第12話ミヅキの休日後編

「マックさん! マックさんはロッテさんのことどう思ってるの!」


 ミヅキはお店の準備をしていたマックさんの前に立つと仁王立ちで聞く!


「と、突然どうしたんだ? ロッテ? どうって幼なじみだよ……」


「ただの幼なじみなの? ロッテさんがあのやなおじさんと結婚しちゃってもいいの?」


「それは……」


 マックさんが納得行かない顔をしながら……


「そう決まっているんだ……しょうがない……」


「全然しょうがないって顔してないじゃん!」


 ミヅキはマックさんの顔を掴むと上向かせる!


「マックさんもロッテさんも全然楽しそうな顔してない! そんな結婚なんて誰も幸せになんてなれないよ!」


「そうだよ! ロッテさんの顔をよく見た? 全然嬉しそうじゃなかった! これから結婚する人があんな顔すると思うの?」


 ロッテの顔?


マックはロッテから婚約の話を聞いてからまともにロッテの顔を見ていなかった……いや……見れなかったのだ……


「ロッテはどんな顔をしてたんだ……?」


 マックさんは恐る恐る聞くと


「悲しそうな……寂しそうな……マックさんに助けて欲しそうな顔をしてたよ……」


「ロッテ……」


 望んだ婚約じゃなかったのか?


「マックさん! とりあえず屋台を盛り上げるよ! 串カツ屋の客を全部奪ってやる!」


 そうしなくても……あの店ならすぐ潰れると思うけど……


「マックさん! 小麦粉に砂糖と卵と牛乳を入れてよく混ぜて!」


「はい!」


 マックさんは鍋に入れてよく混ぜると……


「ソーセージ串をこの液に入れて油で揚げるよ!」


「えっ? これを?」


 ミヅキは戸惑うマックさんに構わず液にソーセージを絡ませるとどんどん油に入れていく。


「周りの衣がきつね色になるまで揚げてね」


「なんか……甘いいい匂いだな……」


 私はこれが大好きだった……!


 油を切って少し冷ますと二人で味見する……コハクにも切って冷まして置いてやるとはふはふと食べだした。


 マックさんもバクっとかぶりつく!


「美味しい! 周りの生地はほんのり甘くて……ソーセージがしょっぱくてそれが合わさってなんとも言えない美味さだ! こんなの初めて食べるよ!」


「アメリカンドッグならぬ……王都ドッグかな!?」


 ミヅキもかぶりつきながら納得の味に大満足だ!


「王都ドッグ……!いける!」


「よし! マックさんどんどん揚げよう! 私は試食を切って配ってくるよ!」


「試食?」


「味を分かってもらえばきっと買ってくれるよ!」


 ミヅキは王都ドッグを一口サイズに切ると木で爪楊枝もどきを作って刺すと……店の前に出た!


「いらっしゃいませ~! 新名物の王都ドッグでーす! よかった試食をしてみて下さい!」


 道行く人に差し出すと


「タダで食べていいのか?」


歩いていたおじさんが聞いてくる。


「もちろん! ただ気に入ったら買ってくださいね! こちらの屋台で売ってます!」


 おじさんは一つ手に取ると口に放り込む。


「なんだ? パン? ソーセージ? 甘い?」


 色んな味に驚いている。


「どうですか?」


「凄い美味い! 一本貰おう! いくらだ?」


「銅貨五枚です!」


「おじょうちゃん私も試食いいかしら!」


「もちろん!」


 ミヅキはおばさんに試食を差し出した!


