第4話 だって、好きなんだもん! 後編
近ごろ、おれが見まわりしてないんで、村を荒らしにくる魔物が多い。
でも、それらは、みんな、小物ばかりだ。スライムとか、ブラウニーとか。ちょっと強くても、ゾンビとか? おれが一人で倒せるていどのやつら。じゃないと、村を守れない。
だが、このときのさわぎは、そんなもんじゃなかった。
異様な気配が、家のなかにいても、わかる。
おれは窓から外をながめた。
空が黒い。
魔物だ。ものすごい数の魔物が、空をおおっている。
一匹ずつは、たいしたことない。コウモリやニワトリのモンスターエナジーだ。でも、数が尋常じゃない。
「三騎士だ! 魔王の三騎士、ゾゾゾナイトだー!」と、誰かが叫んだ。
なるほど。ゲームってのは、ほんと、よくできてるな。
今ので状況がわかった。
ゾゾゾナイトのネーミングはともかく(もっとマシな名前はつけられなかったのか?)、そのセリフは、あることをおれに告げていた。
今日が、その日だと。
おれの人生が終わる日だと。
おれは愛剣をベルトにさした。
村勇者に支給されている防具も身につけた。
ちょっとダサいが、ウロコのよろい、ウロコのぼうし、ウロコの盾という、ウロコづくし。
せめて、死ぬまでに青銅のシリーズに切りかえたかったなぁ。そこまで、金、たまらなかった。
勇者だから、ユウタって名前も安直だなぁと、つねづね思ってたが……でも、これでいいんだ。
これで、おれはバグから解放される。
おれの人生をまっとうできる。
「父さん。母さんと妹(妹は名前もつけられてない。哀れ!)を頼むよ」
「……ユウタ。しっかりな」
男どうしでグータッチした。
母と妹を一度ずつハグした。
さよなら。
おれの家。おれの家族。
おれは村勇者だ。村を守って、いさぎよく散ってやる。
おれは、家をとびだした。
魔物の大群に向かっていく。
おれのこと「村の恥さらし」と言った、となりのおじさんも、「ニセ勇者」と、ののしった、おばさんも許すよ。
みんな、おれの戦いぶりを見ててくれ——
今日は、おれの一世一代の晴れ舞台。
あとレベル1足りなくて、ザ〇ラルおぼえられなかったけど。今のおれにできることは、すべてした。
むらがるコウモリをけちらし、ゾンビの大群を焼き払った。
「みんな、教会に逃げるんだ! あそこなら、魔物は入りこめない」
「ユウタくん……ごめんね。ありがとう」
ああ、みんなの感謝の目。
賛嘆の言葉。
よかった。おれの努力はむくわれた。
これでもう思い残すことはない。
おれが疲れきったころ、その人は、やってきた。
グッドタイミング。
やっぱり、本物の勇者だな。
魔王を倒して、世界を救う、ゆいいつの人だ。
ひとめで、救世主(ユーザー)だとわかった。なにしろ、グラフィックの手のかけかたが違う。やっぱ、かっこよく作ってあるよ。
その人が、おれに手をさしのべる。
「大丈夫ですか? この村で、何が起こっているんですか?」
「ゾゾゾナイトです(やっぱり、ネーミングがなぁ……)。あいつが村をおそってるんだ」
「なんだって! ゾゾゾナイトが? それは、どこです? 今日こそは絶対に倒してやる!」
「あっちです(NPCには、なんとなくわかる)。おれも行きます。おれの村だ。おれが守らないと」
今のセリフ、決まったかな?
