16.公爵令嬢のメイドは厄介な相手ですがシスコンの姉の敵ではありません
今、アンナにはキョウカが突然消えたように見えただろう。もちろん消えた訳ではない。キョウカは闇属性の魔力持ちで、これも、闇属性の魔法の一つ「影移動」である。
その能力はまさに名が示す通り、影に潜んで移動する魔法である。だから、キョウカは影さえあれば、どこでも潜めるし、移動も可能なのだ。
そもそも、キョウカはウィンドガル王国とは違う別の国の隠れ里出身だった。そこで、キョウカは幼い頃より隠密系の活動に、暗殺技術を叩きこまれた。更に、キョウカに魔力があると分かると、魔法を使った隠密・暗殺技術も叩きこまれた。
人の心を操れたり、影を移動出来たりする闇属性の魔法は、キョウカが教わっている隠密・暗殺技術にピッタリと合致していた為、キョウカは里1番の強者になっていった。
ある日、キョウカの養父であり、この里の長である頭領が……
「いつか、お前の腕に見合う主が現れる事を願うよ」
と言っていたが、キョウカはそんな人はいないだろうと思っていた。キョウカの腕は目の前の頭領よりも強いのだ。だから、キョウカの腕に見合う主なんている訳ないとキョウカは思っていた。
が、キョウカは里にはいなくても、他の国にならいるかもしれないと、その腕や、更に自分の容姿も駆使しながら、色んな人に傭兵のような感じで買われ、現在エリザベス公爵令嬢に買われているが、エリザベス公爵令嬢でもキョウカの主には足り得なかった。
だからだろうか。初めて一目見た瞬間に、キョウカはアンナに何か惹かれるものを感じた。本来なら、アンナの呼びかけなんか無視して、エリザベス公爵令嬢に事の詳細を報告するのが正しいやり方だ。
けれど、キョウカはそれをせず、むしろアンナを試してみたいと思い、今、こうして本気で手合わせしている。
で、肝心のアンナは自分が影に潜んで消えたように見えてるはずなのに、全く動じずに仁王立ちしていた。それを不審に思ったが、キョウカはすぐに攻勢に出ることにした。
影移動でアンナの影まで移動し、そこから飛び出して、アンナの首筋に手刀を叩き込もうとした。どんな屈強な男も、キョウカの強烈な手刀を喰らえば一撃で気絶する。だから、アンナも簡単に気絶させられるという自負があった。その後は、闇の魔法でアンナの今起きた出来事を消去して仕事完了。
自分の感じたものはやはりなんでもない物だったのかと、若干残念に思いながらも、キョウカは一寸の狂いもなく、アンナの首筋に手刀を下ろした。
が……
ガシッ!!!
キョウカの手刀がアンナの首筋まで後数センチというところで、アンナの手がキョウカの腕をがっしりと掴んでそれを阻止した。
「なっ!!?嘘でしょ!!?」
「なかなか厄介な魔法を持ってるみたいだけど残念ね。魔力感知眼を会得してる私には、あなたのそれが魔法である限りバレバレなのよ!」
アンナはそう言って、キョウカを片腕一本でキョウカが先程いた場所まで放り投げた。
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