「愛するって何?」
“彼女”と出会う前
俺は昔から他人にあまり興味がなかった。
自分のことを周りがどう思おうが関係ないし、正直自分が嫌な気持ちにならなければいいと思っている。
――俺が楽しく毎日過ごせればいい。
他人と関わる上で一番大切にしていることはそんな自分勝手なことだった。
加えて言ってしまうなら、俺にとって誰かが傷つくことなんて自分に関係のないこと。誰が泣いていようと、知ったことではない。
そんな冷血な男に対し周りが「優しい」と言うのは、きっと自己防衛から出る優しさを本当の優しさだと勘違いしているからだろう。
俺が周囲に優しくするのは、誰かが自分のせいで傷つくのを見たくないから。いくら自分勝手に生きているからといって、さすがに故意的に誰かを傷つけるほど俺は壊れていない。自分のせいで誰かが泣いている、なんて最悪な気分になるだけだ。
そんな上っ面で自分勝手な優しさを周囲の人間は信じ込んでいて、時々虚しい気持ちになる。誰か自分の中の冷たさに気付いてくれないだろうか、なんて柄にもなく思ってしまうこともある。
かといって本性を表に出すと、またいろいろと面倒臭い。
「こんなに冷たい人だとは思わなかった」
「もう少し私に興味を持ってよ」
勝手に押し付けられた期待にそぐわなければ、そう言って突き放される。
俺だって人間だ。そんな風に言われる度、傷ついた。浅いはずだった傷跡も、何度も傷つけられるうちに段々と深くなって、自分では修復不可能になっていた。
だからある日、俺は他人と深く関わるのをやめた。
――本性を出して傷つくくらいなら、本性を悟られないくらい距離をとろう。
それなら誰も傷つけないで済むし、俺だって傷つくことはない。優しい仮面をかぶるのだって、そう難しくない。
少し寂しいような気もしたけれど、楽しく生きる上で必要なことなのだから仕方がないと割り切って生きることに決めた。
そう思っていたはずなのに、彼女と出会って俺の中の何かが変わり始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます