんあった。中には公爵家からのものもあったが、それら全てアルフは断ってきたが、流石に王族だとアルフでも慎重に対応する必要があるのだ。


「あら?あなたならアスラン陛下にお断りを入れるのなんて簡単でしょ。なんなら私がリアンヌに言って差し上げましょうか?」


クレアはこともなげにそんな事を言う。が、実際にステインローズ伯爵夫婦は現国王夫妻と親しい間柄にある。だから、その程度進言するぐらい簡単だったりする。


「それに……アスラン陛下が婚約を打診してきたのは、うちの娘達をどうにかこの国に留めて、出来れば王城にいてもらいたいっていう魂胆でしょ?」


「だろうね。その証拠として、アリーにはカイン王子と。アンナにはヴァン王子と婚約関係を結びたいと言ってきてるよ」


アルフは再び深い溜息をついてそう言った。そう。今回の縁談はアリーだけでなく、アンナにもきている。そしてそれは、アリーだけしか縁談を持ち込むと、アンナを蔑ろにしてると攻められるのを恐れてではない。


「やっぱり、アスラン陛下にはお見通しという訳だ……アンナの能力の事は……」


アルフはまたも溜息をついてそう言った。この会話からも察せられるように、ステインローズ伯爵夫婦は、自分の娘であるアンナの実力も、更に言えばマダムAがアンナであるのも知っていた。唯一知らないと言えば、龍の巣にいる龍達のボスになったぐらいである。


「まぁ、アスラン陛下にはあの魔法があるから、アンナの事については時間の問題だとは思っていたけれどね……」


「そうね〜……それで、あなたはこのお話をどうするのかしら?」


「まずは、娘達に確認してみようと思う。それで、2人が断ったのなら、どんな手を使ってでもこの縁談は断ってみせるさ」


アルフはニッと笑ってそう言った。その笑みはアンナが敵を前にして笑う姿と重なっていた。


「ただ、娘達はこの話を受けそうな気がするんだよね〜……」


「あら?それは何故かしら?アンナはまだ自分の気持ちがそこ至ってないけど、アリーはもう間違いないでしょ」


ステインローズ伯爵夫婦はアンナの実力だけでなく、娘達の心内まですでに見抜き、それを受け入れていた。というか、変な虫に大事な娘をとられてしまうよりも、そっちにいってくれた方がいいとすら思ってる。超とんでもな親バカなのである。


「アンナの心内は読めない部分もあるけど、ヴァン王子との婚約関係は使えると思ってそうなんだよね〜。ヴァン王子はあからさまにアリーに夢中になってて、カイン王子もアリーに夢中でとなると、アンナを利用してアリーを攻撃しようとする令嬢が勝手によって来てくれるから、アリーを害する者を始末しやすいだろうと思ってそうだし……」


アルフは読めないと言いながらアンナの心内をしっかり読んでいた。実際、アンナはそんな理由で婚約を受け入れた。


「それから、アリーの方はまだ姉を落としてない上に、姉が自分の為にヴァン王子と婚約するとするなら、自分もこれ以上自分に近寄ってくる男避けにカイン王子を利用しそうなんだよね〜……」


これまたアルフは正確にアリーの心を読みとっていた。アリーもまたアルフが言った通りな理由で婚約を受け入れた。


「なるほどね。けれど、もし、あの娘達がそういう関係に至った場合は……」


「もちろん。その場合は色んな手を尽くして婚約関係は破棄させてもらうさ」


「あら、流石はあなた。頼もしいわ。その時は私も協力いたしますわ。リアンヌ王妃に関してはお任せを」


「あぁ、そっちも頼りにしているよ」


アルフとクレアは微笑みながらそう言った。が、その微笑みには黒いオーラが立ち昇っていた。


その時、アスラン陛下とリアンヌ王妃が同時にクシャミし、背筋に寒気が走ったのは言うまでもないだろう……

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