第3話・山下冬人(17)の場合「透視」

 20XX/07/30/13:50


 目の前でクラスメートの赤羽が死んでいる。工事現場から落ちてきた単管が頭を直撃したのだ。以前からいじめの対象にしていた為一瞬自分に疑いが掛かると思い身構えたが、よくよく考えたら山下冬人やましたふゆと自身にそんな細工が出来るはずもないと気付いた。


 この日も仲間、というよりは強制的にいいなりにされている5人の同級生を引き連れ、本日の獲物を物色中の出来事だった。


「山下君、も、もうやめない?」

取り巻きの一人がそう話しかけると、山下はそいつを睨んだ。

「今更何言ってる。ヤってるのは俺一人でも、協力している以上お前らも共犯だからな」

相手の名前はいちいち憶えていないが、最近犯した女から奪った財布の中に免許証が入っていたので、年齢だけはチェックした。

「あんな32のババアで終われるかよ。次はもっと若いの狙うぞ」


 そこまで言って、自分の脚元に一冊のノートが落ちているのに気付いた。それは、さっきまで赤羽が持っていたノートだった。いじめの告発文でも書いていやしないかと拾い上げると、表紙には『超能力の使い方』と書いてあった。


 手にしてみるとそれはなんとも薄っぺらで、表紙と裏表紙しかないのではないかと思わせた。


 念のため調べておくかと表紙をめくってみると、どうやら6枚、12ページだけは辛うじて残っているようだった。その1ページ目には

『超能力は誰もが持っている。ただ本能がそれを拒絶しているだけだ』

とだけ記されていた。


 2ページ目にはなんの記載もなく、3ページ目には、『瞬間移動発現方法』とだけ書かれてあり、更にめくると、その能力の発動方法が書いてあった。それは至って簡単な方法で、一通り読んだだけで誰にでも出来るものだったが、5ページ目には瞬間移動の危険性が記されてあり、流石にこれを試すのには躊躇した。


 6ページ目には『予知能力発現方法』とだけ書かれてあり、隣のページにはその能力の発動方法が書いてあった。それは至って簡単な方法で、一通り読んだだけで誰にでも出来るものだったが、何故か8ページ目は白紙で9ページ目に予知しても何も変えられない事が記されていた。


「なんだこれ。使えねえ」

そう呟きながら次をめくると、10ページ目に『透視能力発現方法』と書かれていた。11ページ目にはその発現方法が掛かれてあった。それもまた至って簡単な方法で、12ページ目は白紙、その先のページは破かれていた。


「おい、お前らすぐに海パン持って浜岡崎海水浴場に集合しろ」

山下はこの透視能力を試してみようと思った。ダメで元々。その時は海に来ている女を普通にさらえばいい。そう考えたのだ。


 全員が散り散りに自宅に向かったのを確認してから、山下は最後の2枚を破り、近くのコンビニのゴミ箱に捨てた。本当に使える能力なら自分以外の誰にも知られたくないと思ったからだ。


 残りの部分はこの5人で試してみよう。ホントに使えない能力なのかどうか。そう思った山下は4枚残したノートをその手に握りしめたまま海へと向かった。自分の海パンは先日女から奪った金で現地調達する事にして…


 30分後、海水浴場に集合した6人はすぐに海水パンツに着替えた。

「いいか、俺が海に入って女を物色するから、合図したら全員俺のところに集まれ。そしてそこにいる女を全員で押さえろ。いいな」


 波打ち際に5人を残して、山下は海へと入っていった。この透視能力が使えるなら、海水などない陸地と変わらない。いくらでも女を物色出来る。更に水着の中身まで見えたら、スタイルまでばっちり分かる。好みの女がいたら5人を呼んで身動き出来ない状態にして、海の中で犯してやる。そう考えていた。


 足がつくかつかないかギリギリのところまで歩み、そこで透視能力を使った。


ー約1時間後・・・


 山下は浜辺に打ち上げられていた。溺れたらしく、2度と息をすることはなかった。


 『透視能力の欠陥:本来「視る」という行為は、太陽、街頭その他光が当たっている物がその光の一部を反射してこそ「視る」事が出来る。そして眼球が光を感知してこそ、そこにあるものが判る。


 透視とは、眼球が光を拒絶して成立する。例えば目の前の壁を透視しようとするなら、その壁が反射した光を拒絶しなければならない。しかし光を拒絶している以上、壁の向こうにある何かの光も同様に拒絶することになる。


 究極は太陽、月、その他の星々の放つ光さえも拒絶することになり、この能力を発動したものは一瞬にして文字通りの闇に覆われる』


 13ページ目にはこのような注意書きがあったのだが、すでに破かれた後であり、山下がそれを知ることはなかった。


 追記

その時山下は、一瞬で周りが真っ暗になり、上下左右も分からないまま足元を波に掬われ、そのまま海の底へと沈んだのだった。

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