第6話七夕
【ミヅキ!絶対俺から離れるなよ!】
【うん】
ミヅキはシルバの身体にピタッとしがみついて目をギュッと閉じる…。
【ベイカーは大丈夫か!?】
「ベイカーさん!大丈夫!?」
ミヅキが大声で聞くと
「大丈夫だ!俺の事はいいからミヅキはシルバにしっかりと捕まってろ!」
「はい!」
今ミヅキ達はピンチに見舞われている…ミヅキが竹が欲しいと言い出したことでシルバとベイカーさんと山に竹を探しに来ていた…しかしそこでオークの群れに遭遇してしまっていた…
「くっそ~!オークごときに遅れはとらんが数が多すぎる!」
ベイカーはいくら斬っても斬っても押し寄せてくるオークに苛立った!
(シルバがいるから大丈夫だとは思うが…ミヅキは平気か…?)
目を瞑っているように言ったが…自分の事で精一杯の今、ミヅキとシルバの様子が確認出来ないことに焦りを覚える。
そんな隙をついてオークが捨て身のタックルをしてくる。
「しまった!」
避けて切りつけたのはいいが足を踏み外してしまう。
(ヤバい…しくった…)
「ベイカーさん!!!」
ミヅキの焦った声を最後にベイカーは崖の底へと落ちていった…。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「う、うん…」
ベイカーはふかふかの感触に包まれていた…。
「わん!わん!」
犬?
「あっ!銀、あの人目が覚めたの?」
女の人の声と犬の鳴き声に目を開くと…そこは見た事も無い家具や装飾品が並ぶ明るく小さい部屋だった。
「ここは…?」
ベイカーが起き上がろうとすると床の柔らかさにびっくりする、そこには綺麗な布が敷いてあり信じられないほどふかふかだった。
「目が覚めましたか?体に痛い所とかありますか?」
声をかけられた方を見ると、そこにはミヅキに似た感じの女性が立っていて心配そうにしている。
「ミヅキ…?」
「えっ?」
女性がびっくりすると
「いや、すまん。知ってる子に似ていたもので…助けて頂いたようで感謝します。部屋の感じだと高貴な方とお見受けするが…」
ベイカーが膝をついて挨拶すると…女性は目を真ん丸に見開いて口を開けていた。
「あの…」
何も答えてくれない女性に声をかけると…
「あっ!すみません…びっくりしてしまって…高貴って言葉を理解するのに時間がかかってしまいました…」
まだ驚きが覚めやらぬ様子の女性は
「私は全然高貴?では無いので気にしないで下さいね!あなたは…銀の散歩コースで倒れてて…銀がくっついて離れなかったので…お礼なら銀に言ってあげて下さいね」
そう言って隣に座っている犬を愛おしそうに撫でている。
「銀さんありがとう、助かりました」
真面目に犬にお礼を言う男に思わず吹き出す。
「あはは!面白い人ですね!」
(笑い方からあの表情まで…ミヅキに似ている…)
「私はベイカーと申します。本当に感謝します」
女性にも再度頭を下げると
「私は……美月と言います。さっきは名前を言われてびっくりしました」
「ミヅキ!?」
「美しい月と書いて美月です、ベイカーさんはどこの国の方なんですか?」
「私はウエスト国の者です…ここはウエスト国では無いのですか?」
「ウエスト国?初めて聞きました…どこら辺の国なんだろ?」
美月が首を傾げる
「なんかその格好も…アレですよね?なんかの撮影か何かですか?」
「さつえい…?」
(顔もすっごい整っててかっこいいし俳優さんかなんかだよね?背も高いから…モデルさん?)
「何か連絡取れるもの持ってます?スマホとか?」
「すまほ…すみません持っていないです」
そっか…困ったな…
グゥ~
その時ベイカーの腹が鳴った…
「ぷっ!」
美月が思わず笑うと
「何か食べるもの持ってきますね!ちょっと待っていて下さい」
「いや…!」
ベイカーが断る間もなく美月は部屋を出てってしまった。
部屋にはベイカーと銀が残された。
「お前が助けてくれたんだな…ありがとう」
ベイカーが銀の頭を撫でると、ふんっ!と銀は鼻息を出しもっと褒めろとばかりに尻尾を振っている。
「お前はうちのシルバに毛並みが似てるな…あの子も名前からしてミヅキにそっくりだ…」
(ミヅキとシルバは無事だろうか?)
