第十一話 文化祭が来たらコクろうと思ってた(青春)
第11話 文化祭が来たらコクろうと思ってた
文化祭が始まる。
一週間前までは、心待ちにしていた文化祭。
中学生最後の文化祭。
うちは中高一貫校だから、受験の心配がない。
だから、三年生の文化祭は、ほんとに、お祭りさわぎだ。
そして、いつごろからか、こんなジンクスがあった。
文化祭の初日、お化け屋敷のなかで告白すると、かならず成功する——って。
だからってわけじゃないけど、うちのクラスの出し物は、お化け屋敷。
みんなで衣装や小道具を作って、すっごく盛りあがってた。
わたしには幼なじみがいる。
保育所のころからの友だち。
家は同じマンション。クラスも同じ。
クラブもいっしょに吹奏楽部に入った。
わたしは、サックス。雄飛はオーボエ。
子どものころは、ただの仲よし。
とくに意識してなかったけど、でも、中学に入ったくらいから? なんか、意識しちゃって。
だって、雄飛のやつ、急に背が高くなって、声も低くなった。重いカバンとかも、ヒョイって持ってくれたり。
なんでかな。ドキドキするよ?
「夏帆ってさ。サックス吹いてるとき、なんか……」
「なんか、何?」
夕日のなかで、ならんで校庭を歩きながら、あいつはくちごもる。見つめていると、ニカッと白い歯を見せた。
「なんか、カッコイイよな」
胸がドキンとした。
そして、知った。
このドキドキは止まることがないと。
雄飛がいると、となりにいると、止まらない。
(わたし……好きなんだ)
それで、決心した。
文化祭が始まったら、告白しよう。
お化け屋敷のなかで。
なのに、見てしまった。
あと一週間で文化祭というとき。
「先輩! 好きです!」
カワイイって評判の一年の女子。
雄飛が、なんと答えたのか知らないけど。
抱きつかれて、ニヤケてるように見えた。
腹が立って、雄飛のこと、無視した。
「おーい、帰ろう。今日、おまえ、塾じゃないだろ?」
声をかけられても走って逃げた。
そんなの、彼女といっしょに帰ればいいよ。
わたしのことなんか、ほっといてよ。
そんななかでも、文化祭は近づいてくる。
学校中が熱に浮かされたみたい。
うちの教室も、どんどん、お化け屋敷になっていく。
暗くて、ドロっとして、気持ち悪い。
今のわたしみたいだ。
「夏帆は女幽霊ね。オバケメイクも、ちゃんとするんだよ」
「いいよ、もう。なんでもやる」
「ありがとう! 助かるぅ」
クラスの女の子は好きな人に告白しに行くつもりらしい。みんな、大切な初日は、オバケ役をやりたがらない。
わたしは、なげやりだった。
なんでも言われたとおりに、ほいほい聞いて。
雄飛が不機嫌な顔で、つめよってきた。
「なんだよ。夏帆。オバケやんの?」
「みんな、やりたがらないだから、しかたないよ」
「断れよ。そんなの」
「ユウには関係ないでしょ。ほっといてよ」
「……おまえ、最近、変じゃない?」
「変じゃない!」
ふりきって、逃げだして……。
学園祭の初日は雨だった。
わたしの気分には、ピッタリ。
「ああ、せっかくの学園祭なのに、これじゃ盛りあがらないよ」
「ほんとぉ。つまんない。お客も来ないよねぇ」
クラスの女子はぼやいてたけど。
むしろ、わたしは天気に感謝。
お化け屋敷のなかで、ぼんやり、すわってればいいんだから。
たいくつな一日。
雄飛も来ないし、今日は欠席?
どっちみち、これじゃ、告白できなかったよね……。
いや、もう関係ないし。
どうでもいいし。
そう思うのに、なんか涙が出てきた。
オバケメイクがとけて、ドロドロ。
もう、ほんとに最悪の文化祭。
今年が中学最後だったのにな。
ほんとなら、今ごろは雄飛と手をとりあって笑ってたはずなのにな。
どこで、まちがったんだろ?
