月の唄3
*
翌日でした。
ミカさんの遺体が見つかったのは。
わたしはちょくせつは見てません。
でも、街じゅう、そのウワサで持ちきりでした。新聞にも載ったし、テレビニュースにもなりました。
それによると、ミカさんは全身の血が流れて失血死していたそうです。自宅近くの森のなかで亡くなっていました。
「いやだね。怖いね。おばあちゃん、森岡さんちに、お悔やみに行ってくるからね」と、祖母が言うので、わたしもついていくことにしました。
赤い屋根の大きな家。
お屋敷ってほどじゃないけど。
広い家のまわりには、近所の人や弔問客や、報道陣がつめかけていました。
わたしみたいな子どもが歩きまわっていても目立ちません。高校の制服をきたミカさんの友だちも、たくさん集まっていたからです。
「信じられないよ。ミカが死んだなんて」
「なんでこんなことに……」
なげく高校生のなかに、わたしは見知った顔を発見しました。コウジっていう人です。見るからに顔色が悪い。それに、妙にまわりを気にして、オドオドしています。
わたしは、あの人がミカさんの死について、何か知ってるのではないかと思いました。
なんとかして、話が聞きたい。そう考え、近づいていきました。
「こんにちは。ちょっと、お話いいですか?」
「誰? あんた」
「わたしのことはいいんです。それより、聞きたいんですけど。もしかして、昨日の夜、何か見たんじゃないですか?」
図星です。
一瞬で顔がこわばりました。
「な……なんだよ。おまえ。サツのまわしもんか?」
「そんなんじゃないです。昨日の夜、外を歩いているミカさんが窓から見えたんですよね」
わたしはウソをつきました。見たのは、窓からじゃないんですが。
「もしかしたら、コウジさんも歩いてませんでした?」
いつも、下僕のように、女王さまにつきしたがってたから、さぐりを入れてみます。
あきらかに、コウジさんは身におぼえがあるようです。うつむきつつ、そわそわして落ちつきがありません。
「べ……べつに、つけてたわけじゃないからな。たまたまだよ」
「つけてたんだ。ミカさんのこと」
「ち、違うよ。途中ですれちがっただけ。ちょっと話して、すぐ別れたんだからな」
わたしは思いきって、たずねました。
「そもそも、コウジさんとミカさんって、つきあってたんですか?」
コウジさんはプイっとそっぽをむき、
「関係ないだろ」
言いすてて、逃げるように友だちのところへ行ってしまいました。
あまり話はできませんでしたが、少しわかったこともあります。
たぶん、コウジさんはミカさんのことが好き。
しかも、一方通行。
昨夜はミカさんのあとをつけていた。
そのとき、何かを見た。
もしかしたら、マヒロとミカさんが抱きあっているところを見たのかもしれません。
(もし、そうなら、絶対、問いつめるよね?)
片想いの人が、べつの男とキスしてるんだから、何も思わないわけありません。
わたしなら、そくざに、ちょくせつ聞いちゃう。
昨日、そうしたみたいに。
でも、コウジさんはそういうタイプじゃないのかも?
聞きたいけど、聞けない……そんな人なら、どうするのでしょう?
追いかけていって、いきなり、背後からなぐりかかる……とか?
(まさかね)
そのあとは、ずっと友だちといっしょだったり、遺族の人と話したりして、コウジさんはわたしをさけてるようでした。
(あれが学者のおじいさんか)
コウジさんとも長々と話して、けっこう親密なのかもしれません。
いったい、何をあんなに熱心に話してるんでしょう?
気になって、しかたありません。
わたしは近づいていって、柱のかげから盗み聞きしました。ちょっと行儀は悪いけど、マヒロのこと告げ口でもされたら、大変ですから。
「この森には吸血鬼がおるんだよ。ミカは吸血鬼にやられたんだ」
おじいさんの声が聞こえて、わたしの胸は早鐘を打ちます。
コウジさんは、うつむいて何か言いました。
でも、声が小さくて、よく聞こえません。
それを押しふせるように、おじいさんは続けます。
「伯爵が帰ってきた。あのころと同じ顔。あいつはまったく年をとってない。思ったとおりだ。あいつが……だったんだ」
最悪です。
(やっぱり、コウジさんは昨日、マヒロとミカさんがいっしょにいるところを見たんだ)
二人はまだ話していました。ぼそぼそと声が小さくなって、ほとんど聞こえませんでしたが。
ただ、このひとことだけが、やけにハッキリ聞きとれました。
今夜、たしかめに……と。
このこと、マヒロに知らせなくちゃ。
わたしはいてもたってもいられなくて、急いで、うちに帰りました。
「マヒロ! マヒロ! 出てきて。大事な話があるの」
お屋敷の前で呼んでみたけど、返事はありません。
昼間は出てこないんだと、わかってはいたけど……。
しかたありません。
夜を待つしか方法はないようです。
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