ベイカーは似た二人にミヅキ達の面影を見て思い出す。
すると、扉が開いて美月がおにぎりを皿に乗せて持ってきた。
「お!おにぎりだ!」
「おにぎり知ってますか?」
「ああ!ミヅキが握ってくれるおにぎりがまた美味いんだ!」
思わずいつもの口調で喋ってしまい、美月を見ると頬を赤くしている。
どうしたのかと思っていると
「ベイカーさんの知り合いのみづきさんですよね?名前が一緒なので…自分に言われているようで…」
ああ!
「すみません、そうか…あなたも美月さんだった」
「すみませんこんな物しか…」
おにぎりをベイカーの前に置くとどうぞと微笑まれる。
「いただきます」
美味しそうなおにぎりについ手が伸びてしまう、大きな一口で食べていると…
「美味しいそうに食べてくれますね!」
「いや!実際凄く美味いです!ミヅキが握ってくれるおにぎりに…よく似ています!」
三口で食べ切ってしまったベイカーの食べっぷりに嬉しそうな顔をしていると
「その…みづきさんてどんな方なんですか?奥様ですか?」
思わぬ言葉におにぎりが喉につまりドンドンと胸を叩くと美月が慌てて水をもってきてくれた。
受け取りごくごくと飲み込むと…
「びっくりした…」
はぁーと息をはく…死ぬかと思った…
「すみません、なんか変な事言いました?」
美月が心配そうにもう一杯水を持ってきてくれた。
「いえ、ミヅキは…娘?みたいなものです。年は今6歳くらいかな?」
「娘?歳が分からないのですか?」
「捨てられていた子で…記憶が曖昧なようなんです、俺が拾ったのでそのまま面倒を見ていて…今では親子みたいな関係ですね、まぁ面倒を見てもらっているのは俺の方かも知れませんが…」
そう言って恥ずかしそうにしているがその顔はとっても幸せそうだった。
羨ましい…
「ミヅキは小さいのにとっても賢くて、優しい子です。まぁ時々…(結構か?)思わぬ事をやらかしますが…料理も得意であの子の作るものはどれも美味しい!本当に自慢の子です」
美月を見ると羨ましそうな嬉しそうな恥ずかしそうな顔をしていた。
「どうしました?」
「いえ…なんか美月と呼ばれて恥ずかしいような嬉しいような…」
「美月さんのおにぎりも同じくらい美味しかったですよ!見知らずの私にこんなに良くしていただき本当にありがとうございました」
ベイカーはご馳走様でしたと立ち上がる。
「長居をしてしまいすみません…」
出ていこうとするベイカーに少し寂しそうに玄関へと誘導する。
「そう言えば、なんで倒れていたのですか?」
「ああ…ミヅキが竹が欲しいと言い出して竹を探している途中ではぐれてしまいました」
「竹?あっ!なるほど…ちょっと待ってて下さい!」
美月は慌てて台所へと行くと…しばらくして戻ってきた。
「ベイカーさん、良ければこれを!」
その手には小さな竹と紙袋を持っていた。
「これは?」
「えっ?竹ですよ?あとよければ、みづきちゃんにおにぎりを…」
これが竹…。
ベイカーは初めて見る竹をしげしげと見つめる。
その様子に…
「すみません…商店街で貰った小さい物ですが…七夕で使うんですよね?」
「たなばた…?」
「ええ…短冊に願い事を書いて竹の笹につるすんです…そうすると願い事が叶うって…って知りませんでした?」
「初めて聞きました…そうか、ミヅキはそれがしたかったんだな」
「しかし…美月さんの物では?」
「私は…いいんです、みづきちゃんと楽しんで」
そう言ってニッコリと笑う。
ベイカーが複雑そうな顔をすると
「あっ!それなら私の願い事も一緒に飾って下さい」
「もちろんです!」
ベイカーの答えに嬉しそうにすると部屋に行き願い事を書いた短冊を持ってきて笹に飾る。
「なんかすみません…ベイカーさんとみづきちゃんの中に混ぜてもらっちゃって…」
「いえ!たくさんの方がきっとあの子も喜びますよ」
ベイカーはありがとうございますと願い事が付いた竹とおにぎりを受け取って部屋を出て行った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ベイカーが去った部屋で銀を撫でている美月は先程までベイカーさんが座っていた場所を見つめる…。
「なんか…面白い人だったね…」
銀に話しかけると同意するように尻尾を振る。
「お父さんって…あんな感じなのかな?」
幼い頃に父と母を亡くしている美月はベイカーさんに父の面影を重ねていた…。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ベイカーは美月の家を出た途端霧に襲われていた。
前も後ろも濃いきりに包まれ、自分が何処に向かっているのかもわからないでいた…。
「ここはどこだ…美月さんに場所をきちんと聞けばよかった…」
引き返そうかと後ろを振り返ると…ガクッと足場が崩れる…。
(またかよ…)
ベイカーは底の見えない穴へと落ちて行った…。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「………、……さん、ベイカーさん!」
聞き覚えのある声に気が付き目を開けると…
「ベイカーさん!!」
泣いて顔がぐちゃぐちゃのミヅキがベイカーに抱きついた!