ゾゾゾナイトのネーミングのせいで、いまいち、しまらないのが残念だ。
おれは、その人とともに走った。
おれにとって、最期の決戦のステージへ——
*
ゾゾゾナイトは、見ためがダメだった。
ゾンビナイトが三匹、つながったみたいな。両わきに人形ならべて、ラインダンスおどる芸人みたいに見える。
序盤のボスなんて、こんなもんか……。
もうちょっと、カッコいい敵にやられて死にたかったなあ。
でも、シチュエーションは最高だ。
ゾゾゾのくせに、こいつ、意外と
おれたちが、かけつけると、ゾゾゾナイトは教会のまわりに、ガラクタをつんで火をつけようとしていた。逃げこんだ村人を教会ごと、焼きつくそうとしている。
「はっはっはっー! どうだー! 村人どもめ。魔王さまに逆らうやつらは、見せしめだー!」
定番の悪ゼリフを吐いて、火のついたタイマツ(炎系魔法じゃないとこが序盤)を、ガラクタの山に近づける。
「待て! ゾゾゾナイト。そんなこと、させないぞ」
メシアが叫んで、切りこんでいく。
あっ、ダメだと、おれは思った。
ゾゾゾナイトの得意技は、カウンターからの百槍突きだ。受けた攻撃の百倍のダメージを相手に与える。序盤では、ほぼ無敵とも言える技。ただし、使えるのは、一戦闘で一回だけ。
(そうか。今なんだな……)
おれは、このステージ。戦う前に死んでしまうんだ。
それが、おれの役目——
おれの体は自然に動いた。
ゾゾゾナイトに向かって突進するメシアをつきとばし、おれの剣をつきだす。我ながら、会心の一撃だ。まともに刺されば、ゾゾゾナイトだって、無傷ではすまないはず。
でも、この剣が当たった瞬間、おれは激しいカウンターを受ける。たぶん、即死だろう。
ニヤリと、ゾゾゾナイトが笑った。
すべてがスローモーションのように見える。
終わりのときが近づいている。
おれの一撃がゾゾゾナイトの肩に入る。
その瞬間だ。
「ダメー!」
信じられない。
おれとゾゾゾナイトのあいだに、誰かが入ってきた。
あわい水色の髪。甘いピンクの瞳。
キャンディーみたいに、甘ったるい女の子。
小さな羽と、しっぽのオマケがついてるけど。
「キュートッ!」
一瞬ののち、キュートは血まみれになって、地面に倒れた。
「バカ!なんで……なんで、こんなことするんだよ! 今日は、おれの最期の日だったのに。死ぬのは、おれのはずだったのに」
「ごめんね……ユウタ。好きになっちゃって、ごめん……」
ああ、命が失われていく。
わかる。キュートの瞳から光が消えていく。
「おまえのは本能だろ。しっぽ、にぎられたから好きなだけ」
こんなときに、なに言ってんだ。おれ。
すると、キュートは微笑した。
「そんなこと……ないよ。しっぽ、にぎられる前から、ドキドキしてた。だって、カッコよかったもん。ユウタ……」
「キュート……おれ……」
おれも、好きだよ——
ささやいた言葉が、キュートには聞こえただろうか?
「死ぬな。死ぬなよ。キュート!」
キュートは、ほほえみながら息をひきとった。
そのあとの戦闘のことは、正直、よくおぼえてない。
みごとな戦いだった気もするし、メシアが勝手に、やっつけてくれたような気もする。
とにかく、おれの一撃から戦闘が切れずに続いていたせいで、もはや、ゾゾゾナイトは得意技を使えなかった。得意技さえ使えなければ、たいした敵じゃない。ゾンビナイト三匹との、ちょっとキツイ戦闘ってていど。
経験値は、すごかったけど。
チャラララッチャッチャーと、聞き慣れた音がして、おれは自分のなかに新しい力が、みなぎるのを感じた。
レベルアップ!
ザ〇ラル。おれは、ザ〇ラルをおぼえた!
戦闘で、かなりのマジックパワーを消費してたが、限界じゃなかった。この日のために買いためといた、妖精のしずく(魔力回復アイテム)もある。
おれは、ザ〇ラルを叫んだ。
キュートの体を抱きしめながら。
魔力の続くかぎり。
でも、キュートは目をあけない。
もしかして、魔物だから、きかないのか?
それとも、おれの成功率が低いだけ?
ああ、もう、最後の妖精のしずくだ。
これが、最後のひとびん。
「ザ〇ラル!」
ダメか? やっぱり、生き返らないのか……。
あきらめかけたとき、キュートが目をあけた。
まだ青い顔をして、体力半分って感じだけど。
「ユウタ……」
「おれの嫁さんになってくれ」
キュートの返事は、熱烈なキスだった。
*
その後?
死に場所をのがしたNPCが、どうなったのかって?
おれは、メシアといっしょに旅に出ることにした。
どうやら、このゲームはマルチストーリーだったみたいだ。
まあ、序盤のキャラだからさ。
そのうち、足手まといになって、お城の酒場とかで、留守番にまわされるんだろうけど。
そういう人生も、ちょっといいかなと思ってる。
なにしろ、嫁さんがサキュバスだから。
これ以上、個性なんていらないよ。
超・妄想コンテスト
『ごめんなさいのセリフを作品のどこかで使おう』
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