 その後も試食をする人が尽くお買い上げをしてくれてあっという間に人だかりが出来る……。


 ミヅキは試食をコハクに持たせると、お盆を頭に乗せて器用に尻尾で抑えてくれている。


「試食は一人1回ですよ! おじさん一人で何本も買わないで!」


「すみませんが、一人五本まででお願いします!」


 ミヅキは会計で大忙し……マックさんもひたすらに王都ドッグを揚げていると……


「マック?」


 ロッテさんがやっぱり気になったようでお店に戻ってきた。


「ロッテさん! いい所に! お願いします手伝って~!」


 状況のよく分かっていないロッテさんを引っ張ると


「私は会計をするのでお客さんに揚がった王都ドッグを渡して下さい!」


「は、はい!」


 ロッテさんは腕をまくるとマックから揚がった王都ドッグを渡される。


「お待たせしました! 三本でお待ちの方~」


「おう! 俺だ!」


「次は二本でお待ちのおかあさんどうぞー!」


「ありがとう!」


「やばい! おじょうちゃんもう材料が無くなる!」


 マックさんの言葉にお客さんが慌てる!


「おい! 兄ちゃん頑張って作ってくれ! 食べたいんだ!」


「お兄さん私もまだ貰ってないわ~」


「ちょ、ちょっと待って下さい! ど、どうしよう!」


 アワアワと慌てていると……


「落ち着いて下さい! 午後にはまた用意しておきますので! その頃にまた来てください! 今いる方は申し訳ないので必ず先にお渡ししますので!」


 ロッテさんが声をかける。


「まぁ……それなら……しょうがない、絶対に頼むぞ!」


「あっ! じゃこのチップを持ってて! これを持ってる人は優先的に先にお渡しします!」


 ミヅキはリバーシの石を取り出してロッテさんに渡す。


 お客さんは念を押すとやっと帰って行った……。


 お店を閉じて落ち着くと……


「一体どういう事? 何があったの!?」


 ロッテさんがマックさんに詰めよる。


「いや……このおじょうちゃんが料理を教えてくれて……ロッテも食べてみろよ」


 マックさんは一つ大事に取っておいた王都ドッグをロッテに渡す。


ロッテさんが小さい口でパクッと食べると……


「美味しいわ! みんながあんなになるのも納得ね!」


「ロッテ……これならきっと稼げる……そしたら俺の嫁さんになって欲しい……」


 マックさんが王都ドッグを握る手を上から包み込む……


「マック……」


「俺……ロッテがずっと好きだった……モスさんと婚約するって聞いて諦めようと思ったけど……一緒に働いて改めて思った! ロッテずっと俺と一緒に王都ドッグを売って欲しい!」


 ロッテを見つめると……

驚いた顔がどんどんと崩れて泣き顔になっていく……


「ロッテ……返事は?」


 マックは、ロッテを抱き寄せて顔を上向かせる……


「嬉しい……ずっと……マックがそう言ってくれるのを……待ってた……」


 ロッテはマックに抱きついた……


「おじょうちゃん……ありがとう……やっと自分の気持ちを伝えられ……た……?」


 マックさんがおじょうちゃんに声をかけると……そこには誰もいなくなっていた……


「えっ? あの子はどこ?」


 ロッテさんもキョロキョロと周りを見るが……おじょうちゃんも一緒にいた狐も姿が無くなっていた……。


 二人は狐につままれたような気持ちでしばらく呆然としていた……。



 その頃ミヅキは……


【急に手を握り出して告白するからびっくりしたねー】


 ミヅキは気を使って二人っきりにすべくドラゴン亭へと帰ろうとしていた。


【作り方も教えたし……大丈夫だよね! あの二人なら】


 コハクもコクコクと頷いている。


 折角のお休みをガッツリ働いてしまったミヅキだったが……スッキリとした気持ちで歩いていると……



「おい! このガキ!」


 コハクがバッっとミヅキの前に立つとうぅー! と威嚇する。


「ひっ! おい従魔を引っ込めてくれ!」


「あっ? 串カツ屋のおじさん? どうしたの?」


「おじさんじゃない! 俺はこう見えてまだ20代だ!」


「えー! 見えなーい! ベイカーさんより上だと思ってた!」


「うるさい! お前あの負け犬に何したんだ! さっきは凄い行列が店に出来てるし! ロッテが婚約を解消したいと言ってくるし……店の串カツもまずいって文句が入るし……お前が来てから散々だ!」


 後半は私のせいか?