「ミヅキ?」
「ベイカーさんごめんなさい!私が竹が欲しいなんて言ったから…」
「ミヅキ、大丈夫だ。あんな事ぐらいよくある俺は冒険者だぞ」
「でもよかった…ベイカーさんが無事で…」
「あんな崖から落ちたくらいでくたばるか、シルバにのされた方がもっとキツかったよ…」
後ろでシルバがぷいっと横を向く。
泣いているミヅキをあやす様に抱き上げてぐちゃぐちゃの顔を拭いてやると…
「あれ?ベイカーさん竹持ってるの?」
美月から渡された竹と紙袋が目に入る。
「あっ!そうそうすっごい綺麗で優しい女の人が助けてくれてな!竹とおにぎりをくれたんだ!」
「竹とおにぎり?」
私の他におにぎりを作れる人が…?
「いい匂いがする人で…女神かと思ったぞ!」
ベイカーさんの言葉にミヅキのほっぺがぷうっと膨れる。
「ベイカーさん!心配してたのに!そんな事してたの!?」
急に怒り出したミヅキにベイカーがびっくりすると
知らない!とミヅキはくるっと背を向ける。
「ミヅキ?何に怒ってるのかわからんが…すまん、心配かけたな…そのな助けてくれた人も美月って言ってなんかお前に似てて…つい気が緩んじまった…」
「みづき?その人もミヅキって言うの?」
「ああ…なんか雰囲気もお前に似てた…年は上だったがな、それでミヅキの話をしたらお前にこれをって」
ベイカーさんがおにぎりを差し出す。
「本当におにぎりだ!しかも…これってラップ?」
透明のラップに包まれているラップを見る、異世界に来て初めて見たものだった。
「なんだ?その紙はなんで透けてるんだ?」
ベイカーさんも見た事の無い物のようだ…
「ベイカーさん…一体何処に行ってたの?」
さぁ…?
ベイカーも首を捻る。
「でも…本当に無事でよかった…」
【あの崖の高さから落ちたのに…よく無事だったものだ…俺でもあの高さなら二、三日動けなくなりそうだがな…】
【そうなの?】
ベイカーさんを見るがどこも怪我をしたような様子は無かった。
「さぁ!ミヅキ帰って竹に短冊を飾ろうぜ!」
ベイカーさんの言葉にミヅキが驚く!
「ベイカーさん!七夕知ってるの?」
「ああ!短冊に願い事を書いて竹の笹につるすんだろ!」
「うん!」
ミヅキは竹を受け取るともう既に書いてある短冊を笹に付けようとするともう既に飾ってある短冊に気がついた…。
「これ…」
「ああ!それをくれた美月さんの願い事だ!一緒に飾ってくれって…しかしなんて書いてあるんだ?」
ベイカーさんには読めない字のようだった。
ミヅキはその隣に自分の短冊を飾る。
【よかったな、もう願い事が叶ったようだな】
【そうだね…】
ミヅキはシルバに乗るとベイカーさんと街に帰って行った。
ミヅキの持っている竹の短冊には…
『ベイカーさんやシルバ達みんなといつまでも一緒に元気に暮らして行けますように』
『いつか、大切な家族が出来ますように』
と…日本語で書かれていた…。
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