謎を追って
*
翌朝。
賢志はまず、南家に行ってみた。
事件当夜のことを聞きたい。とくに、みんなが去ったあと、ほら穴を出入りした人間がほんとに誰一人いなかったのか。
島民のほとんどは漁師だ。南義行もそうだ。漁に出てしまう前にと思い、朝六時に起きて、朝食も食べずにかけつけた。
玄関前にたどりついたとき、ちょうど出てきた義行と鉢合わせした。それほど親しいわけではないが、顔見知りではある。
「このたびは、咲良さんのこと、ご愁傷さまでした」
深々と頭をさげると、義行は悲しげな目で微笑んでくれた。
「ご仏壇に線香をあげさせていただいてもよろしいですか?」
「いいよ」
いっしょに家のなかに戻り、仏間へ案内された。奥さんの絢子もやってくる。
賢志はひととおり儀礼的な挨拶をすましたあと、本題に入った。
「ところで、犯人はまだ捕まってないそうですね。私も微力ながら犯人逮捕のお力になりたいのですが。お教え願えませんか。事件当日、義行さんはずっと、ほら穴の入口を見ておられたんですよね? 近づいていく者はいなかったんですか?」
義行は嘆息とともに、うなずいた。
「悔しいが、見なかった。だが、あいつに決まっとるんだ。あいつなら、あのへんの地理はなんでも知ってる」
「……蒼太くん、ですね?」
義行は思わず、感情がたかぶり、本音をもらしてしまったのだろう。ハッと我に返り、口をつぐむ。
「すまんね。もう出にゃならん」
あわてて、外へかけだしていく。
賢志はあきらめなかった。今度は絢子に焦点をしぼる。
「島の人たちは、みんな、あの子が咲良さんを殺したと思っているって、ほんとですか?」
たずねるが、絢子は押しだまっている。十数分が経ち、あきらめて立ちあがった。
「ご心痛のところを、あれこれと申しわけありませんでした」
すると、玄関口まで見送りについてきた絢子が、ぼそりと言う。
「ミキさんに聞いたら、どうかねぇ。あの人なら、きっと……」
ミキ——この島で、ゆいいつ居酒屋と呼べるものを経営してるママだ。賢志も何度か店で飲んだことがある。
「ありがとうございます!」
さっそく、ミキの店へ急いだ。
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