5.妹の為にも稼ぎます!

私は「編集部」というプレートが書かれた部屋をノックした後、扉を開けて入室した。


「あぁ!アンナ様!お待ちし……いひゃい!?いひゃい!?いひなりなにひゅるんですか!!?」


私に嬉しそうに駆け寄ってきた眼鏡をかけた女性に、私はその女性の両頬をつねった。


「何回も言ってるでしょ。エリナ。ここでは私の事は先生と呼ぶかマダムAと呼びなさいって」


私はエリナ両頬をしばらくぎゅーとつねってやって、流石に涙目が酷くなってきた時に解放した。


「うぅ……別にいいじゃないですか……ア……先生が来る事は分かってましたから、人払いはちゃんとしてありますし、って言うか、この町の住民ならマダムAの正体を知らない人なんていませんよ〜」


「それでもよ。なんとなく気分というやつよ」


私がそう答えたら、「はぁ……」とこれまた納得してない様子でエリナは返事した。

おっと、エリナとこんな所で戯れてる暇はないわね。私はエリナにある物をエリナの近くにある机に放り投げると、エリナの眼鏡がキランと光った。


「おっ!これは!マダムA先生の新作ですね!早速拝見させていただきます!」


エリナはそう言って私が放り投げた物をじっくりと眺め始めた。こうなったエリナはしばらく時間がかかるのを知ってるので、私は勝手知ったるといった感じで、紅茶を自分で淹れて飲み始めた。


もうお気づきかもしれないが、私は「マダムA」という名前で執筆活動を行なっている。さっき放り投げたのは私が書いた原稿だ。


「マダムA」それは、このノイエル町にとって象徴となる名前。2年前、「ゴミ溜め」と呼ばれたスラム街を、王都の商業区にも負けない商業の町へと変貌させた存在。それが、「マダムA」である。で、その「マダムA」というのが実は私だったりする。


「……はぁ〜!マダムA先生!今日も流石に素敵な新作ですぅ〜!」


「ありがとう」


エリナのお褒めの言葉を素直に受け取る私。


「で、どうかしら?」


「いくつか手直しさせていただきますが、内容は今回もバッチリです!また売れる事間違いなしですよ!」


このマダムブックスでは、「マダムA」こと私が執筆した本を製作して販売している。そして、ありがたい事に「マダムA」の作品は、平民・貴族問わず大人気で、「マダムA」の作品欲しさにマダムブックスにやってくるお客さんが殺到しているらしい。


エリナはそんなマダムブックスで、私の原稿の編集と製本を担当してくれている。私の頼もしき相方である。


「それと、こちらは前回の先生の本の売り上げの一部になります」


エリナはそう言って私の前にたくさんの金貨を置いた。私はそれをありがたく受け取る。


私が執筆活動を行う理由。それはお金を稼ぐ為だ。もちろん自分用ではない。将来投獄の未来が待ってる私に、お金なんて必要な訳がない。全ては妹の為のお金だ。

妹にはこれからイケメンで財に地位に名誉もある攻略対象がやってくるが、万が一という事がある。お金があれば万が一のことがあっても妹を守る力になってくれる。だから、私は自分が稼いだお金を、お父様が私達用に作った金庫があり、妹用の所に私が稼いだお金を入れているのだ。

まぁ、私がこれだけ金貨を持ってくる姿を従者達に目撃されてしまってる為、悪い奴らとつるんで色々やってるという噂になってしまったのだが……


「それにしても……先生はよくこれだけの話を思いつけますよね!私、尊敬しちゃいますよ!」


「ま……まぁね……ふっとわいてくるのよ……ふっと……」


私はエリナから視線を外して曖昧な返事を返した。


い……言えない……これまで執筆した作品の全部が、前世の私がハマっていた乙女ゲームや漫画の内容をそのままパクったなんて……

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