「こうなったら……! コレで勝負だ! お前が負けたらあいつに教えたレシピを教えて貰おう!」


 えっ? それで勝負?


「俺はこれは発売当日に買ってきて、今の所負け無しだ!」


「別にいいけど……もしおじさ……お兄さんが負けたらロッテさんのことはすっぱり諦めてね!」


 (ふふん……そんな事にはならないがな……! この子に勝ってレシピを聞いたらあいつよりも美味しいものを作って、ロッテも客も奪い返してやる!)


「ああ! わかった!」


「じゃ、一応書類にサインして下さい!」


「サ、サイン?」


「うん、こういう事はちゃんと書類にしろって怖いお母さん達に言われていますので……」


 ミヅキは紙を出すとサラサラっと公約を書いてモスさんに渡す。


「なになに? 『私、モスがミヅキに負けたら場合、二度とロッテ嬢につきまとうことはしないと誓います』だと!」


「了承なら自分の名前を書いて下さい!」


 モスさんは渋々と名前を書く……まぁ勝てばいいんだ……と自分に言い聞かせて……


 ミヅキは書類を確認すると大事そうにしまい込んだ。


「じゃ勝負しましょ! 何処でしますか?」


「じゃあの広場でやろう!」


 二人が広場のベンチに座ると人が集まってくる。


「よし!いざ『リバーシ』で勝負だ!」


 リバーシねぇ……そっちが言ってきたんだからね……


 今流行りのリバーシの対決に街の人達も興味津々で勝負を見学している。


「まぁお前はやった事がないだろうが……これは……」


「あっ! 知ってますから大丈夫です!」


 モスさんの説明を途中で遮ると自分の石を並べる……


「そ、そうか……まぁ子供のお前に先を譲ってやってもいいぞ!」


「いえ、結構です! それで負けてイチャモン付けられたら困るし……サッサと打って下さい」


ピキっ! 


(この生意気なガキめ~! コテンパンに負かしてやる~!)


モスさんは力を込めて最初の石を置いた!



「いやぁ~……凄い試合だったな!」


「面白かった~! あんな戦い方があるんですね~」


「リバーシは奥が深いなぁ……決して大人が勝つわけじゃないんだな!」


 呆然と座り込みリバーシの真っ黒い場面を凝視しているモスさんを残し……街の人達は散って行った……。



 しばらくして……


「ミヅキー! 今流行りの王都ドッグって食べに行かないか?」


 ベイカーさんがミヅキに声をかけると


「あっ! 私も行きたいです! 凄い美味しいって評判なんですよね!」


 珍しくデボットさんも行きたいと言うと


「でもあそこ新婚の夫婦がやってて……商品だけじゃなく熱々らしいですよ……」


 レアルさんが教えてくれる。


「お店も屋台を辞めてちゃんとしたお店を建てたらしいですね!」


 イチカ達も知っているらしい……


「なんてお店なの?」


 ミヅキが聞くと


「なんか……狐に助けられたから……狐の名前だったような……?」


「なんで狐が助けてくれるんだ?」


「さぁそこまでは……それに王都に狐なんています?」


 皆はハッと気がつくとコハクを見る……


「ミヅキ……何か知ってるのか?」


 えっ……ギクッと肩を揺らしてしまう……


「やっぱりお前か!」


 ベイカーさんが何をした! と詰め寄ると……


「はぁ……王都の噂は全部ミヅキ絡みなのか……」


 デボットさんが呆れている……


「まさか……最近潰れた店とかリバーシの神童が現れたって噂は違いますよね?」


 レアルさんが聞いてくる。


「さすが、ミヅキ様です! やっぱり凄いですね~」


イチカ達は……嬉しそうだね……


 ミヅキは


「ごめんなさい! もうしません!」


そう叫ぶとコハクとお店を逃げ出した!


 マックさん達結婚したんだ!


思わぬ報告に嬉しくなる……ミヅキはコハクに


【なんか美味しいもの食べに行こうか!】


と笑顔を向けると市場へとかけて行った。

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