こんなことになっちゃって。
泣いてると、誰かがバタバタ、ろうかをかけてきた。
「あれ? 雄飛? おまえ、今日、休みじゃないの?」
入口のほうで、そんな声が聞こえる。
(雄飛? なんで、今ごろ?)
あわてて、手のひらで涙をぬぐう。
教室をダンボールのカベで仕切って、作った迷路。
すぐには、来れるはずもないのに、雄飛は、まっすぐ、わたしのもとへ、やってきた。
もしかして、背中に羽でも生えてる?
雄飛は、いきなり、わたしの手をにぎってきた。
「夏帆。おまえが好きだ!」
「な、なに言ってんのぉっ!」
嬉しいのと怒りで、わたしはもうパニック状態。
思わず、どなっちゃった。
「あの子と、つきあってるんでしょ? 一年のフルートの子と。フルートのほうが女の子らしいし、可愛いもんね!」
雄飛は怒るんじゃないかと思ってた。
でも……。
「なーんだ。そんなことで怒ってたのか。バカだなあ。夏帆は。そそっかしいよ。あいかわらず」
ガシガシっと、わたしの髪をかきまわす。
「あんなの、もちろん、ことわったよ。おれの好きなのは、夏帆だもん」
「雄飛……」
よかった。まだ遅くなかった。まにあったの?
「どうなの? 夏帆はおれのこと、どう思ってるの?」
もちろん、好きだよ——と、言おうとした。
一瞬だけ、ためらった。
だって、男の子に告白されるなんて初めてだったし。
「あの、あの、わたし……」
ひざがガクガクふるえて、声がうらがえる。
すると、そのとき、
「ごめん……もう、いかなきゃ。最後に、それだけ言いたかったから……バイバイ。夏帆」
雄飛の姿が、ふわーっと透きとおって、消えちゃった。
ウソ! なんで?
ぼうぜんとしてると、また走ってくる足音。
「大変だ! 雄飛が事故ったって! 今、先生が話してた。車にひかれて、あぶないって——」
あぶない? 何が危ない?
わたしは思わず、走りだしてた。
オバケメイクのままだってことなんか忘れてた。
だから、消えたんだ。
雄飛、待ってよ。ズルイよ。そんなの。
わたし、まだ言ってないよ。
職員室にとびこんで、先生から、雄飛が運ばれた病院を教えてもらった。
「夏帆。待ってよ。その顔のまま行くつもり? ほら、クレンジングだよ。これで顔ふいて」
友よ、ありがと!
わたしは行くよ!
血のりのついた白いワンピースも、急いで制服に着替えた。ほんとは、こんなことしてるあいだも、もどかしかったんだけど……。
病院が同じ市内でよかった。
かけつけると、雄飛は面会謝絶になっていた。
雄飛のママが泣きくずれて、病室を見つめていた。
「……夏帆ちゃん」
「雄飛……雄飛は?」
雄飛のママが首をふる。
うそ……ウソでしょ?
わたし、やっぱり、遅かったの?
つまんない意地、はりすぎたから?
素直に言えば、よかった。
ほんとは、わたしも好きだよ——って……。
「まだ言ってないよ! まだ死なないでッ!」
わたしの言葉、雄飛に届いたのかな?
*
「おーい。夏帆。今日から文化祭だぞ。遅いよ。遅刻。遅刻」
「だって、昨日、夜中まで衣装、ぬってたんだよ。やっと、まにあったー」
「急ごう。電車、のりおくれる」
「待ってよ! 雄飛——」
あれから、一年。
わたしと、雄飛は高校生になった。
今日から、また文化祭だ。
ふしぎなんだけど。
雄飛は、あのとき、たしかに一度、死んだらしい。
二時間ほど、完全に心臓が止まっていた。
わたしとお化け屋敷のなかで会ってたころの時間だ。
「うーん、なんか、事故のあとのことは、よくおぼえてないんだよね。でも、夏帆の声が聞こえた気がする。まだ死ぬなって。それで、あわてて帰ってきた」
わたしに告白したことも忘れてるみたい。
でも、いいんだ。
今年も、うちの出し物は、お化け屋敷だから。
今度こそ、きっと……。
超・妄想コンテスト
『文化祭』
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