謎解き

 *



 ここは天国コーヒーいっぱいであの人に会える私服の場所、エミ、恋しのエミ、彼女は私のプレゼントを喜んでくれただろうかコンビニで買った差し入れだけじゃ私の深い恋がとどこると思い彼女の大好きな猫のぬいぐるみを置くってみたいきてるみたいにホンモノらひいぬいぐるみだ、なぜならネコの毛で作った自家製だから、のらねこを集会するのがとても苦労だったでもエミの喜びカオを見れば私もうれしい


 彼女のためなら死ねる



 *



「つまり、守屋はエミって女を好きになって、つきまとっていた。その女にふられて自殺した——と、この手帳の文面を書いたヤツは主張しているんだな」


 そう言って、八重咲は手帳をとじた。

 綾野は彼の顔色をうかがう。


「どう思う? 君の言うように守屋が自殺じゃなく殺されたんだとしたら、このエミって女が怪しくないか? 自分はストーキングの被害者で、守屋は自殺だって思いこませることができるわけだろ?」


 綾野の意見を八重咲はだまって聞いている。反応がないので、綾野は続けた。


「じつはさ。この喫茶店、守屋が亡くなる前によく来てたんだ」

「知ってる。僕もよく来る」

「そうなのか。なら、わかると思うけど、気になることがあるんだ」


 そのとき、玄関扉がひらいて新しい客が入ってきた。マスターは手が離せないのかバイトの女の子に声をかける。

「エマちゃん。接客して」

「はーい」


 バイトの女の子は外国人だ。アングロサクソン系の白人。あの子と仲よく話している守屋を、綾野も何度か見かけた。


 ニヤニヤ笑いながら、八重咲が言う。

「あの子の正式なファーストネーム、エミリアだそうだ」

「えっ? それって……」

「エミ、だな」


 綾野は息をのむ。


「じゃあ、あの子が守屋の好きな女か! そうか。わかったぞ。あの子はつきまとってくる守屋がうっとうしくて殺したんだ。

 あの変な文章は、守屋の精神状態があやうかったことを表現するだけじゃない。日本語がうまくないことを隠蔽いんぺいするため——」


 すると、八重咲は初めて、哀れみをふくんだ目を綾野になげてきた。


「違うよ」

「違う? なぜ? 君の推理にピッタリじゃないか」

「でも、違うんだ。守屋がつきまとってたのは、あのウェイトレスじゃない」

「なんで、そんなこと断言できるんだ? 現にアイツが死ぬ前、ずっと、この店に入りびたって——」

「僕のテリトリーだからだ」

「君の? 君のテリトリーだと、なぜ、守屋が通いづめるんだ?」


 綾野は意地になって、きつい口調で問いつめた。

 八重咲の答えは明解だった。


「だって、守屋がつきまとってたのは、僕だから」

「ハッ?」

「だから、守屋は僕に対してストーキングしてたんだ。綾野。君はアイツの幼なじみだったろ? 知らなかったの? まあ、知ってたら、エマを犯人に仕立てあげようなんてしなかっただろうけど。守屋は男しか愛せないヤツだった。ミス大学はただの隠れみのさ」


 綾野はだまりこんだ。

 そんなこと、まったく気づかなかった。


「もっとも、僕にのぼせあがったのは、顔を見てからだよね。学生時代にはほかに好きな人がいたみたいだ」

「……誰?」


 八重咲はまっすぐに綾野を見つめてくる。

 妖しい翡翠ひすいのような色にけむる瞳。


「君か、守屋のどちらかが、ちょっと勇気を出していればいいだけの話だったんだ。何も殺さなくても。ただし、僕に出会う前にね」


 でも、そんなのできないよ。だって、男同士なんだからさ。


 綾野の脳裏に、なぜか故郷の風景が浮かんだ。

 少年のころ、いつも、となりにあった守屋の笑顔とともに——




 超・妄想コンテスト

『女同士・男同士』

『一冊の本』用に書いた話です。


 関連作品『契約者は悪魔〜八重咲探偵の事件簿〜』

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